知のアフタヌーンティー・ラウンジ

テーマ:文化 Vol.4[2026年5月号]

元谷一志CEOと多彩なゲストが、その月々のテーマで語り合う「知のアフタヌーンティー・ラウンジ」。

今回は、ホテルのDXを支援する株式会社タップ代表取締役社長の清水吉輝氏、人と地球に優しいヤシノミ洗剤を作り続ける東京サラヤ株式会社東京支店支店長の江良慎也氏、医療機関やホテルの寝具などのリースとクリーニングを全国で展開するワタキューセイモア株式会社代表取締役社長の村田清和氏をお招きし、「環境」をテーマに語り合いました。


ワタキューセイモア株式会社 代表取締役社長
村田 清和氏

東京サラヤ株式会社 東京支店 支店長
江良 慎也氏

株式会社タップ 代表取締役社長
清水 吉輝氏

原料調達の段階から
環境重視のヤシノミ洗剤

サラヤの創業者である更家章太氏の生家は、三重県熊野市で代々林業を営んでいた。山深い場所の清流に囲まれて育った更家氏は、創業後も自然を大切にする思いが強く、様々な取り組みを行っていた。そんな中、一九七一年に発売したのが、ヤシの油を原料としたヤシノミ洗剤だ。当時は安価な石油系の合成洗剤が主流で、環境に悪影響を及ぼしていたが、植物系で無香料・無着色の添加物の少ないヤシノミ洗剤は、水と二酸化炭素に戻る。またヤシノミ洗剤は肌への刺激が少なく、手荒れのしにくい洗剤として評判になっていった。更家氏は戦後まもなく流行した赤痢で亡くなる人が多いことを憂い、赤痢を減らすためには手洗いの慣行が必要だという結論に至った。しかし従来の固形石鹸では、表面についた細菌が他の人に伝わる可能性があるため、一九五二年、日本初となる殺菌剤入りの液体の薬用手洗い石鹸液と、それを入れる押上げ・押出し式の容器を開発、学校などに納めるようになった。これがサラヤの始まりだ。

二〇二五年十二月十八日にオープンしたアパホテル〈札幌大通駅前西〉にはテナント飲食店として、中華料理店「布袋」が出店した。札幌のソウルフードである「ザンギ」と呼ばれる大きな鶏の唐揚げで有名だ。これまであり得なかった「布袋」の朝食が食べられるということで、他のホテルよりも喫食率が格段にアップしている。この朝食は宿泊者しか食べることができないが、地元の人からは宿泊なしでも「布袋」の朝食が食べたいという声が出ているほどだ。

近年、環境への意識が高まる中でヤシノミ洗剤も注目を集めるようになったが、原料のひとつであるパーム油の生産の背景で、熱帯雨林を開墾したアブラヤシ農園の拡大により、環境に悪影響が起きていることをサラヤは知った。実際にパーム油の主要産地であるボルネオ島に行ってみると、熱帯雨林の伐採されたアブラヤシ農園が広がり、動植物の絶滅の危機にあるだけでなく、違法移民や児童労働などの安い労働力で生産が行われていることが判明した。そこでサラヤでは環境と人権に配慮したパーム油生産を支援すべく、持続可能な農園や搾油工場で作られたことを示す国際的なNPOによる「RSPO認証」を得たパーム油を、原料として使用するようになった。また、ヤシノミ洗剤などの対象商品の売上(メーカー出荷額)の一%を、ボルネオ島の環境保全活動に寄付している。これらの活動で、環境保全やソーシャルビジネスに関する様々な賞を受賞してきた。

現在、アパホテルは、清掃やアメニティの無駄による環境負荷の低減に取り組んでいるが、アパホテルのホテルシステムを手掛ける株式会社タップは、お客様がチェックインからチェックアウトまで、どれくらい水道・光熱関連を使用したかを可視化するシステムを開発中だ。実用化されれば、宿泊客の環境への意識向上に繋がるだろう。

リネンサプライや宿でも
環境への貢献が求められる

ワタキューセイモア株式会社の事業の柱の一つはリネンサプライで、全国50ヵ所の工場において大規模にクリーニングを行っている。これらの工場では、洗浄のための水や乾燥のためのガスや重油を大量に使用する。CO2の排出量も多い。気候変動や地球温暖化対策として世界的に脱炭素が叫ばれ、日本政府は「二〇五〇年までにカーボンニュートラル」と宣言、そのために二〇三〇年度には温室効果ガスを四六%削減することを目指している。これに合わせ、ワタキューセイモアでもCO2対策が急務となっている。すすぎで使用した水を再利用することが可能な連続洗濯機の導入や、コンピューター制御によるボイラーコントロールの導入が対策の代表的なものだ。排水にも規制があり、pH六・八~八・二の中性に近い状態で流すことが求められている。

アパ(APA)はAlways Present Amenity(いつも心地の良い環境を)の略であり、創業時から強かった環境への意識を、一九九七年に実施したCIで社名に反映したものだ。一九八三年にアパグループの前身である信開産業株式会社が造成した「信開オレンジシティ」(石川県白山市)には、「緑化宣言」として環境を重視するプレートが設置され、それは今でも残っている。その環境に対する先進性はその後も続き、家庭でゴミを分別しているのになぜホテルで分別をしないのかという発想から、アパホテルでは三十年前に他のホテルに先駆けて、客室にゴミ箱を二つ置くようになった。今、アパホテルでは連泊する宿泊客に対して、「連泊エコ清掃」を呼びかけている。これはエコの観点からシーツ類と枕カバーの交換は行わず、新しいアメニティとタオルをドアノブにかけておくだけの対応にご協力いただくということ。お礼として、ミネラルウォーター一本を進呈している。最近環境意識を持つ人が増えているためか、この「エコ清掃」を選択するお客様が増加している。また、最近では水資源の有効活用のために、客室のペットボトル設置から、各階のウォーターサーバーの設置に転換するアパホテルを増やしている。お客様は客室の専用ピッチャーで、ウォーターサーバーの水を部屋に持ち帰って飲むことになる。これまで、薬を服用するためにペットボトルの水を朝一口だけ飲み、残りをそのまま置いてチェックアウトするお客様が非常に多かったからだ。さらに、ペーパーレス化の一環として、アパホテルでは紙の宿泊約款を廃止、テレビの画面で見ることができるアパデジタルインフォメーション(ADI)のメニューの一つとして閲覧できるようにした。宿泊約款を修正する場合も全国一斉にデータを書き換えればよく、更新が早くて印刷代などのコストがかからない。飲食店でも最近、紙のメニューの代わりに、タブレット端末でオーダーをするところが増えている。人手不足の解消に加え、動画で料理内容を伝えることもできる。今後も各方面でペーパーレス化が進んでいくだろう。

職場環境の整備が
採用活動の成功には不可欠

企業にとっては「ワーカーズファースト」の考えの下、人間環境の整備が離職率低下のために必要になってきている。今の若い世代は価値観が多様化しており、企業の業績向上のために一致団結して同じ方向を向かせることが難しくなってきている。アパグループがサッカー日本代表のスポンサーとなっているのも、社員を一体化させるための施策の一つだ。オフィス環境の整備も、従業員のモラールアップに貢献する。アパグループの本社も専門家からのアドバイスで、フリーアドレスでフロアの中心に人が集まりやすいオフィスに変更した。毎日が席替え状態で、隣から聞こえてくる会話の内容で、社内での幅広い連携が促進されるという効果もある。個人別のロッカーが用意されていて、退社時には書類やパソコンなどは全てロッカーに収納して、机は全て何も置かれていない状態になる。

企業内の環境整備は、採用にも影響する。人材が不足している今、新卒採用では人気企業ランキングに入っていないと、学生が集まらない状況だ。アパホテルはマイナビ・日経2026年卒就職企業ランキングで、大手総合ランキングで41位、業種別ランキングでもホテル・旅行業界で4位にランクインし、過去最高順位を更新した。ホテル業は参入障壁が低く、日本では現在様々なブランドのホテルが林立している。この中でアパホテルを選んでもらうためには、職場環境の整備はもちろんのこと、業界内で五本の指以内の人気企業になることが求められる。芙美子ホテル社長の世代は年間二百五十万人だった新生児が、一志CEOの時代には二百五万人、そして今は七十万人を切ってしまっている。少子化対策としての育児休暇などの環境整備もさらに求められるだろう。環境の「環」はまた帰ってくるという意味。人に関してもきちんと循環させる必要がある。

犬と一緒の宿泊が好調
屋内ドッグランも人気に

愛犬と一緒に宿泊できるアパホテルの「ペット同伴宿泊客室」が好評だ。現在、アパホテル&リゾート〈上越妙高〉、アパホテル〈高松空港〉、アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉、アパホテル〈熊本桜町バスターミナル南〉の4ホテルで利用できる。犬と一緒に宿泊するニーズが増えている背景には、今の少子化がある。そのためか、犬を我が子以上に大事にするお客様が多い。飲食店でも犬連れOKが増えている。一志CEO行きつけの鉄板焼店には、犬用の鉄板焼きメニューがある。店主は他店との差別化のために犬用メニューを出すようにしたという。もちろん犬連れではないお客様も来店するので、高性能の空気洗浄機は店舗に必須だ。犬連れOKで、リードフックなどの設備を整えたカフェも増えている。アパホテル〈高松空港〉には愛犬と宿泊できるコンテナ型客室と、百七十㎡の全天候型の屋内ドッグランが二〇二五年十月にオープンした。大型犬ほど運動が必要だが、天候が悪い時にはなかなか散歩に行けないという理由で、屋内ドッグランが人気となっている。これを受けて、アパホテル&リゾート〈上越妙高〉でも、空いているスペースを屋内ドッグランに改修する計画が進んでいる。

アパリゾート佳水郷(加賀温泉郷 片山津温泉)では、オフィシャルスポンサーとなっている将棋タイトル戦・叡王戦が行われている。伊藤匠叡王は藤井聡太氏と同学年だが、二〇二四年に藤井氏との叡王戦で勝利して初のタイトルを獲得、二〇二五年にはこれまた藤井氏に勝って王座のタイトルを獲得、二冠を達成。今伸び盛りの棋士だ。一志CEOは佳水郷を将棋ファンが多数訪れる「将棋の聖地」としてブランディングしようとしており、まず枯山水の庭に石造りの将棋の駒と将棋盤を置いてライトアップを行った。さらに飛車の間・竜王の間などと名付けた、二部屋が連結しているコネクトルームを設置、最大で九名までの宿泊に対応できるようにした。これらの部屋はいずれも和洋室。日本旅館にも変化の波が訪れていて、乱れた布団を見られたくないという理由で、ベッドで休むことができる和洋室人気が非常に高まっている。食事も部屋食よりもお食事処での提供の方が好評だ。