GOOD TALK

健康とコミュニティの社会課題解決を軸に従業員がワクワクできる未来を構築する。Vol.13[2026年6月号]

小岩井乳業株式会社 代表取締役社長 松崎 浩樹
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アパグループ専務 元谷 拓

素材とこだわりから生み出されるクオリティが、「安心」というイメージを創り出している。

アパグループ 専務 元谷 拓

長い歴史を持つ岩手県の小岩井農場の乳業事業の担い手として、キリンビールと小岩井農牧の折半出資によって誕生した小岩井乳業株式会社。「小岩井 純良バター」や「小岩井 生乳100%ヨーグルト」などのロングセラー商品を持ち、今年ちょうど創立五十周年を迎える小岩井乳業株式会社代表取締役社長の松崎浩樹氏が今回のゲスト。社会的価値と経済的価値の両立を目指す松崎氏の新たな経営方針に、アパグループの元谷専務が迫ります。
松崎 浩樹氏 Matsusaki Hiroki
1972年生まれ、三重県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、1996年にキリンビール株式会社に入社。営業部門や人事部門での経験を積み、2024年より小岩井乳業株式会社の代表取締役社長に就任。
CSVの考え方を基本に
長期事業計画を策定

元谷 本日はグッドトークにご登場いただき、ありがとうございます。乳製品に関して「小岩井」というブランドは非常に有名だと思うのですが、小岩井乳業は小岩井農場も運営しているのでしょうか。

松崎 お招き、ありがとうございます。今、小岩井農場を運営しているのは、小岩井農牧株式会社です。岩手県にある小岩井農場は、一八九一(明治二十四)年に創始者である鉄道庁長官の井上勝が日本鉄道会社副社長の小野義眞、三菱社社長の岩崎彌之助の協力を得て、開墾を始めたものです。「小岩井」はこの三人の頭の文字と取って名付けられました。その後小岩井農場は、自家生乳を使用した様々な乳製品を製造・販売していました。そして、一九七六(昭和五十一)年に小岩井農牧とキリンビールの折半出資によって小岩井乳業株式会社が設立され、小岩井農牧の乳業事業を引き継いだのです。現在、小岩井乳業が乳製品の製造・販売、PRやブランディングを行い、小岩井農牧が三千ha、東京ドーム六百四十個分の広さを誇る農場を運営・管理して、酪農事業、山林事業、観光事業などを行っています。

元谷 ということは、小岩井乳業は今年創立五十周年になるのですね。おめでとうございます。

松崎 ありがとうございます。六月一日でちょうど五十周年となり、そこから一年をかけて、五十周年を記念した様々なキャンペーンやイベントなどを行っていく予定です。

元谷 節目を迎えられたわけですが、小岩井乳業の今後十年を見据えた成長戦略を教えていただけますか。

松崎 私は二〇二四年にキリンホールディングスの人材戦略部から、小岩井乳業の社長に就任しました。その際にキリングループ全体でも推進していた経営学者のマイケル・ポーターが提唱するCSV(共有価値の創造)の考えを経営の中心に据え、長期事業戦略を従業員とともに策定しました。CSVとは、ステークホルダーの皆さまと共に社会的価値と経済的価値の両方を創出し、社会と共に持続的な成長を続けていくという考え方です。その戦略の打ち立てる前提に、未来に向けた方向付けをすべく、従業員全員でパーパス(企業の社会的存在意義)の策定も行い、マテリアリティ(重要経営課題)も明確にしました。これらに基づいて、経営と事業計画を今、進化させているところです。中でも優先課題は「価値創造」を加速していくことです。特に既存ブランドの高付加価値を、お客様・ファンの皆様との接点におき、ブランド体験の“量の拡大・質の深化”を通じて、実現していきたいと考えています。小岩井ブランドのファンの方々を筆頭に、社内外の仲間やパートナーの皆さんとの共創を通じて、お客様の五感に響く新たな価値創造にチャレンジし続けていきます。

元谷 キリンホールディングスでも採用されていた考え方を使って、小岩井乳業の経営方針を整理されたのですね。

松崎 はい。もっとリアリティなお話をさせていただくと、私は二年前に着任した時に三カ月ほどかけて、従業員全員と面談や対話を行いました。その時に、これほど社会やお客様の心身の健康に貢献していて、将来に向けてポテンシャルがあるブランドをもっているのに、従業員が未来の志向を十分に持てていないと感じたのです。当社は約二十年前から一定期間、経営的に厳しい時代があったため、常に足元・短期視点で事業経営に取り組んでいる風土が根付いている印象でした。この面談や対話内容を通じて、もっと皆が未来を考えてワクワク・イキイキするような会社にしたいと思ったのです。この思いから、パーパスや長期事業戦略を従業員とともに策定し、皆が未来を見据えて志、Willや当事者意識を持って活躍できる会社へ進化させたいと舵を切りました。お客様や社会の課題解決という観点から弊社の事業を俯瞰した時に浮かんできたのは、一つはやはり健康、そしてもう一つは人と人、人と社会の繋がりからなるコミュニティだったのです。この健康とコミュニティの社会的課題を解決していくビジネスを戦略の根幹に置き、これに徹底的に取り組むという意思確認を社内で行いました。

商品開発で重要なのは
お客様の深い理解

元谷 事業の方向性を、健康とコミュニティというポイントに絞ったのですね。

松崎 はい。まず健康です。弊社の商品は「小岩井 農場3・7牛乳【特選】」などの牛乳、そして「小岩井 生乳100%ヨーグルト」「小岩井 免疫ケアヨーグルト」などのヨーグルト、「小岩井 マーガリン」、瓶入りの「小岩井 純良バター」をはじめ多数あるのですが、これらは全て土台の健康作りに直結するものです。乳製品の栄養素だとカルシウムをイメージする方が多いのですが、さらにタンパク質を豊富に含んでいて、ミネラルやビタミン、脂質も入っています。つまり、炭水化物以外(炭水化物も少し含まれます)の五大栄養素をバランスよく含んでいるのです。このことを従業員全員で改めて見つめ直して、健康という社会課題にしっかりと取り組むことにしました。次にコミュニティです。例えば、私たちの一推し商品である「免疫ケアヨーグルト」シリーズですが、面白いことにこの商品に関しては、一人ではなくお子様など家族と一緒に食べるシーンをSNSにアップされている方が非常に多いのです。このように人と人の繋がりを生む商品をいくつか私たちは持っているという認識があって、これらを増やして「食と健康の新たな喜び」を拡げていこうと考えています。

元谷 健康とコミュニティという二つのキーワードで、事業展開を行っていくということですね。小岩井乳業にもヒット商品が多数あると思います。松崎さんはヒット商品を生み出す秘訣は何だと考えていますか。

松崎 マーケティング担当や開発担当の従業員によく話すのですが、一番大切なのはお客様の深い理解です。今の社会では食が多様化し、生活のサイクルや導線も非常に複雑になっています。この複雑さをきちんと理解していないと、商品開発も価値の提案も全てが間違ってしまうのです。しかし逆にこの複雑さを解きほぐして理解することが、販売のチャンスに繋がります。ですから、お客様という生活者の深い理解、特に一次情報が私たちのビジネスには欠かせないと考えているのです。

素材の良さから来る
おいしさと品質にこだわり

元谷 小岩井乳業と同様に、乳製品を製造・販売している会社は他にもたくさんあります。その中でも小岩井乳業の商品は、とても上品でクオリティが高いというイメージです。松崎さんは「小岩井乳業らしさ」やブランディングをどのようにお考えでしょうか。

松崎 食品メーカーとしてものづくりが一番大切だと考えています。おいしさと品質への強いこだわりをもった技術力が小岩井乳業らしさだと思っています。また、小岩井ブランドの味覚づくりにおいては、“乳”を中心とした素材の味わいや良さを極力自然なままにお楽しみいただけることを心掛けています。

元谷 私の小岩井乳業の商品イメージは、濃厚で口当たりがなめらかで後味も良く、全く隙がないというものです。また酸味がちょうど良い加減で口の中に広がります。消費者が「いい商品を買っている、子どもにも安心して与えることができる」という実感を、しっかりと持てる商品だと感じています。

松崎 ありがとうございます。今おっしゃっていただいた「安心できる商品」というイメージは強く、お客様からのご意見でも、離乳食としての購入がきっかけで、弊社の商品を継続的に食べるようになったという声がよく聞かれます。酸味とまろやかさのバランスが良いために、ヨーグルトが苦手だったお子様が、小岩井乳業の商品なら食べることができたというお話もいただいています。

元谷 一方、アパホテルにはバーもありますので、大人向けにはクラッカーに載せておつまみになる乳製品も…。

松崎 それでしたら、この「小岩井 レーズンアンドバター」がぴったりです。この商品は一九七二年に発売を開始していて、私と同い年なのです。お酒のほのかな甘みと合うということでウイスキーが昔からの定番ですが、ワインや日本酒にも合います。この「小岩井 レーズンアンドバター」は今スーパーでの取り扱いも増え、認知度が再び上がってきています。

元谷 アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉とアパホテル&リゾート〈両国駅前タワー〉にある鉄板焼「THE 七海」では、バターで使って海鮮を焼くメニューが出ることもあります。これに小岩井乳業のバターを使うと一層おいしくなるのではないかと、お話をお聞きしていて思いました。

松崎 ぜひ使っていただきたいですね。弊社の「小岩井 純良バター」は百二十四年の歴史を持つ発酵バターです。小岩井は発酵技術に長年こだわり、技術を進歩させてきました。これがヨーグルトの長時間前発酵製法につながったと考えています。

ブランド愛の強さでは
どの会社にも負けない

元谷 消費者のニーズを掴むために、商品開発の段階で重視していることは何でしょうか。例えば試食会やモニター調査などで、消費者の声を集めてらっしゃるのでしょうか。

松崎 先ほどお話したように、商品開発にはお客様の深い理解が必要だと考えていますから、生活者の実態を正しく把握していることが重要だと考えています。しかしお客様は常に変化しています。この変化をどれだけ捉えられるかが、商品開発を成功させる鍵となるでしょう。そうなると、先を見据えてどのような仮説を立てるかが大事なのですが、これもまず現状をしっかりと抑えることが重要です。あとはターゲットと提供価値(バリュープロポジション)の結びつきを、私たちが持っているアセット(資産)でどう表現していくかが大切ですし、これがブランドのストーリーに最終的には集約されていくと考えています。

元谷 松崎さんから見て、小岩井乳業の従業員が優れていると感じるポイントはどこでしょうか。

松崎 これは間違いなく、ブランド愛の強さですね。キリングループにもブランド愛が強い会社は多く存在しますが、小岩井乳業の従業員のブランド愛は、負けずと劣らず、それを超えることもあるのではと思うくらいです。全従業員がすごく熱い思いを持っていますね。

元谷 皆さん、誇りを持って小岩井のブランドの下、開発や製造、販売に勤しんでいるのですね。

松崎 あと従業員の共感力が凄い。認め合い、助け合い、支え合い、コミュニケーションやコラボレーションを大切にする文化を、ブランドを通して築いてきたのだと思います。これは、ステークホルダーの皆さんとの共創を大切にしていく今後の事業活動に大きく貢献していくと考えています。

元谷 松崎さんの一番お好きな小岩井乳業の商品は何でしょうか。

松崎 「小岩井 免疫ケアヨーグルト砂糖不使用」です。これは四百g入りなのですが、毎朝その半分の二百gを食べています。このおかげか、いつも体調が万全です。

元谷 松崎さんオススメの小岩井乳業の商品の食べ方というのはありますか。

松崎 いろいろありますよ。例えば「小岩井 純良バター」はパンに塗るのがベストですが、どんな料理にも最後に少し加えると、風味が格段に上がります。意外なところでは中華料理との相性が良くて、最後に鍋肌に落として香り付けをするのがオススメです。

元谷 それはぜひやってみたい使用法ですね。先ほどお話した「THE 七海」に限らず、アパホテルのレストランでも今後、小岩井乳業とのコラボメニューをいろいろと開発できれば、お客様に喜んでいただけるのでは…と思いました。今日のこの後のご予定はどうなっているのでしょうか。

松崎 今年、小岩井乳業が五十周年というお話を冒頭にさせていただいたのですが、この周年のプロジェクトメンバーが十七人います。年齢も仕事内容もバラエティに富んだプロジェクトチームなのですが、今日会合を行って、その後新宿で決起集会となる予定です。

元谷 今後登場するであろう、五十周年の企画を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

松崎 ありがとうございました。