知のアフタヌーンティー・ラウンジ

テーマ:文化 Vol.7[2026年11月号]

元谷一志CEOと多彩なゲストが、その月々のテーマで語り合う「知のアフタヌーンティー・ラウンジ」。

今回は群馬県・栃木県・茨城県を中心にアパホテルを運営するひと・コミュニケーションズ株式会社代表取締役の小池常雄氏、佐賀県や福岡県でアパホテルを運営する株式会社竹下コーポレーション代表取締役社長の竹下真由氏、埼玉県でアパホテルを運営する株式会社エイ・アンド・エイチ代表取締役の橋本和久氏をお迎えし、「地方創生」をテーマに熱く語り合いました。


株式会社エイ・アンド・エイチ 代表取締役
橋本 和久氏

株式会社竹下コーポレーション
代表取締役社長
竹下 真由氏

ひと・コミュニケーションズ株式会社
代表取締役
小池 常雄氏

実績と評価と待遇の繋がりが
強いやりがいを作る

地方創生における大きなテーマの一つは、人材確保だ。橋本和久氏は三十年前に株式会社エイ・アンド・エイチを興した。当時は自身も社員も若く、自分が上に立つことばかりを考えており、労使関係はあまり良くなかった。今では社員は五十人になり、年齢も橋本氏より随分下になった。そうなると橋本氏は社員が可愛くてしょうがなく、何でもやってあげたくなる。それを抑えるために、社長の補佐役がいる。彼は「社長はいつでもニコニコして、皆を可愛がってください。締めるところは私達が締めますから」と言ってくれている。

小池常雄氏のひと・コミュニケーションズ株式会社では、現在フロントは全て正社員のみでホテル運営を行っている。接客業にはスキルが必要であり、人材を確保するためにも、現在在籍している社員をどう成長させるかが課題となっている。そのため、小池氏自らが講師となる勉強会を行っている。また、オープンブックマネジメントを採用しており、財務情報や経営指標を全て社員に公開、人件費が指定した売上割合に満たない場合は、決算賞与で社員に還元すると宣言し、実行している。自分が出した実績が給与として返ってくることはやりがいに繋がり、それが人の成長や採用の成功に結びついていく。

竹下真由氏の株式会社竹下コーポレーションでは、九州の学校で学んだアジアからの留学生が、その後の就職先に悩んで相談に来るケースが増えている。そこで学校とも相談し、留学生がインターンとして業務を体験した上で入社を検討してもらうという試みをスタート。海外からの人材を国内の人材と同様の待遇で採用する方向に向かっている。地元の大学から企業への、優秀な人材の輩出が期待される。今後も地域とのつながりを大切にし、大学との連携を深めながら、優秀な人材の採用と定着につなげていく考えだ。

優良な顧客を増やすことは
カスハラ対策にもなる

サービス業の王様とも言われたホテル業だが、カスタマーハラスメント(カスハラ)などの報道から、若い人が就職先として敬遠する傾向がある。ホテル業界が中心となって、お客様に「ありがとう」と言われた時の達成感など、ホテル業の素晴らしさを子どもを中心に伝えていくべきだ。アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉に今年十一月十六日にオープンするアパミュージアムには、アパの客室設計を遊びながら体験できるコーナーなどがあり、地元の小・中学生に社会科見学として利用してもらうことを想定している。アパミュージアムの利用は無料だ。

ホテル業の人材確保でネックとなるのが、二十四時間・三百六十五日のシフト制であり、平日九時~五時の労働時間とはならないことだ。この労働形態のネックを越えるような魅力が必要となる。この観点からアパグループで創設したのが、役職連動型の転勤資格制度だ。転勤時に支給される転勤支度金を、役職が高い社員ほど手厚くしていくというもの。既に導入されている役職連動型人間ドック同様、大事な人材には手厚くという方針を具現化したものだ。この施策には、近年増加している管理職になりたがらない社員の意識変革という意味合いもある。

この十月一日に俗に言うカスハラ対策法が施行され、国もカスハラ防止に力を入れ始めた。カスハラは、コロナ禍でのGo To トラベル事業によって拍車がかかったとも言われている。ホテル業界の実感としては、客単価の高いお客様層ほどカスハラが減少する。つまり客単価を向上させることも、カスハラ対策になるということだ。

水上飛行機の活用で
地方から地方への交通網を

インバウンドが増え続ける日本だが、課題となっているのは東京都や京都府、大阪府などの特定の都市に旅行者が集中していることだ。これを回避するためにも、地方が積極的に魅力を発掘し、発信することが求められている。竹下氏が運営するアパホテル〈佐賀駅南口〉のレストラン「グリルタケシタ」では、これも竹下氏が経営する「ブラックモンブラン」で知られる老舗のアイスメーカー・竹下製菓のアイスが、ランチ時食べ放題になる。観光で疲れた体を、甘いアイスで癒して欲しいという考えから生まれた企画だ。アパホテルのレストランの朝食では、直営でもテナントでも数多くのその土地の食材を使った料理や郷土料理が提供されている。竹下氏もそれに刺激を受け、自社で運営するアパホテルのレストランの料理長に「ご当地もの」を増やす指示を出している。

地方創生を推進していくためには、交通網の充実も非常に重要な課題だ。九州では、福岡市と長崎市を結ぶ計画で整備が進められている西九州新幹線について、現在は二〇二二年に一部開業し、佐賀県の武雄温泉駅と長崎駅の間のみが開通している。開業後、利用客数も堅調に推移しており、沿線地域の活性化にも一定の効果をもたらしている。一方、福岡市と佐賀市の間は現在でも在来線などによるアクセスではあるものの、両都市間の往来は比較的活発な状況だ。さらに、二〇二三年にSAGAアリーナが開業したことで、佐賀市ではイベント開催に伴う宿泊需要も高まっている。こうした背景から、アパホテル〈佐賀駅南口〉も高い稼働率を維持している。

さらに長崎県には、長崎エリアと佐世保エリアと、県が二つに分かれているという問題もある。現在の西九州新幹線の福岡市への延伸は長崎エリアにとってのメリットはあるが、その場合並行在来線となる区間を走る博多駅~佐世保駅間の特急みどりの継続が危ぶまれ、佐世保エリアが福岡市への直行手段を失う可能性もある。福岡市から佐世保市への新しい新幹線ルートを考えることができれば、長崎県にも佐賀県にもメリットが多いかもしれない。
 群馬県をはじめとする北関東エリアは、オフィスや観光の拠点となる首都圏とは一線を画し、群馬県太田市のスバルの工場をはじめとして製造業や農業に強みを持つ地域となり、それらの製品を北関東自動車道経由で大洗港や鹿島港から海外へと輸出していく地域になりつつある。また、埼玉県北部と群馬県南部の上武地域連携構想の中では、「上武空港」建設のアイデアがある。産業振興や物流、自然災害対策の観点から考えると、空港整備のメリットは大きいと考えられる。

交通行政で今後検討すべきなのは、ローカル・トゥ・ローカルの交通網の整備だ。例えばカナダではハーバーエアなど水上飛行機の定期便を運航する航空会社があり、バンクーバーを中心に、ビクトリアなどカナダ各地へ水上飛行機で行くことができる。水上飛行機であれば、滑走路などの大きな設備の整備が必要ない。日本であれば、例えば京都に近い大津市では、琵琶湖を使って一九六〇年代に水上飛行機による遊覧飛行が実施されていた。二〇二一年には、大津市と関西国際空港を結ぶ水上飛行機による実証実験も行われている。京都市は伊丹空港からも関西国際空港からも遠く、琵琶湖はもっと活用できるはず。新幹線が通過していない山梨県でも、富士五湖を活用した水上飛行機を運航すれば、高速移動が可能な交通手段となるはずだ。

静岡県の前知事の反対で約十年開業が遅れたリニア中央新幹線だが、今の鈴木康友知事によってようやく前進し始めた。始発の品川駅から山梨県駅までは二十五分、最速タイプであれば名古屋駅までは四十分で結ばれる。沿線間の日帰り出張が容易になり、これはビジネス系の宿泊施設にも大きな影響を与える。人の動きも変わるだろう。二〇一五年に開業した北陸新幹線によって、金沢市の子どもたちの進学先が変わった。従来は関西方面の大学に進学する人が多かったのだが、新幹線開業後は関東に進学する人が多くなってしまっている。

観光施設の二重価格は
導入検討に値する施策だ

インバウンド客の増加に伴って、スーツケースを宅配便で送るケースが増えている。移動に伴って次のホテルへと荷物を送るのだが、ホテルの住所を記入するのは外国人には非常に煩雑な作業だ。アパホテルが今推奨しているのは、日本郵政が開発した、住所を七桁の英数字で表す「デジタルアドレス」の活用だ。今ではアパホテルのチェックイン機でも、デジタルアドレスが利用できるようになっている。このように仕組みやインフラの整備によって旅行者の負担軽減を実現できることは、まだまだあるはずだ。

世界遺産である兵庫県の姫路城は、今年の三月から入城料の「二重価格(住民割引)」を開始した。姫路市民は従来通り千円で入城可能だが、市民以外は二千五百円になり、十八歳未満は市民であるかないかに関わらず全員無料になった。増収になる分は、城の維持管理に充てるという。この二重価格は、オーバーツーリズム対策にもなると言われている。自治体は多くの観光客を呼び込みたいが、住民の生活も守らなければならない。また、住民は既に税金という形で、世界遺産など施設の維持管理に貢献している。これらの意味で、二重価格はやむを得ない施策だと考えられるのではないか。

日本は二〇三〇年に訪日外国人旅行者数六千万人を掲げているが、そのために多少無理をしている傾向がある。いくら人数を増やしても客単価が低ければ、経済効果は少なくなる。日本が目指すべきは、高単価で上質な観光客を、数少なくお迎えしておもてなしをすることではないか。そうすれば俗に「観光公害」と呼ばれる弊害は無くなる。

様々な施策を駆使して
日本の伝統工芸品を守る

日本の地方には数々の伝統工芸品があり、外国人観光客にも大人気だが、どこでも後継者不足に悩んでいる。一つの施策としては、製品を海外に高く売って、工芸品に携わる人の給料を上げることだろう。また、世界で評価を受けているその工芸品の価値を、幼い頃からしっかりと植え付けていく必要もある。