争いに巻き込まれない戦略を取る方針を固めた
日本経済新聞の九月二日付朝刊に、「アフガン戦争 終結宣言」「米、海外関与の縮小鮮明」という記事が掲載されている。
「バイデン米大統領は八月三一日、海外での紛争解決への関与をできるだけ減らす方針を鮮明にした。中国とロシアは米国のアフガニスタン撤収の間隙をついて地域での影響力の拡大をもくろむ。再び大国のパワーゲームの舞台となりつつあるアフガン情勢は日本にも重い課題を突きつける。」
「『他国を造り替えるための大規模な軍事作戦の時代の終わりだ』。バイデン氏は同日の演説でアフガン戦争の終結を改めて宣言。アフガンでの民主国家の建設が失敗に終わったと事実上認めた。」
「米国は最新鋭装備の提供や訓練などでアフガン政府軍を支援したが、『米軍頼み』の姿勢は変わらずイスラム主義組織タリバンの攻勢になすすべもなかった。『アフガン政府軍が戦う気力のない戦争で米兵は戦えない』。バイデン氏はこう主張する。」
「『中国やロシアが望むのは米国がこれからさらに十年のアフガンの泥沼にはまりこむことだ』。」
「バイデン氏の発言には中国との覇権争いにあたって、もはや余裕のない米国の焦りがにじんだ。」
「バイデン政権は中国の台頭に照準をあわせた米軍の態勢見直しを近く終える。」としている。今やアメリカは、世界の地域での争いに巻き込まれない戦略を取る方針を固めた。その間隙を縫って、中国とロシアは影響力の拡大を狙ってきている。また、アフガニスタンには、日本と同様に先の大戦で敗戦国となったドイツから約二十年間で十六万人が派兵され、五十九人が命を落としている。戦後一名の戦死者も出していない日本において、国際貢献のためとはいえ、自衛隊員が命を失うことを許容できる空気があるだろうか。それが日本を守るための犠牲であれば、受け入れられるのだろうか。
八月二十一日付の東洋経済ONLINE「アメリカ軍『アフガン撤退』日本と韓国への意味」というスタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー氏による記事は以下の様に述べる。「アメリカでは評論家たちが、ヨーロッパやアジアの同盟国がアメリカの決断や信頼性に疑問を投げかける一方、中国とロシアは、急いでその戦略的空白に入り込もうとしている」「ヨーロッパ側の懸念は如実に見て取れるが、それも無理はない。NATO同盟国は自国の軍隊をアフガニスタンの戦争に派遣したものの、今度は大慌てで軍隊や外交官、関係者を撤退させなければならなくなったのだ」「一方、韓国と日本では、今のところまだヨーロッパほどの切迫感はない。両国は今やアメリカの海外駐留軍事力が最大規模で集中する国となり、アメリカ海軍・空軍・陸軍合わせて総勢八万五〇〇〇人近くが駐留している」「筆者が韓国と日本の元高官や現職顧問らと最近行った会話の中では、アフガニスタンでの混乱は、アメリカと同盟国との関係の重要性を一段と確信させることにつながっていると感じた。極東アジアの政治家たちは、アフガニスタン政府と軍が自国を守るために戦うことを放棄したと指摘するバイデン大統領に同調している」「『カブールの陥落は、考えられているほどアメリカとの同盟関係を損なうことにはならないのではないか』と、元外交官で現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹を務める宮家邦彦氏は話す。『アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領らは、アフガニスタンの国民を助けなかった。彼らはそのツケを払わなければならない。日本も自ら戦って自己防衛する意思を持たなければ、アフガニスタンと同じようなことになるだろう』」。日本は正にこのアフガニスタンの悲劇を教訓にすべきであり、日本人も自ら戦う姿勢を見せなければ、日米安保があったとしてもアメリカは日本を助けない。東アジアにおいて中国、ロシア、アメリカのパワーバランスが変化する中において、自衛隊の戦力の増強を図る一方、憲法改正を急いで自らを自らの手で守ることのできる独立自衛の国にならなければならない。
先の大戦後、日本が経済復興を果たしたのは、米ソ冷戦による漁夫の利によるものだった。そして今、日本は米中冷戦による経済的な漁夫の利を享受している。しかしいつまでも漁夫の利を得るのではなく、付加価値の創造によって日本を豊かにしていかなければならない。そのためには、超低金利の今のうちに長期国債を大量に発行して、大々的にインフラ整備に投資することが必要だと私は考える。
どのようなインフラを造れば良いのか。例えば、最高速度を時速一三〇㎞に設定した高規格高速道路網の整備だ。ヨーロッパであれば、ドイツのアウトバーンには速度無制限区間が存在し、走行車線を遅く走る車は注意される。フランスの高速道路も通常であれば最高速度は時速一三〇㎞、雨等天候不良の場合は時速一一〇㎞と定められている。アウトバーンの速度無制限区間では「速い車が優先」というのがルールであり、遅い車は即座に道を譲らなければならない。制限速度を守っていれば道を譲る必要のない日本とは、価値観が全く異なる。そもそも車の性能が格段に向上した今、最高速度が時速一〇〇㎞に制限されている根拠は、道路の設計が高速対応になっていないからだ。
高速道路はできるだけまっすぐに造るべきであるが、眠気防止のためにあえてクロソイド曲線といった緩やかなカーブを造った。これを時速一三〇㎞程度のスピードでも安全に走行できる道路にするべきである。日本でも二〇二〇年十二月から、新東名の御殿場JCT浜松いなさJCT間一四五㎞で、ようやく最高速度が正式に時速一二〇㎞に引き上げられた。これはこの区間が、従来の高速道路の最も高い規格の約三倍となる「曲線半径三〇〇〇m」という、カーブが非常に緩やかな設計になっているからだ。「A規格」という新しい規格に基づいて造られたのがこの区間であるが、このような高規格の高速道路を造るのであれば車線の幅を広げて、できるだけまっすぐなヨーロッパのアウトバーンのような速度制限のない高速道路にすれば、日本でもヨーロッパ並の車による高速移動が可能になり、その経済効果は絶大である。
長期国債でのインフラ整備
鉄道もさらなるスピードアップが望まれる。YAHOO!ニュースに八月三〇日付で、神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏の投稿「北陸新幹線敦賀延伸が引き起こすこと」が掲載されている。これによると、北陸新幹線は二〇二四年の敦賀駅延伸開業を予定しているが、これに伴って大阪駅、京都駅、名古屋駅発の福井駅や金沢駅行の特急列車は全て敦賀駅止まりになり、必ず北陸新幹線に乗り換えることを余儀なくされるという。北陸新幹線の大阪延伸開業は二〇四六年の見込みであり、それまで二十二年の長きに亘って、関西圏、中部圏の人々の北陸行きの利便性は大きく損なわれることになる。そもそもこの北陸新幹線の構想は一九六五年に遡り、「北回り新幹線」として東海道新幹線が災害等で利用できなくなった時に、東京~大阪間の輸送を補完する役割を担う計画だった。であれば、北陸新幹線は米原までの延伸を優先し、そこから東海道新幹線への乗り入れを行う計画に変更して、早期に大阪までのルートを開通させるべきではないか。また、現在リニア中央新幹線の計画が進行しているが、これも早急に札幌から鹿児島までを繋ぐリニア新幹線計画に拡大させ、日本中を鉄道で高速に移動できるようにするべきだろう。このような高速道路の高速化や北陸新幹線の延伸、日本を貫くリニア新幹線の整備を、低金利の長期国債によって行うのである。インフラ整備により移動速度が早くなることによる経済的なメリットは、金額に換算すれば何兆円にも及ぶだろう。投資の何倍ものリターンが見込めるのだ。
長期政権が日本には必要
振り返ってみれば、一九六四年の東京オリンピックに向けては、首都圏を中心に数々のインフラ整備が行われた。首都高速道路は一九六二年の京橋~芝浦間の開通を皮切りに、一九六四年九月までに一号、二号、四号、そして三号の一部が開通した。また一九六四年十月一日には、東京と大阪を四時間で結ぶ東海道新幹線が開通した。その他にも、国立競技場と開会式を行った駒沢公園を結ぶ国道二四六号や、ボート競技の行われた戸田競艇場に向かうための環状七号線等、首都圏の一般道路も大幅に整備された。五十七年前には、これだけのことを一気に行ったのだ。しかし今回の東京オリンピックに向けては、何一つとして刺激的なインフラ整備事業は行われていない。しかし、大々的なインフラ投資を行うことによって、その波及効果で日本は一気に経済復興を果たすことができる。
国債を発行することを、孫子の代にツケを回す行為だと批判する人もいるが、日本の国債はそのほとんどが国内で消化されていて、非常に健全な形となっている。例えばギリシャのように国債の大半を他国の銀行が引き受けていた場合には、いざ問題が発生した場合にギリシャ危機のような他国を巻き込んだ金融危機が発生するが、日本の場合にはそうはならない。新たに国債を発行した場合も、主に国内での資金調達によってインフラ投資することになるだろう。コロナ禍で経済が傷んでいる今、日本経済はその潜在能力を発揮できず、国民は繁栄を享受できていない。前回の東京オリンピック時のような大胆な経済政策が喫緊の課題として求められている。これを具体的に計算して計画をし、反対論を封じることができる勇気ある政治家が、今求められている。
九月二十九日には自民党総裁選挙が行われる。九月三日に菅首相が今回の総裁選挙に出馬しないことを表明したために、また新たなリーダーを日本は選ぶことになった。菅首相は数々の功績を残したと思うが、それでも一年しか持たなかった。本稿が出る頃にはもう結果が判明しているとは思うが、代わり映えのしない首相が次々と毎年登場し、何もしないうちに終わることがないよう、能力と魅力のある人物を自民党には選んで欲しい。そして新しい首相には、しっかりとした歴史観、世界観、国家観の下、日本を独立自衛の国とする確固たる意思を持ち、さらに大規模なインフラ投資を行うことができる大胆さも兼ね備えて、今後の日本の舵取りにあたってもらうことを私は強く望んでいる。
2021年9月15日(水) 11時00分校了