JOURNEY TIME

Vol.4[2026年6月号]

各業界で活躍する賢人の方々にお集まりいただき、日本を元気にするための施策や日頃こだわっている仕事観について語り合うJOURNEY TIME。今回は東京駅で販売される駅弁の中でも圧倒的な人気を誇る「牛肉どまん中」を製造・販売する有限会社新杵屋代表取締役の舩山百栄氏、飲食店の厨房施設や食品工場の衛生状態の検査・管理を行う
株式会社中部衛生検査センター取締役社長の小澤一弘 氏、ロケ弁からおいしさが広まり年間百万食のカレー弁当を販売している有限会社オーベルジーヌ代表取締役社長の髙橋祐介氏をお迎えし、旅行や食の楽しみを提供するビジネスについて語り合いました。


有限会社新杵屋 代表取締役
舩山 百栄氏

株式会社中部衛生検査センター
取締役社長
小澤 一弘氏

有限会社オーベルジーヌ 代表取締役社長
髙橋 祐介氏

米沢牛のおいしさ際立つ東京駅でも大人気の駅弁

もともと新杵屋は一九二一年に創業した菓子店だったが、約七十年前に現社長の舩山百栄氏の祖父がお弁当作りを始めた。最初に製造したのが東北初の牛肉弁当となる「元祖 牛肉弁当」。新杵屋のある山形県米沢市の特産品である米沢牛を使い、醤油で作ったおまんじゅうの照りを出すための餡をベースとしたタレで、牛肉を煮込んだものがご飯にのる。舩山社長の父親が考案した、現在大人気の牛丼弁当「牛肉どまん中」は、ふっくら炊き上げた山形県産米「どまんなか」の上に、特製タレの牛肉煮と牛そぼろをのせたものだ。新杵屋のお弁当の特徴は、おいしいものをお腹いっぱい食べて欲しいという心意気から、量がたっぷりあることだ。舩山社長自らが広告塔となってメディアに出ることで知名度がアップ、ベーシックな醤油味の他、塩、味噌、カレー味もある「牛肉どまん中」のシリーズは、東京駅の駅弁屋踊グランスタ東京店でもトップクラスの売上を誇る。これらの弁当は米沢の工場で人の手で盛り付けが行われ、トラックで東京に送られている。今後は炊飯工場を新たに建設し、製造量を増やしていく方針だ。しかし駅弁はやはりその製造している土地で味わうもの。米沢駅前の本社工場直売店では、ご飯の温かい状態の「牛肉どまん中」や、東京では販売されていないお弁当も購入することができる。

食中毒の約半数は手洗い(二次感染防止対策)によって防げる

株式会社中部衛生検査センターは、食品衛生を守る会社。ホテルや外食業界、給食業界など向けに、食中毒を起こさないための従業員教育を行ったり、厨房の衛生検査を行ったり、ノロウイルスの検査を行ったり。食中毒が発生した場合にはその現場に行って原因を究明、再発防止策を提案するなどの業務を行っている。コロナ禍以降、各社従業員の入れ替わりも多く、さらに外国人従業員が増えていることもあって、再教育のニーズが高まっている。二十年ほど前までは、このような食品衛生を守る業務は保健所の仕事だった。中部衛生検査センターは保健所出身の現会長が創業、保健所OBの雇用を活発に行い、保健所の業務の民間化を進めてきた。今では取引先は全国で約五千社に及んでいる。

冬場に多いノロウイルスの感染経路は、食品由来のいわゆる食中毒だけではなく、トイレなどを通して風邪のようにヒトからヒトへ感染する場合もあり、その判断が難しい。しっかりとした経路の調査を行った上で、対策を指示することが必要になる。食中毒に関しては、その約半数を手洗いの徹底(二次汚染防止対策)によって防ぐことができる。

デリバリー専業が高効率と十六年前に業態を変更

テレビ局の楽屋で、長い収録の合間に食べることができる弁当として圧倒的な人気を誇っているのが、有限会社オーベルジーヌのカレー弁当だ。人気はごろっと大きな牛肉が入ったビーフカレー。レギュラータイプであれば、カレーソースに加えてチーズがトッピングされたバターライスと、茹でたジャガイモが付く。ソース自体は一種類しかなく、しかもそのレシピを公開している。ただソースは一種類だが、ポークやチキンなど具を変えることで、メニューに十一種類のバラエティを持たせている。ロケ弁からスタートしたオーベルジーヌのカレー弁当だが、ウーバーイーツの利用をいち早く始め販路を拡大、三代目社長の髙橋祐介氏の思惑通りに、徐々に百貨店ブランドとしての取り扱いも増えている。

オーベルジーヌとはフランス語でナスのこと。創業者である髙橋社長の父親が、店の名前を決める時にフランス語の辞書を開いて、目についた単語を選んだそう。しかし今オーベルジーヌには、カレーソースにナスの味が負けることから、ナスのカレーはメニューにない。一度に千食という注文も入るが、その場合は発注者が取り合いを恐れて、全部ビーフカレーで注文することがほとんどだ。以前はイートインもあったが、十六年前にデリバリー専門店に方針変更した。その理由は弁当であれば一時間で六百食を作って販売することができるが、同じだけ売るのは店舗では絶対に無理。店舗で提供するのと弁当で提供するのでは、同じ面積の場所を利用していても、圧倒的に弁当の方が生産性が高いのだ。また髙橋社長は毎日同じ弁当を食べることはないというお客様目線から、他の弁当店をライバル視することは全くないという。オーベルジーヌのカレー弁当は東京駅でも売られているが、そのシェアはまだ〇・一%程度。髙橋社長はこの倍まで売れるように、年間二百万食が今の目標だ。

人気の「アパ社長カレー」が発売から千五百万食を突破

アパグループが販売している「アパ社長カレー」はこの五月に、発売から一千五百万食を突破する。このカレーの開発は拓専務が担当、子ども時代を過ごした金沢の名物である「金沢カレー」の味がベースだ。金沢カレーはトンカツ定食とカレーがドッキングしたようなメニューで、キャベツの千切りをトンカツと一緒に味わうのが定番で、ルーはどろっと濃厚な欧風のものが使われる。拓専務は、一流ホテルのシェフから転職してきた当時のアパホテルの統括料理長と共同で、このオリジナルカレーを作り出し、大阪の指定工場の製造で二〇一一年に発売を開始した。「アパ社長カレー」と命名したのは、元谷外志雄会長だった。全国のアパホテルでの提供に加え、次第に大手企業の社員食堂で採用されるケースも出てきたのだが、その販路が一気に拡大されることになったのは郵便局での取り扱いが開始されてからだ。元々郵便局では文房具や手紙セットなどしか販売しておらず、食品類は一切置いていなかった。東京のあるエリアの郵便局で試験的にアパ社長カレーを販売したところ、これがよく売れた。現在、全国に二万二千局ある郵便局の四割でアパ社長カレーを販売している。レトルトタイプだと賞味期限が二年であり、好評の理由の一つとなっている。

将棋のタイトル戦の一つである「叡王戦」の五番勝負の第二局が、二〇二四年の第九期から石川県加賀市のアパリゾート佳水郷で開催されている。この二〇二四年の時には、藤井聡太叡王に伊藤匠七段が挑戦した。昼食は俗に「勝負メシ」と呼ばれ、佳水郷では何種類かのメニューを用意、藤井叡王は「石川炙り寿司」を中心とするメニューを選んだが、伊藤七段は「アパ社長カレースペシャル~能登豚オリジナルミルフィーユカツと春野菜~」を選択した結果、この第二局を制した。伊藤七段はその後の二勝二敗で迎えた最終戦にも勝利して、見事叡王位の奪取に成功した。このことはヤフーニュースに掲載され、大きな話題になった。今年の第十一期叡王戦の第二局は四月十八日に佳水郷で行われたが、伊藤叡王は三連覇を目指して験を担ぎ、三度目の「アパ社長カレースペシャル」を注文した。

各地に食べたいものがある非常に多彩な日本の食文化

世界中を旅すると、日本社会が全般的に品質が高いことがわかる。卵を生で食べることができたり、加熱をしない魚をお刺身で食べることができたり、水道水を飲用水として飲むことができたりするのは、衛生管理が行き届いているから。世界的にも優れている管理状況を維持するためにも、これらを大切にする日本の文化を次世代に伝えていく必要がある。小澤氏は「温故知新」という言葉が好きで、AIなど新しい技術を導入しつつも、効率化の陰で疎かになりがちな「衛生管理の本質」を、次世代を担う若い世代にしっかりと伝えていきたいと考えている。

また、世界的に俯瞰してやはり特徴的なのは、日本料理の多彩さだ。ユネスコの無形文化遺産に登録されている「和食」以外にも、海外からの旅行客に人気の寿司、天ぷら、しゃぶしゃぶ、もんじゃ焼きや、麺類でもうどん、そば、ラーメンがあるし、カレーもインドとは全く異なる独自の発展をみせている。加工品も漬け物から練り物、干物などが豊富に揃っている。アパリゾート佳水郷では、能登牛のしゃぶしゃぶや加賀野菜、海の幸では冬のズワイガニや寒ブリなどが味わえる。朝食に焼いたみりん干しやイカの刺身が登場するのも、日本の温泉旅館らしいところだ。

日本の食事はローカル色も豊かで、それが旅の楽しみに繋がっている。例えば、札幌で必ず食べたい料理といえば、アパホテル〈札幌大通駅前西〉にも店舗が入っている「中国料理 布袋」の大ぶりの唐揚げ「ザンギ」や「麻婆麺」、二十四時間営業のサンドイッチ店「サンドリア」の「ダブルエッグ」だ。札幌駅にはサンドリアのサンドイッチが購入できる自動販売機があり、その前に行列ができるほどの人気だ。それ以外にも、大阪に行ったらたこ焼きやお好み焼きなどの「粉もん」、浜松に行ったらウナギ、東京なら月島に行ったらもんじゃ焼き、浅草ならヨシカミのビーフシチューといった感じだ。これらの食と同様に駅弁も、旅のモチベーションアップの一端を担っている。

近年若い人々がパスポートを取得せず、海外旅行に行かないということが言われているが、若いうちに海外を見て刺激を受けて、いろいろな発想の種を得ることが、その後の人生に大きな影響を与える。またそうやって世界を知ることで、日本の良さを実感することができる。小澤氏は世界三十カ国を訪れたことがあり、旅行先としてのオススメはトルコとイタリアだ。トルコはイスタンブールはもちろん、世界遺産のカッパドキアや絶景の港湾都市・イズミールが素晴らしい。フランスはパリやその近郊にベルサイユやモン・サン・ミッシェルなど見どころが集約しているが、イタリアはフィレンツェやローマなど見どころの街が分散している。特にベネチアは市街に車が走らず運河の舟で行き来する世界でも珍しい街で、しかも徐々に沈んでいるという話もあり、早めに一度は訪れておきたい場所だ。スキューバダイビングが趣味の髙橋氏がこれまで訪れて一番印象的だったのは、パラオ。その海の中の美しさは、想像を絶するものだったという。