元谷 本日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。高邑さんは山口県のご出身ということで。山口県には防府市にアパホテルがあるのですが…。
高邑 存じ上げています。よく、パーティーで利用させて頂いています。
元谷 また山口といえば長州藩ということで、高杉晋作など維新の志士のことがすぐに思い浮かびます。
高邑 私が中国に留学したのも高杉晋作の上海行きの影響です。
元谷 高杉は上海でアヘン戦争に敗れた中国の悲惨な状況を目の当たりにし、「日本を同じ状況にはしない」と心に決めたといわれています。
高邑 外国の軍隊に国を守ってもらおうとすると、国を失う。富国強兵の大切さに気付くわけです。
元谷 そこでまず長州藩の実権を握るための行動に出るのですね。
高邑 当時長州藩は西洋列強と幕府という二つの圧力に晒されていたのですが、高杉は伊藤博文らと功山寺挙兵を行って藩の実権を握るわけです。
元谷 それを実行したのが、高杉晋作がまだ二十五歳の時だったというのが驚きですね。高邑さんもまだまだお若いですが(笑)。サラリーマンからすぐに留学したのですか?
高邑 日本生命、メリルチンチと勤めた後、まず鈴木寛議員の秘書になりました。その時に自らも郷里の山口に帰って、鈴木議員を支える国会議員になりたいと思うようになって。そこで「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という考えから、中国で勉強しようと思い立ったのです。
元谷 なるほど、そういうことだったのですね。世界は昔も今も情報謀略戦に満ちています。私は「敵を知り己を知って欲しいように知らしめれば百戦危うからず」だと考えています。相手を知るのは当然ですが、自分を素のままで知られては、攻めどころを教えるようなものです。今の日本外交は諸外国に素っ裸を見せていますが(笑)。外国に対するスタンスも「友愛の海」などあまりにも稚拙です。
高邑 日本国憲法の前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して…」とありますが、信頼できない人を信じても駄目です。
元谷 中国には何年ぐらい滞在していたのですか?
高邑 四年半になります。居れば居るほど、中国の弱点が見えてきました。
元谷 外面と内情の違いもつぶさに見てきたのではないですか。中国共産党の一党独裁を維持するためには、絶え間ない経済発展が必要です。少しでも経済に陰りが見えてきたら、内乱によって国が崩壊する可能性があるのです。
高邑 その通りで、実は中国も非常に苦しいのです。そこで共産党統治の正当性が問われると、歴史問題を引っ張り出すなど外に敵を作ろうとします。
元谷 特に江沢民時代は、「日本の軍国主義の復活を許すな」など現実離れした日本批判で国内の体制維持を図っていました。傍迷惑な話です。しかしこれに真面目に反応して、謝罪外交を繰り返してきた日本政府の罪も重い。アメリカにせよ中国にせよ韓国にせよ、各国はそれぞれの国益に沿った主張をしてくるのですから、日本も国益に沿ってきちんと反論するべきなのです。昨年の尖閣諸島での中国漁船の事件の時の対応も、日本の国益に沿ったものとはとても思えないものでした。
高邑 決して日本の国益を無視して行った対応ではなかったはずなのですが…。これまで退去させることしかできなかった違法操業の中国漁船の船長を逮捕したのは、一歩前進だと思います。
元谷 逮捕するのであれば、最後まできちんと処理しないと。落としどころを考えずに始めるのでは、子どもの喧嘩と同じです。
高邑 そこは私も稚拙だったと思います。しかし船長の勾留延長を決定した時には、中国側は相当戸惑っていました。
元谷 中国政府も一旦拳を振り上げた以上、次第に過激さを増した発言をせざるを得なくなっていたのでしょう。この辺りは外交経験の乏しい民主党の落ち度だったのではないでしょうか。日本政府も中国のあの激しい反応は想定外で、かなり狼狽えたように見えました。
高邑 私のような一介の議員にも、中国語がしゃべれるというだけで「解決の糸口を見つけてこい」という命が下り、中国に飛んで大使館を通さずに政府要人と会って、官邸サイドのメッセージをニュアンスも含めて伝えました。本来は外務省が行うことなのでしょうが…。政治が官僚をしっかりグリップし、信頼できていなかったことの証しですね。その後中国もトーンダウンし、衝突映像が公開されると非難の声もぴたりとなくなりました。
元谷 なぜあの映像をもっと早く公開しなかったのでしょうか?
高邑 私も同感です。国益にも叶うことなのですから。昨年九月に私をはじめとする民主党の保守系若手議員が政府に映像の公開を提案したのですが、果たせませんでした。
元谷 一色正春氏のリーク映像は出たのですが、逮捕シーンを含めてまだ公式に画像は公開されていません。しかし実際にはリークによって中国からの抗議が止まった。政府として、非常に情けないことだと思います。
高邑 刑事事件の証拠だから公開できないという理屈なのですが、そもそもこれは政治責任を持つ政府が外交判断で処理した事件ですから、国民に公開すべきです。そして政治の責任として経緯を振り返って、こうすべきだったと検証して公表する。うやむやにするのが、一番良くないでしょう。
元谷 尖閣諸島の問題の他に、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土を訪問するなど、日本との間に領土問題を抱える各国の動きが盛んです。これは民主党政権が海外から軽く見られているためではないでしょうか。領土を守るのは国の基本ですから、少しでも問題のある行動には抗議するとか、しっかりと国土を死守して欲しいですね。
高邑 おっしゃる通りです。竹島はすっかり韓国に実効支配されてしまっていますが、この過去からの経緯を今からご破算にすることはできません。戦略的にことを進めていかないと。「独島博物館」のある鬱陵島の視察のために韓国を訪れようとした自民党の議員団が、入国を拒否されました。相手の出方を探るという目的から考えると、あの行動は尊敬に値すると思います。
元谷 痛いところを突かれたにせよ、入国拒否というのは韓国も過剰反応です。メディアももっと彼らをバックアップすべきでしょう。日本のメディアは国益を重視せず、どこの国のメディアなのか、見ていてわからなくなることが多いですね。
高邑 しかし、入国を拒否された議員団の行動は、結果としては何も得られなかったのでは…。
元谷 実効支配はされていますが、竹島は日本の領土なのだという世界に向けてのアピールになったと思います。その目的から考えると、入国拒否も想定内だったでしょう。日本的な考え方としては、よく「相手に刺激を与えない」という方向に傾きがちなのですが、これは国際外交では通用しません。刺激を与えないために映像を公開しないとか、島に上陸しないなどという判断が多いのですが、本来国際政治は各国の国益のぶつかり合いですから、もっと日本は様々なことを強く主張していくべきではないでしょうか。
高邑 北京大学留学時に、私は日本人留学生会の副会長的な立場にいて、その関係で学生の反日デモ隊と交渉する機会がありました。彼らが言うには、「デモに訴えるのは中国が弱いから」。中国のデモというのは、外に向けて主張しているようで、実は国内向けのメッセージを多く含んでいるのです。
元谷 反日デモが一瞬にして反政府デモに変わる素地があるのが、今の中国の状況です。
高邑 北京でのデモは、結局中国政府が学生を集めて親日的な幹部の講演を行うなどで沈静化しました。しかし翌週今度は上海で学生デモが発生、政府はあわてていました。中国政府は常に「ジャスミン革命」が起きる恐怖を感じています。日本はそれをわかった上で中国との交渉に臨むべきなのです。
元谷 オリンピックや万博の需要で景気高齢化への道を辿ることが予想されています。高齢化問題に加え、内政問題と経済問題もあり、中国は課題山積の状態です。来年の体制変更がどうなるかがひとつのポイントでしょうね。日本政府としても、属人的にもいろいろと中国から情報をとれる体制を整備すべきです。
元谷 この二十年間で世界のGDPは二倍に、中国だけであれば八倍にまで伸びているのに、日本のGDPは停滞したままです。リーマンショックから東日本大震災、そして円高と日本経済の先行きは非常に不透明です。そんな中、野田政権は増税を行おうとしていますが、私はこれには疑問を感じています。
高邑 台湾は今や法人税率が一七%です。日本では実効法人税率が四◯~五◯%だと思いますが、五%下げるのでも財務省から反対が出ます。
元谷 震災前に出ていた法人税減税を行うにせよ、一時的な増税は避けられないという方針のようです。私は景気を冷やす増税よりも、長期償還の建設国債を発行してインフラ整備を行うべきだと考えています。
高邑 民主党代表選で私が支持しました馬淵澄夫議員も同じ考えです。
元谷 そうですか!建設するものとしては、例えば二〇〇一年に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」を活用して、山手線の地下に循環道を、年利一%以下で五十年償還の国債を発行して建設するのです。通行料金を金利にあてれば、余分な負担なしにインフラ建設が可能となります。道路整備による物流スピードアップなど経済的波及効果は非常に大きいですよ。
高邑 馬渕議員は、デフレ脱却の観点からも六十年償還と訴えていました。
元谷 他にも高速道路の多車線化とか、最高時速が百三十キロメートルの道路とか、建設すべきインフラが日本にはまだまだあるのです。
高邑 戦略港湾とか、コンビナート地帯の防災にも目を向けたいですね。
元谷 私は被災地を特区にして防災マンションを建設しては…というアイデアを持っています。六階建てのマンションであれば、十カ月あれば完成します。被災者の土地とこのマンションの部屋を交換するのです。防災マンションを海岸線に直角に、二百メートルおきに建設します。津波警報が出れば屋上へ。今回の震災クラスの津波でも六階分の高さがあれば大丈夫です。また百メーター走れば逃げ込めますから、津波を目視してから避難しても間に合います。今回クラスの津波を防ぐために巨大な防波壁を作るという考えもあるようですが、建築期間が長くコストも高く、さらに景観の邪魔になるなど、デメリットが多すぎます。
高邑 防災マンションであれば目に見えて安心ですし。今私は南相馬市に深く関わっているのですが、原発事故の影響があって復興計画は全てこれからなのです。今の代表のアイデアを提案してみます。
元谷 お願いします。原発事故の問題ですが、科学的に正しくない報道が多すぎます。もっとメディアが勉強しないと。また電力会社や政府もこれまで絶対安全を言い過ぎて、万が一の対策を怠っていました。これも改めるべきです。
高邑 私も頻繁に事故原発から半径二十キロ以内の警戒区域に入っていますが、線量計をつけて被曝量を測定しています。六十日程度入って、まだ累積線量は一ミリシーベルトに達していません。このように自分で測ると安心です。見えないことが恐怖をあおるのです。
元谷 線量計を配ればいいと思うのですが…。
高邑 これまでは文部科学省が、配ると子どもにレッテルを貼ることになると、止めていたのです。今は市町村長の判断で配布できるようになったので、一部でスタートしています。
元谷 あと避難の方法も問題が多い。同心円を描いて二十キロ以内は全て避難というのは乱暴です。実際避難したストレスで亡くなった方もいらっしゃいます。放射能さえ浴びなければ、ストレスがかかろうが金銭的に問題が出ようが構わないという判断がおかしいと思うのです。さらにあの緊急時避難準備区域というのはどうなのでしょう。蛇の生殺しのような…。
高邑 私も、現場に長くいるので同感です。空間線量の低い緊急時避難準備区域については、早急に、解除できるところはした方が良いと思います。ただ避難区域に指定することで、避難に伴う精神的な苦痛や費用などを補償の対象にすることができるようになったのです。
元谷 そういう意味もあったのですね。本当に健康被害がある、ないをしっかり検証して、避難区域を速やかに解除していく必要があるでしょう。
高邑 放射線の影響に関しては、今でも生きている被災地の牛などの家畜たちがいます。これを集めてデータをしっかりとって公表するのです。すでに五百頭の家畜を集め、データをとる体制ができています。これぐらいやらないと、日本は国際社会で笑いものになるでしょう。
元谷 それは高邑さんが今推進されている事業ですね。頑張ってやり通してください。
元谷 解散総選挙の危機を乗り越え、野田政権が発足、いきなり支持率が上昇しました。あと二年、なんとか民主党政権が続きそうな雰囲気になってきましたね。
高邑 東京での政局騒ぎなど、震災の被災者にとってはどうでもいいことです。とにかく政府はやるべきことをやらないと。私はこの野田内閣が民主党政権最後のチャンスだと思っています。これで駄目なら、すべての所属議員は下野する覚悟が必要だと思います。
元谷 野田さんは代表選の五人の候補の中でも保守的な考えを持っているので、私は期待しています。しかし内閣の顔ぶれをみると、かつて民主党が批判していた自民党の派閥重視の人事とそっくりです。党内でいろいろ事情もあるでしょうから、まず野田首相にリーダーシップをしっかりとってもらう。またA級戦犯は戦争犯罪人ではないという考えもお持ちなので、靖国神社に参拝してもらう。そうすれば、世間の評価も大きく変わるはずです。
高邑 英霊への尊崇の念を示すことは、国家の指導者として当然です。ただ、私は靖国神社参拝のみを殊更に強調し、政治的なメッセージに絡めて利用し、靖国を参拝すれば愛国者だ、という短絡な図式には疑問を感じています。
元谷 しかし中国や韓国は靖国と政治を絡めてきます。またそれを煽る反日日本人が国内にいるのです。
高邑 元谷代表がやっておられる「真の近現代史観」懸賞論文で昨年最優秀賞を獲得した佐波優子さんの「大東亜戦争を戦った全ての日本軍将兵の方々に感謝を」という論文を読みました。私も今度サイパン島で遺骨収集をします。沖縄や硫黄島でもご遺骨を探しました。これらの地には、まだご帰還いただいていないご遺骨が百万柱以上あるのです。菅前首相の目に見える功績の一つは、硫黄島からのご遺骨帰還事業を始めたことです。国の指導者は、靖国神社に行くだけでなく、この現場を訪れるべきではないでしょうか。
元谷 ご遺骨帰還事業はその通りですね。高邑さんにはこれからの日本を担う若手として、益々活躍していただいて。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
高邑 国を愛するという気持ちはふるさとを思う心に似ています。被災者の方々とご一緒していますと、失って初めてわかることの大切さを痛感します。これを守るのが政治なのです。実際に現場で地道にこれを守ってくれているのは自衛隊であり警察、消防など無名の人々です。彼らを政治や行政機構が支えていく。また若い人たちもこのことをしっかり理解して、未来の日本を築くという気概を持つべきです。高杉晋作の辞世の上の句「おもしろきこともなき世をおもしろく」と野村望東尼がつけた下の句「すみなすものは心なりけり」ではないですが、心の持ちようで人生はいくらでも楽しくなるのですから。
元谷 私も同感です。今日はありがとうございました。
高邑勉氏
1974(昭和49)年山口県生まれ。実家のとんかつ店が高校時代に廃業、3つの奨学金を受けながら慶応義塾大学法学部政治学科を卒業、日本生命保険相互会社、メリルリンチ日本証券でのサラリーマン生活を経て、参議院議員の鈴木寛氏の秘書に。その後一念発起して北京大学国際関係学院に留学、2007年に修了。2009年8月の総選挙で初当選を果たした。
対談日:2011年9月7日