危機を迎える中国経済
十月八日の日本経済新聞朝刊一面に、「中国、預金準備率下げ」「今年三回目 貿易戦争激化、景気下支え」という見出しの記事が出ている。「中国人民銀行(中央銀行)は七日、市中銀行から強制的に預かる預金の比率を示す預金準備率を一ポイント下げると発表した。一五日から実施する。大手銀行の標準的な準備率は一五・五%から一四・五%に下がる。今年三回目の引き下げで累計の下げ幅は二・五ポイントに達する。米国との貿易戦争が激しくなる中、秋以降の景気を下支えする狙いがある」という。日経は、同じ日の四面にも「中国、株急落警戒で先手」「預金準備率下げ 人民元には下落圧力」という見出しで一面の記事を補足して、「中国が二〇一八年に入って三回目の金融緩和に動いた。習近平指導部が米国との貿易戦争による打撃で景気の先行きに危機感を抱いていることを裏付けた。海外上場する中国企業の株価急落も懸念したとみられる。米国と欧州が利上げや金融政策の正常化に動く中での追加金融緩和は通貨人民元の下落圧力を高めそうだ」という記事を掲載している。中国に優しい日経らしい記事だが、実態はもっと過酷だ。雑誌『選択』の十月号の「『バブルと崩壊』日本の二の舞いに」「中国経済は『失われた二十年』へ」という記事には、もっとリアルに今の中国の状況が描かれている。「中国にとってトランプ大統領に仕掛けられた貿易戦争はどんな意味を持つのか。歴史的にみれば、日本が一九八五年に経験した『プラザ合意』とその後の急激な円高が最もよく似た経済現象になるだろう」「これから中国は日本がかつてたどったように『超金融緩和』政策に向かうしかなく、それは中国バブルをさらに悪化させる。中国人民銀行は日本銀行の失敗を避けることができるのか?」「今、中国経済ではっきりしているのは、株式は『売り』、不動産は『買い』ということだけだ。中国を代表する株価指数、上海総合指数は三月に米中貿易紛争が勃発して以来、一本調子で下げ続け二千七百を割り込んでいる。直近の高値である二〇一五年春に比べ四〇%以上もの下落だ」「一方国家統計局が公表する『主要七十都市の不動産価格指数』は四月には前年同月比四・七%増だったが、七月には五・八%増まで上昇幅が拡大した。投資家は米中貿易戦争による企業収益の悪化と世界経済への打撃を織り込んで、株式を売って、行き場を失った資金が流れ込み始めた不動産市場に賭け始めている」「中国が対米貿易戦争の影響に対して取れる唯一の選択肢は金融緩和による国内経済への刺激策だ」「大都市部の不動産は一三年以来大反発の時期が近い。理由は単純だ。金融緩和の資金の行き先が不動産市場しかないからだ。習政権は発足以来、『不動産投機は庶民の利益に反する』と厳しい姿勢を示し、個人投資家が投機目的で買う二軒目以降の住宅への銀行融資を規制したり、不動産王といわれる大連万達集団の王健林氏に国内の手持ち不動産物件を売却させたり、海外不動産の処分も迫った。だが今、習政権は不動産デベロッパーが大型案件を開発できるよう銀行に融資拡大を指示するなど様変わり」「その後の展開は一九八五年以降の日本をみればわかる。不動産市況の急落とともに国有企業、不動産開発会社、投資会社などが保有していた物件が担保価値を下回り、銀行が不動産を差し押さえ、企業破綻が相次ぎ、次の波は銀行、証券、保険会社の破綻となる。だが、中国共産党にとって重要な企業や金融機関は人民銀行からの特別融資、“人民銀特融”で救済される。金融危機は回避できても、経済全体にモラル・ハザードが広がり、中国を去った外資や中国の製造業を埋める新しい企業が誕生する勢いも弱まる。潜在成長率は高齢化、人口減少もあって低下していく」「貿易戦争以降の中国経済は、日本がたどった『失われた二十年』とよく似た苦境に見舞われることは確かだ」としている。
そんな中発生した十月十日の米国発の株価暴落は、米国と中国とのいがみ合いが貿易問題を超えてお互いの体制にまで及んできたことと、ここのところの米国の長期金利の上昇に因るものであり、株価暴落は日本にも、アジアにも世界にも広がり、その後も株価は乱高下を繰り返しながら下落しているが、基本的には中国株価の下落と日米の株価の下落は違っていて、日米の株価は近いうちに安定してきて再び上昇に転ずるであろう。
米国労働者の賃金抑制と
失業率上昇の阻止である
翻ってみると、中国経済がここまで急激に発展してきたのは、冷戦真っ只中で中ソ対立も厳しかった一九七一年、アメリカがベトナム戦争からの名誉ある撤退のために中国に急接近し、米中共同声明などで事実上の国交回復を行ったことにある。そして一九七九年、正式に米中は国交正常化を行う。アメリカは、経済的に豊かになれば中国はいずれ民主化するだろうと考えていた。「革命を輸出しない」「台湾を侵略しない」「侵略戦争をしない」という三条件を飲ませることで、アメリカは中国を自由貿易の相手国として認め、この流れは他の西側諸国にも広がった。その結果、中国の低賃金の労働者が作る低価格の商品は瞬く間に世界中に広がり、中国は世界の工場となった。特に消費大国・アメリカは中国にとって一番のマーケットになった。グローバル経済は、資本を持つ企業経営者にとっては富を増やす千載一遇のチャンスだが、労働者にとっては賃金を抑制し、失業を生み出すものに他ならない。アメリカの対中貿易赤字が拡大するに伴って、アメリカの労働者の失業率も上昇した。二〇一六年のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が自国第一主義と貿易赤字の解消を主張したのは、この失業に晒された人々の支持を得るためだ。そして大統領となったトランプ氏は公約を実行して貿易赤字を減少させるために、中国がアメリカで開発された技術やノウハウを盗んだり、勝手に使ったりしていると糾弾し、その制裁として中国からの輸入品に高額の関税を掛けることを実行に移したのだ。これまでの貿易摩擦は扱われる輸出入品の金額や量が問題となっていたが、今回の米中貿易戦争のテーマはそれらとは異なり、もっと根本的なものだ。
アメリカが中国に厳しく当たっている、こんな絶好のチャンスに日本はのこのこと中国に出掛けるのではなく、日本の固有の領土である尖閣諸島にちょっかいを出すのはやめろと主張すべきである。
中国から離反するアジア
先の大戦後、唯一の原爆保有国として世界覇権を握ったアメリカだが、ソ連が四年遅れで核実験に成功し軍事大国化し、相互確証破壊(MAD)の確立で東西冷戦の時代を迎えた。しかしその後アメリカのレーガン大統領はソ連を軍拡競争に引きずり込み、スターウォーズ計画を掲げる軍拡戦略でソ連経済では追いつけないレベルにまで軍事費を高め、ソ連の崩壊を引き起こした。日本はこの冷戦漁夫の利で世界第二位の経済大国にまで上り詰め、バブル経済絶頂期の頃は、東京二十三区の地価でアメリカ全土が買えるほど地価が高騰した。しかし一九九〇年の不動産融資総量規制や一九九三年三月末に金融機関に本格適用されたBIS規制によって、状況は一変する。BIS規制では国際決済銀行となるためには、融資等リスク資産に対する自己資本率を八%以上にすることが求められ、この基準を達成するために各銀行が融資を大幅に抑え始めた。その結果不動産への投資も激減し、土地バブルが崩壊すると同時に、日本の好景気も雲散霧消、失われた二十年が始まることになる。これと同じことが、これからの中国に起きるのだ。
中国は建国から百年となる二〇四九年までに、あらゆる面でアメリカを超える超大国となり、世界覇権を握ることを目指す「百年マラソン」戦略を行っている。二〇一三年に国家主席に就任した習近平はこの方針を強化、そのために中国は国家主席の任期を撤廃、習近平独裁・共産党一党独裁体制を強め、一帯一路政策で中国を中心としたネットワークの構築を図っている。その一環として、中国は製造業による過剰な生産財の輸出で集めた資金を、アジア各国の鉄道などインフラ整備に巨額融資を提供してきた。しかし中国の融資に頼り切るインフラ投資で、債務超過になることへの恐れが、急速にアジア各国に広まっている。この流れの中でパキスタンやマレーシアがインフラプロジェクトの縮小や中止を決定。九月に行われたモルディブの選挙では、親中の現大統領が中国の脅威を恐れる国民により落選させられ、新政権は中国が関わる全てのプロジェクトを見直すとしている。また中国が主導して二〇一六年に発足したアジアインフラ投資銀行(AIIB)への資金も、中国銀行の信用力不足から十分には集まっていない。そんな状況の下、トランプ大統領は、中国がアメリカの知的財産権を侵害しているという理由で、追加関税措置を発動して、七月、八月に約千百品目、五百億ドルの中国からの輸入品に二五%の関税を掛ける措置を行っている。アメリカは今年から本腰を入れて中国を潰そうとしている。米中間の争いは貿易戦争ではなく、新米中冷戦となってきたと言えるだろう。
ここまで書き進んだところで今朝(十月十三日)の読売新聞の一面に、以前私と鋭く意見交換をし、その中で「最近の国際情勢の混乱はアメリカのオバマ大統領に原因がある。ウクライナに関しても、アメリカは最初にロシアをしっかりと牽制するべきだったのに、そうしなかったためにクリミア半島はロシアの支配下となってしまった」と語っていた米戦略家 エドワード・ルトワック氏の「覇権米中攻防 長い対立の始まり」との記事を見つけたので紹介する。
貿易や産業政策などで対立が激化している米中関係について、「長期的な対決が始まった」と指摘した。そのうえで「トランプ政権の対中政策はトランプ大統領が去った後も継続される。米中の対決は習近平政権が終わるまで続くだろう」と見通しを語った。
インタビューの中で、ルトワック氏は、「米中は、大砲の代わりに、投資や研究開発、そして中国の場合には先端技術の窃盗を用いて戦っている」とし、「これはビジネスの問題ではない。中国が支配する世界、中国に牛耳られた経済の中で生きていくかどうか、という問題だ」と解説した。
習政権については、「世界を理解する力が低くなっている」とし、「対決を回避する正しい判断ができていない」と懸念を示した。
十一面には「中国支配の世界 阻止」とのタイトルで文章が続く。
親中派は激減
―貿易などをめぐる米中の対立が激化している。「米中は戦争のように戦っているが、大砲の代わりに、投資や研究開発、そして中国の場合には先端技術の窃盗を用いている。中国企業は米国の先端技術を盗み、自分のものにして大きくなった。それらの中国企業は、中国の国家安全省とつながっており、米国は問題視している。貿易摩擦が起きたのは、トランプ大統領が先端技術の流出を止めようと決意したからだ。これはビジネスの問題ではない。中国が支配する世界、中国に牛耳られた経済の中で生きていくのか、それとも複数の極がある世界で生きていくのか、という問題だ」
「中国の習近平国家主席は、二〇〇八年のリーマン・ショックによって米国が衰退し、中国が台頭していくと信じている。十五年に策定した産業政策『中国製造二〇二五』は、中国が世界中のコンピューターを作り、米国は大豆を作っていろ、という内容だった。これでは米国に対し、『対決しか選択肢がないですよ』と言っているようなものだ」
―ペンス副大統領が今月四日に演説し、強靭な対中政策を示した。
「ペンス氏の対中政策演説は、長期にわたる対決が始まったという公式な表明だ。演説で指摘されたことはどれも、トランプ、ペンス、両氏特有のアイデアではなく、ワシントンで合意された内容を述べたと言える。米国でも親中派は激減しており、両氏が去ってもこの政策は継続する。単なる政治演説ではなく、国家声明として受け止めるべきだ」
知財盗ませず
―中国側は米国の変化をどう受け止めているのか。
「習政権の中国は日増しに内向きになり、世界を理解する力が低くなっている。胡錦濤前国家主席の時代には、北京の中国社会科学院に少なくとも十二~十三人の著名な米国専門家がいて、米国に調査に来ては、最高指導部(党政治局常務委員)にそれぞれ助言していた。ところが今は、二人の専門家が習氏に助言しているだけで、しかも十分な機会が与えられていない。中国外務省もプロパガンダが中心で、機能していない」
「習氏が世界を理解していない一つの表れが、十五年にオバマ米大統領(当時)に『南シナ海を軍事化しない』と面と向かってウソをついたことだ。これは国際社会でやってはいけない大きなミスだ」
―南シナ海で緊張が高まっている。安全保障面の影響は。
「地政学の時代には、対決は戦争によって終わったが、米中対決は主に地経学の戦略によって争われている。南シナ海で米中の軍艦が接近しても、米中とも戦争を仕掛けるつもりはない。仮に中国艦が米艦に衝突すれば、米艦にたたきのめされるだけだ」
―長期の対決では、米側も打撃を受けるのでは。
「この対決では、経済的なダメージを最小化することが求められる。我々は中国の旅行者が来なくなることや中国への輸出市場を失うことを望んでいない。しかし、米国や日本の企業をチェックなしに中国企業に買わせたり、先端技術を盗むことを許したりすることは終わりにしなければならない」
日印などと連携
―対決はいつまで続くのか。
「この対決がいつまで続くのかはわからない。おそらく習政権が倒れるまで続くだろう。もちろん、中国指導部がどこかで交代し、『平和的な台頭』路線に戻る可能性は論理的にはある。いずれにしても、我々は守るべきものを守り、あとは待つだけだ。私は、米国の勝利に絶対の自信がある。米国にはインド、日本、ベトナム、オーストラリアなどとの連携があり、より多くの人口、技術、製品、資金を有する。必要なのは協調していくことだ」
まさに私と意見を同じくする、非常に優れた米軍事戦略家ルトワック氏である。日本は彼の意見を参考に一日も早く憲法を改正して、独立自衛できる国となるべきだ。
この米中貿易戦争、米中冷戦によって中国経済のバブルが崩壊する。この影響は中国のみならず、日本をはじめとした東アジア諸国全域に広がるだろう。また今後北朝鮮は潜在核保有国として韓国を併合して、核を保有した朝鮮連邦が誕生する可能性がある。この経済的危機やバランス・オブ・パワーの崩壊による危機をいかに乗り切るか、日本も今から様々な対策を行う必要がある。まず考えるべきは防衛力強化のための憲法改正だ。衆議院、参議院共に憲法改正賛成の議員が三分の二の議席を占めている今こそ、自衛隊を明記するなどの憲法改正の発議を行うべきだ。そして来年五月一日の新天皇御即位、新元号の施行に合わせ、衆議院を解散、衆院選と憲法改正の国民投票のダブル投票を、一大国民運動の下に行い、現憲法の改正条項に基づいても憲法改正はできるのだという実績とすべきである。東アジアの緊張は日に日に高まっている。
2018年10月15日(月) 11時00分校了