Essay

北朝鮮の核保有は 日本存亡の危機Vol.309[2018年6月号]

藤 誠志

アメリカ大統領の判断は
常に再選目的だ

 雑誌「選択」の二〇一八年四月号に「『日米同盟の深化』という虚構—トランプは日本をもっと突き放す」という特別リポートが掲載されている。冒頭を引用してみよう。「開催されるとすれば、歴史的な米朝首脳会談は五月、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅大統領の南北首脳会談並びにトランプ・安倍の日米首脳会談は四月中に相前後して開かれる。米国にすれば朝鮮半島の非核化を実現するまたとないチャンスであるし、金委員長にとってはこれまで何度となく米国に用いてきた詐術を文大統領を利用して世界に披露しようとする」「三月二十九日に、南北首脳会談の日程が固まり、韓国には弛緩した和平ムードさえ漂っている。しかしそんな空気は一気に吹き飛びかねない」「敏感に事態を察知した中国は三月二十五日から四日間にわたって金委員長を北京に呼びつけて、慎重な対応を促した。金正恩がテーブルを介して向き合うのは、トランプ大統領、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官という米政府内でも最強硬派のトリオであって、『ディール』と称してトランプ大統領が示すかもしれないいささかの譲歩も左右の側近が阻止しよう。『対話』よりも最大限の『圧力』をトランプ大統領と一緒に唱えてきた安倍首相は、日米首脳会談で『圧力』の必要を説いたら逆に笑われるだろう。拉致問題も抱えている日本は北朝鮮問題に関するかぎり、米国の超タカ派と手を組む以外の選択はあり得ない」「当面の主役はトランプ、金、文の三人で、安倍首相と習近平中国国家主席の二人は脇役だ。が、朝鮮半島越しに米国による中国への反撃はすでに始まっている。米政権は中国に狙いを定めた制裁や輸入制限に踏み切り、時期を合わせたように米海軍は南沙諸島近くにミサイル駆逐艦『マスティン』を投入し、『航行の自由』作戦を実施した。さらに、台湾との間で閣僚級の当局者が相互に渡航、会談できる法案に大統領が署名している。米中が険悪な関係になる中で、安倍首相は日中関係改善を安易な気持ちで進められるのか」と論じている。トランプ大統領が次々と閣僚を辞任に追い込み、メディア批判を繰り返しているのも、中国に対して貿易戦争を仕掛けているのも、全て再選のためであり、今年の中間選挙に勝利するためのものだ。世界のトップは再選のためには嘘もつくし、人も殺すし、戦争も始める。トランプ大統領の北朝鮮への対応についても、この基準に沿った判断を行うはずだ。

南北和解ムードが一転
軍事力行使の可能性も高い

 雑誌「THEMIS」二〇一八年四月号の連載「日本警世」では、ジャーナリストの高山正之氏が「朝日新聞が〝忖度〟する朝鮮半島『統一』の願い 巻き添えミサイルが間もなく飛んで来ようとしているのに!」というタイトルの文章を書いている。冒頭の部分の小見出しは「米国が真珠湾攻撃を仕向けた」だ。「金正恩は『米国の老いぼれた狂人を必ず火で制する』(昨年六月)といった。この正月にも『米本土全域が我々の核攻撃の射程内にあり、核のボタンは私の机の上に常にある』といった」「その悪態を流す北朝鮮のテレビは、ニューヨークに核爆弾が落ちて火の海になる映像を流した」「トランプをさんざん罵っても、米紙はトランプこそ揶揄すれ、北の侮りは全く無視しているように見える。米国の来し方を見れば、それは信じられない対応だ」「米国は過去、自分の裏庭のちっぽけな島国グレナダで気に食わない男が政権を取っただけで米軍が本気で叩き潰しにいった。パナマも同じ。指導者のノリエガを捕らえて米国の監獄に長い間ぶち込んだ。やり方は習近平の支那と同じだった」「いや、相手が小さい国だからそういう勝手ができたのだというなら日本の場合はどうだったか。フランクリン・ルーズベルト(FDR)はニューディール政策が破綻し、国内経済の立て直しは『もはや参戦しかない』(渡辺忽樹『フーバー回顧録・裏切られた自由』)と考えた」「FDRはそのきっかけ作りだけのために日本を挑発した。日本など彼らにとっては目障りな黄色い国でしかなかった。真珠湾を攻撃させて『あとは三か月で叩き潰す』(同)はずだった」「近衛文麿は金正恩みたいに罵詈を一言もいわなかった。腰を低くして丸一年も首脳会談を懇請したが、FDRは一切聞く耳を持たなかった。その揚げ句がハル・ノートだった」と歴史的なアメリカのスタンスを振り返る。
 その上で「『明日にも和解』から一転する」という小見出しで、以下の様に文を続ける。「米国人が北朝鮮にどう対応するかはその歴史が教えてくれる。北朝鮮が米大陸まで届くICBMとそれに搭載する核爆弾を手に入れようとしている。武力で止めようとすれば報復でソウルが火の海になり韓国人が何万も死ぬ。そんなことを米国人が配慮するはずもない」「黄色い人間がソウルで何万人死のうが気にもしない。日本だって同じことだ。巻き添えで何万も被害が出ようが、お構いなしだ」「おまけに北朝鮮は過去、何度も非核を約束し、何度も破った。九〇年代には非核を誓って軽水炉と石油を貰いながら平気で裏切った。時の国務長官オルブライトは『Rogue(ならず者)』と罵っている」「日米の新聞は暢気に構えるが、日本の中枢部では『明日にも和解が』という段階で(北朝鮮の核とミサイルの関連施設を叩く)鼻血作戦が実行されると見る」と書かれているように、トランプ大統領が限定的な軍事行動を起こす可能性は、依然として非常に高い。

北の核兵器容認は
反日の朝鮮連邦国家を生む

 これらの状況を踏まえ、私はApple Town二〇一八年五月号の本稿に、次のように書いた。「アメリカ軍は限定的な軍事行動を起こす際でも、まず全面戦争の準備を行うが、それには七〜八カ月かかる。すぐにでもアメリカが北朝鮮に対して軍事行動を始めるという見方もあったが、それは無理だ。そもそも北朝鮮の核開発は中国侵攻に対する防衛の為のもので、既にそれは成し遂げた。今可能性が増しているのは、韓国が北朝鮮に屈服して、核兵器を保有した朝鮮連邦国家が誕生することだ。北朝鮮が核で報復されない相手に核攻撃を行う場合、相手は同胞である韓国ではなく日本だ。二度の原爆投下を受けた日本が、また核兵器の被害者になってしまう可能性は高いのではないか。習近平帝国となった中国は、アメリカを凌駕する国づくりのために、いずれこの朝鮮連邦国家を従えて日本に突きつける刃として利用し、日本の大中華圏への取り込みを図ろうとするだろう。今こそ日本は憲法改正で自衛隊を軍と認め、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を締結して、核バランスをとらなければならない。」すでに完成した核兵器は保有したままでよいが、さらなる核実験やミサイル発射実験は行わないということが、米朝首脳会談において北朝鮮に対して認められてしまえば、私が書いた通り、北が韓国を併合し、核兵器を保有し、八千万人の人口を擁する反日国家・朝鮮連邦国家が現実味を帯びてくる。この国は韓国から引き継いだ従軍慰安婦や徴用工の強制連行、北朝鮮から引き継いだ戦前戦後賠償を理由に、日本に莫大な額の金を請求してくる可能性が高い。しかし歴史の真実をしっかり見れば、朝鮮を併合した日本は多額の費用を投入して、当時世界一と呼ばれた水豊ダムを建設するなど、インフラ整備を行い、朝鮮全土に五、二〇〇の小学校、四七〇の中学校、高等学校師範学校他を日本国内(本土)の大阪帝大や名古屋帝大よりも先に、京城帝国大学も設立したのだ。これら日本が残した資産が、戦後朝鮮半島の経済や教育の基盤となっていることを考えれば、日本が賠償を行う必要など全くないはずだ。

世界覇権を目指す中国は
日本の一自治区化を狙う

 この日本列島に突きつける刃のような朝鮮連邦国家を、中国が利用しないわけがない。先の大戦末期、アメリカなどから莫大な軍事支援を受けていたソ連は軍事的なモンスターになり、ヨーロッパからアフリカ、アジアまで、広範囲に世界を赤化する勢いを持つようになった。アメリカはこれを抑えるためのオフ・セット戦略として日本に原爆を投下、世界赤化を巡って勃発直前だった第三次世界大戦という「熱戦」を、その後長く続く「冷戦」に変えた。二期十年という主席の任期を撤廃、習近平帝国と化した今の中国は、先の大戦後にソ連ができなかった世界制覇を果たそうとしているのだ。二〇四九年の中華人民共和国建国百年までに、中国はアメリカを凌駕して世界覇権を握るという長期戦略に従って動いている。アメリカを凌ぐための必須条件として、中国は核を持つ朝鮮連邦国家を利用して、日本の技術と人材、資金を大中華圏に取り込もうとするだろう。日本が将来、内モンゴル自治区やチベット自治区のように、中国の一自治区に成り下がるかもしれないのだ。今は日本とアメリカの間に緊密な同盟関係があるために、中国は簡単に日本に手出しできない状態だ。しかし「選択」や「THEMIS」の記事にあるように、トランプ大統領が再選のみを考えて独断的な判断を行ったり、日本や韓国を顧みない判断を行ったりした場合には日米関係が著しく毀損され、その結果、米中のバランスが大きく崩れることになるだろう。
 ヨーロッパでナチス・ドイツの戦争にイギリスとフランスが巻き込まれた理由は、この二国がポーランドとルーマニアの独立を保障していたからだ。軍事力が不十分な英仏がこの保障を行ったのは、背後にアメリカのルーズベルト大統領の参戦の約束があったからである。これは誤った見通しによる約束が戦争を拡大するという歴史の教訓だ。米朝首脳会談の結果は、大きく日本の将来を左右する。第二次世界大戦の轍を踏まぬよう、トランプ大統領には正しい見通しに基づいた判断と交渉を望む。まずトランプ大統領は、この首脳会談で北朝鮮の核を容認するような安易な妥協をしてはならない。もし金正恩が核を放棄しないのならば、協議は早々に打ち切り、限定公開空爆を実行するべきだ。この空爆はまず金正恩に対して、政権の転覆や彼の命を狙うものではないと宣言、核兵器の施設やミサイル関連施設など、百カ所程度の場所と時間を指定した上で、巡航ミサイル・トマホークやB‐2爆撃機による精密攻撃を敢行する。この「物理的処理」によって、まず北朝鮮が核兵器を使用できない状態にし、さらに破壊しきれなかった核兵器も、その後日本に向けられることがないよう、検証可能な形で廃棄させる必要があるだろう。
 北朝鮮危機は日本存亡の危機と言っても良い。しかし日本の世論と国会は、森友問題、加計問題をまだ追求する朝日新聞と、それに同調するマスメディアに翻弄されている。本当はそんなことを追求している余裕は日本にはない。安倍首相をはじめとした日本政府は全力でアメリカに働きかけ、北朝鮮の核兵器容認を阻止し、限定公開空爆の実現へと持っていかなければならない。そこで強調するのは、限定公開空爆から核廃棄までの流れは、長い目で見ればアメリカ自身のための行動だということだ。北朝鮮の核が残れば、それは朝鮮連邦国家成立のきっかけとなり、日本に向けられる刃となる。中国がこれに乗じて日本を大中華圏に取り込めば、アメリカは世界覇権を失って中国に屈服することになる。北朝鮮問題での日本の危機は、同時にアメリカの危機でもある。早くトランプ大統領にこのことを気付かせなければならない。

2018年4月20日(金) 17時00分校了