個食の時代にも対応したパックご飯は、国内にも海外にも今後さらに普及していく。
アパグループ 専務 元谷 拓
1984年 全国農業協同組合連合会 入会
2012年 本所 畜産生産部次長
2014年 本所 畜産生産部部長
2019年 常務理事
2024年 代表理事専務
中長期的視野で事業を運営
元谷 本日はありがとうございます。アパグループは五十五周年記念として、JA全農とのコラボで「アパ社長ごはん 55周年記念パッケージ~ニッポンエールコラボ~」を五月十日に発売しました。アパグループ創業の地である石川県産のブランド米「ひゃくまん穀」を一〇〇%使用、こだわりの「ガス直火炊き」と「シャリ切り」製法にて、ふっくら艷かなご飯に仕上げました。このご飯は「アパ社長カレー」との相性が抜群です。ご飯の容器が深底設計になっていて、温めたご飯を片側に寄せて、空いたスペースに「アパ社長カレー」を入れることができ、お皿を使わずにカレーライスが味わえるようになっています。この商品の開発でJA全農には非常にお世話になったのですが、読者の中でもJA全農が何を行う組織なのか、知らない方も多いと思います。まずは、JA全農の歴史を教えていただけますでしょうか。
齊藤 今日はお招きいただき、ありがとうございます。JA全農は、一九七二年に全国購買農業協同組合連合会と全国販売農業協同組合連合会が統合して誕生した組織です。生産者を中心として、生産資材の購買と農畜産物の販売等を担う「協同組合」で、二〇二五年度の取扱高は速報値で、約五兆三千八百億円になります。
元谷 ものすごい取扱高ですね。
齊藤 これも全国の生産者や農協など組織の皆様の結集のお陰です。農業協同組合は生産者組織であり、私たちの基本姿勢は、常に生産者のために何ができるかを考えながら事業運営を行うことです。昨年、JA全農事業ビジョン二〇三〇を策定して、二〇三〇年にあるべき姿をしっかりと描き出しました。様々な目標を掲げているのですが、特に財務目標としては、取扱高六兆円および会員への八十億円以上の継続的な配当ができる財務体質の実現を目指しています。昨年度の事業計画からこの目標に向かって進んでおり、今期は二年度目にあたります。
元谷 齊藤さんが考えるJA全農らしさというのは、何でしょうか。
齊藤 JA全農の経営理念は「私たち全農グループは、生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋になります」です。先程お話したように、JA全農は生産者を中心として購買事業と販売事業を行っています。サプライチェーンの川上である国内外の原料サプライヤーから、川下の国内やさらには海外の消費者までの安心の懸け橋となり、日本の食と農を未来へと繋いでいきたいと考えています。私たちの安心には三つの視点があり、その一つ目は「元気な産地づくり」、二つ目が「安全で新鮮な国産農畜産物の供給」、三つ目が「地球の環境保全」です。また、JA全農は株式会社ではなく農業協同組合ですので、一株一票ではなく一人一票という組織です。物事を決めるのは満場一致が原則ですので、最後の最後まで説明を尽くすというのが私たちのスタンスです。また「株価変動」がありませんから、短期的ではなく中長期的な視野で、あるべき姿を目指して事業を進めていくことができるのが、JA全農らしさだと私は考えています。
AKB48をアンバサダーに
元谷 コラボ商品「アパ社長ごはん 55周年記念パッケージ~ニッポンエールコラボ~」に記載されている「ニッポンエール」とは、どのような活動なのでしょうか。
齊藤 JA全農では日本の農畜産物と産地を応援するという目的で、二〇一九年からニッポンエールという商品ブランドを立ち上げました。日本各地の特色ある農畜産物を使った加工品を手掛け、その商品数はこれまで七百五十以上に上ります。さらに二〇二三年には商品を通じてこの活動を加速する目的で、様々な企業と商品の共同開発を行うニッポンエールプロジェクト協議会を始動しました。この協議会での最初のテーマは「宮崎県産日向夏」、第二弾が「長野県産りんご三兄弟」など、テーマを決めてその県の産品を使用した商品をメーカーに開発していただき、全国で販売するという形ですすめています。第五弾では「瀬戸内広島レモン」をテーマとしました。輸入レモンには防腐剤やワックスを使っているケースがあり、一般的には皮ごと食べることはしませんが、国産の瀬戸内広島レモンであれば、安心して皮ごと食べることができます。また、皮ごと使った斬新な商品開発が可能になり、フードロスが減るというメリットがあります。この協議会では、商品開発に携わるメーカーの方々に産地を訪問していただきました。生産者や産地の方々のご苦労や工夫を肌で感じていただく機会を提供できたことを、多くの方にご評価いただきました。
元谷 非常に面白い取り組みですね。
齊藤 一方、ニッポンエールブランドのさらなる認知度のアップという課題もあります。これに対しては、商品キャンペーンの実施やロゴの刷新、直近ではAKB48をブランドアンバサダーに起用するなど、認知度向上への取り組みを強化しています。食べることが産地の応援になり、農業を応援することが多様な社会貢献に繋がるということを、国民的な共通認識にすることが最終的な目標です。まずは来年中に、日本国民の二人に一人はニッポンエールを知っているという状況に持っていきたいと考えています。
もうくよくよとは悩まない
元谷 JA全農は非常に大きな組織なのですが、経営陣としては職員の方にどのようなことを求めているのでしょうか。
齊藤 JA全農はJAグループの一員であって、生産者があって、JAがあって、連合会があって、そしてJA全農があるという建付けになっています。経営陣が職員に繰り返し話を しているのは、JA全農は協同組合であることを忘れずに事業を行って欲しいということです。先程お話したように、JA全農は川上から川下までの大きなサプライチェーンを担っています。生産者と消費者を安心で結ぶという壮大なプロジェクトの中で、協同組合として重要な仕事を担当しているのだという自覚を持つよう職員には伝えていますし、私たち経営陣もその環境づくりに注力しています。また、私個人が大事にしていて、常日頃から職員やグループ会社社員に伝えていることは「三Nの精神」です。
元谷 Nというのは、どういう意味でしょうか。
齊藤 Nというのは言葉の頭文字で、「逃げない」「投げない」「悩まない」の三Nです。人間、嫌な仕事や相手先からは逃げたくなるものです。しかし逃げていては物事が前に進まないですし、また対応が後手に回ってしまいます。とにかくまず「逃げない」精神を持つことが大切です。「投げない」というのは仕事の着手を早くすること。例えばアパホテルの予約を上司から依頼された場合、その段階ですぐに予約すればいいのですが、しばらく放置。そして一週間前になって思い出して予約しようとしたら、団体が入っていて部屋が取れない…。早い段階では簡単な仕事が、着手を遅らせたために重くて緊急の問題に変わってしまうのです。
元谷 「着眼大局・着手小局」という言葉にも通じるものを感じます。
齊藤 はい、おっしゃるとおりです。三つ目は「悩まない」です。自分で色々と考えて、上司にも報告しながら仕事を進めていっても、必ずしも成功するとは限らない。しかしそのことをくよくよ考えても仕方がなく、自分自身がやり切ったと思えるのであれば、もうそれ以上は悩まないというスタンスが大切だということです。
元谷 素晴らしい姿勢です。ぜひアパグループにも三Nの精神を取り込みたいと思います。日本の食卓という大きな視点で見た場合、JA全農の果たしている役割は非常に大きいと思うのですが、齊藤さんはこのことについて、どのようにお感じなのでしょうか。
齊藤 JA全農が果たしている役割の重要さはその通りなのですが、中でも最も大事なことは生産振興です。日本のJAの総組合員は約一千万人なのですが、実際に農業に携わっている正組合員と、金融などで組合を利用していただいている準組合員がいらっしゃいます。正組合員は約四百万人です。農業を主業としている基幹的農業従事者は約百万人ですが、この数がどんどん減少しています。そのような状況の中で、JA全農は農畜産物を安定的に供給できる体制を構築するために、生産者をしっかりと支援していく必要があります。正に「生産者なくして事業なし」です。また、生産者が減少するという現状の中では、集荷・加工場や飼料工場などの施設稼働を維持するために、JAグループ自身が「補完的機能」として、生産に携わっていく必要もあります。
加工用米や米粉用米が不足
元谷 生産者が減少しているというお話ですが、農畜産の現場では今どのような変化が進行しているのでしょうか。
齊藤 農業は大きく耕種事業と畜産酪農事業に分けることができるのですが、この両方に共通しているのは、高齢化が急速に進んでいるということです。そのために、若い人たちが農業をしたいと思うような環境づくりの重要性が年々増しています。日本の新規就農者数は年間約四万三千人で、そのうちの約三万三千人が親元で就農した方々です。新たに農業を始める方も増やしていきたい。私たちはそのための環境づくりとして、農畜産物の再生産が可能な価格形成の仕組みづくりや、魅力ある地域独特の農畜産物の育成など、他産業から見ても農業が魅力的な産業となるような取り組みをしていく必要があると感じています。ロボット化や自動化、省力化なども推進して、夏の酷暑にも耐えられる農業環境づくりも進めていきます。
元谷 二〇二四年には品薄から価格が高騰したお米ですが、最近は価格が少し落ちついているように思います。
齊藤 二〇二四年の夏に米がないと騒ぎになり、価格も急速に上がったために、生産者の作付けが主食用米に偏ってしまい、今は主食用米が余りつつあります。このままでいくとかなり多くの米の在庫が発生しそうです。米は1年経過すると「古米」になりますから、価値が下がります。現時点では米の需要は七百十一万トンとなっており、需要に応じた生産が極めて重要です。また、米全体では作付け面積は増えていないのに、主食用米の生産が増えてしまい、加工用米や米粉用米、飼料用米の需要に応えることができなくなっています。この状況の是正も必要です。
元谷 これからの農業の発展のためには、様々な施策が必要と思われます。今後のJA全農の役割や方向性を教えてください。
齊藤 日本の人口は減少傾向ですが、世界の人口は今後も増えて、二〇五〇年には百億人近くに達するとも言われています。まずは国内の自給力をアップし、そして海外の方の胃袋も日本の食材で埋めていくことは、日本の農業の大きなテーマです。また、海外の市場で得た利益を、日本の生産者や組織に還元していくような海外戦略も推進していきます。JA全農は香港に卵焼きと温泉卵の工場を持っていて、日本の卵を現地で加工して現地で展開する日本の寿司店チェーンに供給しており、非常に高い評価をいただいています。こういう事業をこれからも手掛けていきます。
元谷 日本の農業を持続させるために、私たち消費者が日々の暮らしの中でできることは何でしょうか。
齊藤 やはり先程ニッポンエールプロジェクトの取り組みでお話したように、日本の安全安心な国産農畜産物を食べて産地を支えていただくことでしょうか。まずは地域そして全国で食べていただき、さらに余力のある産品は海外でも食べていただくようにしていきたいですね。
元谷 その通りだと思います。今日はいろいろなお話を、ありがとうございました。
齊藤 ありがとうございました。