Big Talk

新型コロナ騒動は世界がゼロから再起動する機会Vol.350[2020年9月号]

駐日パナマ共和国 特命全権大使 カルロス・ペレ
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APAグループ代表 元谷外志雄

古くから金や財宝の積み出し拠点として繁栄、大西洋と太平洋を結ぶ海運の大動脈・パナマ運河を有していて、今も中米七カ国の中で最も経済発展が進むパナマ共和国。特命全権大使のカルロス・ペレ氏に、このパナマの産業構造や世界遺産を中心とした観光スポット、国としての今後の展望等をお聞きしました。

カルロス・ペレ氏

1974年生まれ。1995年ラテンアメリカ科学技術大学(パナマ・シティー)産業工学専攻卒業、2018年ADENビジネススクール(パナマ・シティー)リーダーシッププログラム修了。507 Tactical Shop、Athens Pizza and Coffee Unitedのオーナー、Cable & Wireless Panamaの商業広告ディレクターを経て、2019年10月から現職。

二〇一六年に改修が終了
重要性を増したパナマ運河

元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。ペレさんは随分若く見えるのですが、年齢はおいくつでしょうか。

ペレ 今日はお招きありがとうございます。私は今四十五歳です。毎晩顔にクリームを塗って就寝していますから、その効果もあって若く見えるのかもしれません(笑)。

元谷 パナマには十年ほど前訪問して、パナマ運河を見学しました。私はエジプトのスエズ運河を訪れたこともあります。この二つの大運河を両方とも見たという人は、案外少ないのではないでしょうか。パナマ運河の見ものは、船が山を登ることでしょう。運河は閘門と呼ばれる開閉式の門に仕切られたいくつもの閘室から成り立っていて、閉じた閘室に水を入れることによって、船をどんどん高い地点にまで上げていくのです。一番高い地点にはガトゥン湖があります。ここは正に太平洋と大西洋を結ぶ海運の要衝で、パナマと言えば運河を思い出す人が多いでしょう。パナマという国としても、この運河の通航料が最も大きな収入源となるのでしょうか。

ペレ 運河の運営事業による収入は非常に安定していて、パナマにとって重要な産業になっているのは確かです。しかし他にも第三次産業を中心とした収益源があるのが、パナマの魅力です。広大な免税地帯であるコロン・フリーゾーンは、中南米諸国と世界を結ぶ中継貿易の一大拠点です。また便宜置籍船制度によって、多くの世界の船がその船籍をパナマに置いています。さらに充実した国際金融センターもあり、商社や不動産業を営む国際的な企業もあります。運河関連を含む第三次産業での収益は、GDPの七割を占めています。パナマの一人当たりGDPは約一万六千ドルで、これは中米七カ国で最も高いものになっています。

元谷 順調な経済発展を遂げているのですね。

ペレ はい。先にパナマという国の基本的な情報をお話しておきましょう。中米に位置するパナマは、北西でコスタリカ、南東でコロンビアに接し、北はカリブ海、南は太平洋に面しています。面積は日本の北海道よりも少し小さいぐらいです。人口は約四百十八万人、首都はパナマ・シティーになります。白人、先住民、黒人の混血が人口の七割を占めるのですが、その他土着の民族もあり、多種多様な民族構成になっています。公用語はスペイン語で、多くの人がカトリックを信仰しています。パナマには紀元前一万年から様々な民族が居住しており、彼らが作った鉢や盃等の工芸品が発見されています。十六世紀になるとスペイン人による征服が始まり、植民地化が進みます。この時代からパナマはペルーの膨大な金や財宝等の輸出拠点として、重要な役割を果たしていました。十八世紀に芽生えた自由の気運から、一八二一年、シモン・ボリバルらに率いられた独立戦争によって、大コロンビアの一部としてパナマはスペインからの独立を達成します。一八八〇年代にはスエズ運河建設に成功したフランス人・レセップスによるパナマ運河建設が進められますが、技術や資金の不足から失敗に至ります。また二十世紀初頭にコロンビアの内戦に巻き込まれたパナマは、アメリカの助けも借りて一九〇三年にコロンビアからの分離独立を行います。アメリカによってパナマ運河の建設も進められ一九一四年に完成しますが、アメリカとの条約により、パナマ地峡の中心にアメリカの支配管理地域を設けることになってしまいました。この地域の返還を巡っては一世紀近い間交渉が行われ、一九九九年に運河の全ての統治権がパナマに返還されました。

元谷 運河を巡って、アメリカとの間に様々な歴史があるのですね。十年前にパナマ運河に行った時に、より船腹の広い船の通過も可能にするために、運河の拡幅工事を行うという話を聞きました。もう完成したのでしょうか。

ペレ 四年前の今日、二〇一六年六月二十六日に拡幅工事は完成、運河の幅が従来の二倍になりました。

元谷 そうでしたか。アメリカの東海岸で生産されたシェールガスを太平洋側に運ぶのに大きな船が必要で、そのための改修と聞いていました。

ペレ その通りです。またシェールガス以外にも、運河はアメリカの東海岸と西海岸との双方向の物流に利用されています。その結果、アメリカがパナマ運河の最大の利用国になっているのです。船で運搬した方が、列車やトラックで輸送するよりもコストが安いですからね。

元谷 確かにその通りでしょう。以前中国の資本が第二パナマ運河を建設しようとしましたが、現在は中断しているとか。原爆を使って山を掘る等、非常に荒っぽい計画だったと記憶しています。

ペレ それはニカラグアでの事業です。中国政府ではなく、民間の億万長者による私的なファンドが建設を行っていました。日本円にして数兆円規模の予算の事業でしたが、資金と環境対策の問題から現在、工事は中断しています。パナマ運河の全長は八〇キロメートルなのですが、予定されていたニカラグア運河の全長は二六〇キロメートルと長さが全く異なっています。そもそも無理な計画だったのではないでしょうか。三十年前、パナマ運河を三日間で漕ぎ切るカヌーによるレースに出場したことがありますが、とてつもなく疲れました。今同じことをすれば、間違いなく心臓麻痺を起こします。

歴史と自然を味わえる
五つの世界遺産

元谷 サービス業以外の産業はどうなのでしょうか。

ペレ 今はまだ規模が小さいですが、将来の成長が期待できるものとして、ゲイシャ種という品種をはじめとした様々な種類のコーヒー栽培があります。元々はエチオピアからパナマにコーヒーが入ってきていたのですが、一八七〇〜八〇年頃から自国でもコーヒーの栽培を始めるようになりました。ゲイシャ種の原産地はエチオピアの「ゲシャ」という村だったのですが、ここから名前をとって通りが良いように「ゲイシャ」と名付けたのです。コーヒー栽培は主に、標高一五〇〇〜一七〇〇メートルの寒暖差の大きく、霧が発生して気温が抑えられているエリアで行われています。この環境が高品質の源となっているようで、スペシャルティコーヒーの栽培も近年盛んになっています。アパホテルでも「アパ社長コーヒー」を販売されていますが、パナマのコーヒーと一緒にプロモーションできれば…と考えています。

元谷 機会があれば、よろしくお願いします。前回私がパナマを訪れた時は、パナマ運河を見ただけですぐにコスタリカに戻ってしまったのです。今度訪れる場合には、じっくり観光をしたいと思います。季節としては、いつ訪れるのが良いでしょうか。

ペレ 夏が訪れるのには一番良い季節だと思います。今、日本からパナマへの直行便はなく、航空会社と交渉を行っている真っ最中です。直行便であれば、成田空港からパナマ・シティーのトクメン空港まで十五時間で飛ぶことができます。この空港をパナマのフラッグシップエアラインであるコパ航空が本拠地としていて、世界中の八十二都市との路線を持っています。

元谷 いくつかおすすめの観光スポットを教えて下さい。

ペレ パナマには二つの世界文化遺産と、三つの世界自然遺産があります。首都、パナマ・シティーにあるのが「パナマ・ビエホとパナマ歴史地区」です。この地区を象徴するのが、十七世紀に作られた石組みの大聖堂です。その他にも修道院や病院、町議会棟等の跡が残り、十七世紀に全盛を迎え、海賊に火を放たれて機能を失った古の街の様子を窺うことができます。太平洋側のパナマ・シティーから北へ約一〇〇キロメートル、カリブ海側に残るのが、もう一つの文化遺産、「パナマのカリブ海側の要塞群」です。銀の積出港であるポルトベロを守るために、十六世紀末から十七世紀前半に整備された要塞は、湾の入り口に二つ、港の中に二つ、街中にも一つ。これらの跡を見ることができます。自然遺産としては、太平洋側に浮かぶコイバ島にある「コイバ国立公園」がおすすめです。サンゴ礁やクジラ等、様々な生物と遭遇することができます。コスタリカと共同管理する「アミスター国立公園」は、中米の中でも標高が高く、最も古い手つかずの熱帯原生林が広がります。コロンビアとの国境に広がる「ダリエン国立公園」にはハーピーイーグルやトゥカン等、三百種類の鳥類が生息しています。

元谷 いずれも興味深いスポットですね。ところでパナマ料理と言えば、どんなものがあるのでしょうか。

ペレ パナマでは水と油で炊いたお米が主食となります。お米を使った料理も多数あり、鶏肉や野菜、オリーブやケッパーをお米と一緒に炊いたチキンライスは、とても人気のあるメニューです。その他にお肉とチーズが詰まったパイ、エンパナダスや緑のバナナをスライスして揚げたパタコネス、牛肉を割いて煮込んだロパビエハ等、様々な伝統的な料理があります。

元谷 食事の方も非常に期待できそうですね。

日本人の規律正しさを
世界が見習うべき

ペレ 現在の新型コロナウイルス禍で人の往来が制限される中、ラテンアメリカ諸国の航空会社で生き残れるのは三社程度になるのでは…と見ています。経済も縮小していますが、来年七月には必ず東京オリンピックが開催されることを願って、今私はスーツにオリンピックのピンをつけています。

元谷 オリンピックの再度の延期はあり得ないでしょうから、来年に開催するか中止となるかのいずれかでしょう。ようやく日本に招致できたオリンピックですから、私も是非開催して欲しいと思っています。開催できるかどうかは、来年の今頃、世界の感染状況がどうなっているかによるでしょう。現在でも南北アメリカ、アフリカ、中東、インド等で感染が拡大しています。来年、日本での新型コロナウイルスの感染が収まっていても、感染拡大が続いている国があれば日本に選手団を送り出すことができず、オリンピック開催は無理でしょう。私は来年の東京オリンピック開催の確率はフィフティ・フィフティだと考えています。

ペレ 私も同感です。日本は準備できると思いますが、世界が準備できるかどうかでしょう。パナマの新型コロナウイルスの感染者数は約三万二千人で、現在も感染が増え続けています。

元谷 日本の感染者が今、約一万八千人です。パナマの人口は日本の約三十分の一ですから、感染者が随分多いように思えます。

ペレ 感染の拡大を抑えるためにも、私はパナマが日本から学ぶべきものが沢山あると感じています。衛生管理ももちろんですし、遵法精神や教育制度も学びたい。さらに私が強調したいのが「規律」です。政府の指導の下、強制されることなくステイホームやテレワーク、ソーシャルディスタンシングを実行しているのです。これは是非見習うべきものだと考えています。

元谷 仰る通り、日本人は清潔志向が強く、帰宅時にはきちんと手を洗いますし、除菌等にも気を配っている人が多いです。元々冬から春にかけては、インフルエンザや花粉症対策として、マスク着用が当たり前になっていました。緊急事態宣言下でも、八割の接触削減を多くの国民が目指しました。しかし日本の感染者数の少なさは、それらだけが原因でしょうか。データで見ると、中国、韓国、台湾、日本の人口百万人当たりの死者数が一桁なのに対して、イギリスやイタリア、フランス、スペイン等のヨーロッパ諸国やアメリカでは、百万人当たりの死者数が数百人に上っています。東アジアと欧米の差が五倍十倍であれば、まだ誤差とも考えられるでしょうが、百倍異なるとなると、なんらかの明確な理由が存在するはずです。私にはその理由が清潔志向や規律だけでは弱いと思うのです。また中国、韓国、台湾、日本に共通な理由があるはずなのです。最も簡単なこの四カ国の共通点は、黄色人種であることです。これは全くの仮説ですが、黄色人種以外の人に対して感染力と致死力の強いウイルスを、誰かが生物兵器として作り出したのではないでしょうか。これを研究していたのが、武漢のウイルス研究所ではないかという疑惑があります。ばらまく意図はなかったのですが、研究員が偶然外部に出してしまって、それが広まったという可能性もあるのではないかと考えています。

ペレ なるほど。

元谷 大量破壊兵器に分類されるものには、核兵器、化学兵器、生物兵器があります。核兵器は爆発による放射能と直接爆発に晒された半径数十キロメートルの人や物しか破壊しません。化学兵器もそれが使われたエリアのみ有効なものでしょう。しかしウイルスのような生物兵器は、人が媒介となって世界中に広がっていきます。今回の新型コロナウイルスの致死率は今のところ数%だと思われますが、その一〇倍、一〇〇倍の致死率のウイルスが蔓延した場合には、人類が滅亡する恐れもあります。もちろんそのようなウイルスを意図的に開発する人は、自身が感染しないようにワクチンも同時に開発するでしょう。今回の新型コロナウイルスは生物兵器ではないかもしれませんが、世界のどこかで兵器としてのウイルス開発を企てている人がいると思うと、とても怖い気がします。

ペレ 全世界の国民、国家が、そのような生物兵器開発には最大限の批判を浴びせるべきだと思います。世界のどの国でも平和や健康、貧困対策が一番重要なのであって、これらの問題の解決のために全力を注ぐべきなのです。

元谷 その通りですね。

ペレ 今回の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大をポジティブに捉えると、ステイホームによって自由な時間を得ることができるようになったとも言えます。テレワークで通勤時間が無くなり、大事な人と多くの時間を一緒に過ごすことができたはずです。そんな風に人々が自分達を見直して、世界がゼロから再起動する機会だと考えればいいのではないでしょうか。

元谷 確かにそういうタイミングですね。全く同感です。

若い時の教育が
その後の人生を左右する

元谷 日本の自衛隊は、憲法第九条から軍隊ではないという位置付けです。パナマの隣国のコスタリカには軍隊が無いというのが有名ですが、実際には警察軍という形の武装組織があります。パナマには軍隊があるのでしょうか。

ペレ かつては国防軍がありましたが、一九八九年のアメリカ軍によるパナマ侵攻によって解体され、警察力を主体とした国家保安隊に再編されました。一九八五年に国の権力を握ったノリエガ将軍でしたが、マネーロンダリングや麻薬の売買等が発覚、アメリカは反ノリエガ派のエンダラを支持して大統領に当選させますが、ノリエガ将軍はこの選挙を無効としました。それを受けて、アメリカが侵攻を行ったのです。国家保安隊は治安維持のための武装はしていますが、軍隊とは異なります。パナマ国内でも今、安全保障を考えてもっとしっかりとした軍事組織を持つべきだという議論が行われています。隣国のコロンビアで人身売買や麻薬取引が盛んに行われていて、そちらに睨みを効かせたいという意図もあるのです。

元谷 世界各国にとってもパナマ運河の存在は重要です。これを守るために、パナマに軍事的な支援を行うという国も多いのではないでしょうか。

ペレ パナマ運河に何らかの安全保障上の問題が生じた場合、まずアメリカ軍が来て守ってくれることは確かでしょう。しかし現状ではコルティソ大統領の下、対外的な安全保障も国内の治安もしっかりと保たれています。さらに今パナマ政府が目指しているのは、貧困を撲滅して国民の生活レベルを向上させることです。そのためにも世界各国から安心して投資を行えたり、観光で訪れたりできる国になるべく、努力を積み重ねているところです。

元谷 パナマは大統領制なのですね。政治制度はアメリカと同じなのでしょうか。

ペレ はい、酷似しています。大統領は国民の直接選挙によって選ばれ、任期は五年、連続した再選は禁止されています。二〇一九年に当選したコルティソ大統領は、約三三%の得票率を獲得しました。また立法府として一院制の議会があります。ここで法案を審議して、大統領が認証を行うという流れになります。パナマには大きな政党が三つあり、その他に小規模な政党もあって、議席を競っています。

元谷 今日はパナマについていろいろなことがわかりました。

ペレ また是非パナマに。代表のスケジュールに合わせて私もパナマに帰国し、国中をガイドさせていただきます。最高の旅をアレンジしますよ! パナマにくれば、必ずパナマを愛するようになります。

元谷 はい、是非再訪したいと思います。パナマのホテル産業にも興味がありますし。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。

ペレ 大学時代、十七歳で最初に就いた仕事がホテルのフロント業務でした。夜の二十三時から朝六時までの夜勤でしたね。父はアメリカ駐在の外交官で、私もアメリカの学校で教育を受けました。若い時にどのような教育を受けるかが、その後にどのような人生を歩むかを左右します。若い人はこのことを良く考えて、学校を選んで欲しい。あと日本から何か一つだけパナマに持ち込むとしたら、私はやはり「規律」を選びます。

元谷 日本でも規律は大分緩んできているのですが…。

ペレ それでもパナマとは違います。日本の規律正しさをパナマの人が少しでも学ぶことができれば、最高です。

元谷 今日は様々なお話を本当にありがとうございました。

ペレ ありがとうございました。

対談日:2020年6月26日