日本を語るワインの会229

ワイン229恒例「日本を語るワインの会」が会長邸で行われました。スタンフォード大学での生活が五十年にも及ぶスタンフォード大学フーヴァー研究所教授の西鋭夫氏、数々の選挙で逆境にもめげずに獲得票数を伸ばしてきた衆議院議員の稲田朋美氏、自衛隊から政治の世界に入って十五年になる参議院議員の佐藤正久氏、自民党スタートアップ推進議員連盟の事務局長を務める衆議院議員の今枝宗一郎氏、三月に上梓した最新刊『永田町中国代理人』が高い評価を獲得している元衆議院議員の長尾敬氏をお招きし、今アメリカでリアルに起こっている民主党の危機など、最新の政治情勢について議論を交わしました。
自衛隊を攻撃していたのは
地主など一般のイラク人
 二〇〇四年、イラクのサマワに佐藤正久氏を隊長とする陸上自衛隊のイラク復興業務支援隊が派遣された。その際、宿営地が迫撃砲やロケット弾で攻撃されることが頻繁にあったのだが、それはイラク軍の残党等ではなく、一般の人々による仕業だ。イラク陸軍が一晩で消滅したというのは良く知られているが、兵士は軍服を脱いで民衆に紛れ、武器弾薬は地下マーケットに流れていった。だから一般の人々が武器を豊富に持っていて、気に食わないことがあると、迫撃砲をぶっ放す。例えば自分の家の前の道路を自衛隊が直してくれないというだけで、砲撃が来るのだ。
 自衛隊は宿営地として広い土地を借りた。その理由は見晴らしが良い方が、自爆テロの車両対策が取りやすいからだ。車がスピードを出せないようにハンプを作るとか、いろいろと工夫がされていた。複数のイラク人地主がいたのだが、難しいのは公平性を保つことだ。地主は自分の土地から出たゴミは自分のものだと考えている。日本から届いた物資が木枠に入っていると、その木枠が欲しいので行方をじっと見守っている。劣化したので交換した車両の古タイヤも同様だ。これらを地主達に公平になるようにそれぞれの土地に置かないと、揉め事になってまた迫撃砲弾が飛んでくる。部族も複数存在するのだが、大酋長の下に中酋長、さらにその下に小酋長と繋がっている。正しい筋から仁義を切っていかないと大変なことになるのだ。一部の報道ではサマワの自衛隊の装備が貧弱と言われていたが、機関銃や装甲車を含む重装備で現地に行っている。しかし隊員にとっては家族や日本国民からの応援が活力源だった。政府も何かあれば後の面倒は見るから、安心して活動しろと言ってくれていた。
 西鋭夫氏は博士号を取得後、スタンフォード大学のフーヴァー研究所から声が掛かったのとは別に、CIAからもスカウトされていた。アメリカの大学には必ずCIAのリクルーターをやっている先生がいて、外国人で利口で発想のユニークな人間を探している。西氏はCIA入りにも心が惹かれたが、国籍をアメリカに変更しなければならないと聞いて、断念した。佐藤正久氏がイラクで雇用した隊長用の通訳は、CIAから紹介された人物だった。通訳から情報は漏れるものなので、信用できる人物を雇う必要があったからだ。もし西氏がCIAに入っていたら、一年間のトレーニングの後に東京のアメリカ大使館勤務になったという。給料は破格ではなかったが、カンパニー(CIAのこと)が一生面倒を見ると言われたそうだ。
アメリカで「爪を隠す」と
本当に馬鹿だと思われる
 二〇〇五年の郵政選挙で「刺客」として自民党の候補者となった稲田朋美氏は、「落下傘ではなくおっかさんです」というキャッチフレーズで見事、小選挙区で当選した。その後は順風満帆な政治家人生だったが、防衛大臣就任が暗転のきっかけとなる。防衛省は非常に複雑な組織であり、陸海空それぞれの文化や歴史も違う。さらに制服組と背広組の微妙な関係もある。稲田氏もこれらを理解するのに一年掛かったという。結局辞任することになったが、精神状態も優れず、その直後の二〇一七年の五回目の選挙が大変苦痛だった。この時に稲田氏を支えたのは、中谷彰宏氏からのハガキに書かれた「心は自分で折らなければ、誰にも折ることはできない」という言葉だったという。結局見事得票数を伸ばして当選した。二〇二一年の六回目の選挙も苦しかった。基本稲田氏は夫婦別氏制度に反対だが、旧姓を社会的呼称として法的に使用可能にする案を法務委員会で発表してから、別氏に賛成だと見做されてバッシングを受けたからだ。ありとあらゆる稲田朋美落選運動が展開される中、それでも過去最高の得票数で当選した。
 元々僻地医療に携わる医師だった今枝宗一郎氏が注力するのは、静かなる有事と言える少子高齢化の対策だ。日本の国力は今落ちている。物価が上昇し、円安が急速に進んでいる。一ドル百五十円になったら、誰も海外に行かなくなるだろう。しかしメディアはその危険を一切報道しない。日本には言ってはいけないことが多すぎる。長尾敬氏の著書『永田町中国代理人』には、メディアでタブーとなっている国会議員の中国贔屓の実態が赤裸々に描かれている。アメリカには基本、言ってはいけないことはない。日本では「能ある鷹は爪を隠す」というが、アメリカでは爪を隠していると、本当に馬鹿だと思われる。
スタートアップ企業に
潤沢に資金が渡る社会に
 ウクライナ戦争に関わる言論空間も変だ。右も左も全員がロシアのプーチン大統領を悪、ウクライナのゼレンスキー大統領を善と決めつけている。これと違う意見を言おうとすると、排除する風潮がある。誰もが同じ意見を言う社会は変だ。今回のこの空気は、戦略的コミュニケーションによって形成されたものだ。アメリカは量子コンピューターを活用してロシアの暗号を七五%解読、今回の侵攻を事前に公表していたのも、これがあったからだ。その上でプーチン悪、ゼレンスキー善という雰囲気を作って、アメリカに利益が回るようにしている。実際アメリカはコロナからの回復で好景気になっていて、人手不足も顕著だ。インフレでも小売は好調で、軍需産業は作る兵器がどんどん捌けている。石油もこれまでの四倍の価格でヨーロッパに輸出している。アメリカは大儲けなのだ。
 日本は軍民融合が一向に進まない。世界では、まず軍事の世界で採算性を度外視した投資が行われて研究開発のレベルが上がり、その果実である技術が民間に還元されるという好循環が作られている。中国では習近平主席自身が軍民融合委員会のトップだ。しかし日本は量子コンピューターもAIも文科省が予算の主導権を持っていて、防衛省に来る予算は全体の数%に過ぎない。これでは他国に敵わない。
 民主主義国家では、IT企業が個人情報を国家に提供することは基本ありえない。しかし権威主義国家である中国では、アリババでもどこでも、企業が個人情報のビッグデータを国に提供している。このデータ量の差はAI等の研究に決定的な差を与えることになるだろう。中国では個人的な情報を国に与えれば与えるほど融資等で優遇されるので、皆積極的に情報提供を行っている。また監視カメラと顔認証システムによって、誰がどこにいるかがほとんど把握されている。AIがもう少し進めば、犯罪を犯してもすぐに捕まる社会になるのではないか。
 スタートアップ企業への投資も、アメリカと日本ではケタが違う。最近スタンフォード大学で騒ぎになったのは、学生十数人が起業のために一斉に大学を辞めたことだ。大学寮に住む二十歳の三年生の学生が、ベンチャーとして四十億円の資金調達に成功、寮の仲間を誘ったからだ。大学側からは才能が盗まれたという声もあったが、そんなことを言っている間にさっさと才能を認めて、お金を出すべきだったのだ。アメリカには投資したいというお金がたっぷりとあり、こんな資金調達話がごろごろしている。日本人はお金の話をするのは良くないと思っている傾向があるが、アメリカ人はお金好きが染み込んでいて、恥ずかしいとか卑しいという感覚は一切ない。こういう点は中国人と同じで、だからアメリカ人と中国人は仲がいい。自民党スタートアップ推進議員連盟は、今日本でベンチャー企業に投資されている八千億円という資金を、五年で十倍にするという野心的な目標を設定した。経済安全保障にも気を配りながら、グローバルに資金を調達しようとしている。日本のスタートアップは日本市場しか視野になく、時価総額も数億円や数十億円レベルのものが多いが、世界をマーケットにした一千億円レベルの企業を生み出していかなければならない。
十一月の米中間選挙で
「共和党大勝」は確実だ
 アメリカのバイデン大統領が人気がないのは、石油価格の高騰を許してしまったからだ。車社会のアメリカでは、ガソリンの高騰に一番多くの人が腹を立てる。貧富の差は益々酷くなっており、金持ちが逃げ出したサンフランシスコやロサンゼルスは、かつての美しさが一切失われた汚さだ。金持ちは今後の食糧難を見越して、アイダホやモンタナの田舎の大農場を購入して移り住んでいる。
 日本のメディアが一切報道しないのは、トランプ前大統領がいかにアメリカ人に人気があるかだ。トランプ応援団は日本の阪神ファンに通じるものがあり、選挙に負けようが一切応援を止める気はない。そもそも二〇二〇年のアメリカ大統領選挙では、コロナを恐れたバイデン氏は自宅の地下室から一切出ずに選挙活動を行っていたのだ。通常それで勝てるわけがなく、FOX以外の全てのメディアが民主党寄りだったこともあるのだろう。バラク・オバマ元大統領にせよ、ヒラリー・クリントン元国務長官にせよ、民主党の大統領や大統領候補には隠しても隠しきれないスキャンダルがつきまとっている。このままでは、この十一月の中間選挙で共和党が大勝し、民主党の議員を議会の査問委員会に次々と呼び出して、その悪事を暴くことになるだろう。バイデン大統領がなぜウクライナ支援に熱心なのか。それは自分の息子がウクライナから金をもらっていたからだ。このこともまた蒸し返されるだろう。
 稲田朋美氏もその言葉で救われた中谷彰宏氏は、日本で一番本を出している人だ。とにかく人の心を掴む言葉を次々と発してくれる。「成長したらご連絡しますと言う人は、既に成長している」とか、「チャンピオンは倒れない人ではなく、倒れても立ち上がる人」とか。「褒められたら、あなたから褒められたら一番嬉しいと返すべき」とは、スマッシュを打たれたら、スマッシュで返すべきという至言だ。