元谷一志CEOと多彩なゲストが、その月々のテーマで語り合う「知のアフタヌーンティー・ラウンジ」。
今回は世界最大の食品飲料会社の日本法人であるネスレ日本株式会社 サプライビジネス事業本部
飲料ビジネス営業部・マシンビジネス営業部 統括部長 齋藤裕氏、
十四のアパホテルの朝食を担うエースマネジメント株式会社 代表取締役の飯田真一郎氏、
創業から155年の歴史を誇る陶磁器製品製造・販売の老舗、
株式会社テーブルスタジオ 代表取締役の瀧藤久夫氏をお迎えし、「文化」をテーマに語り合いました。
株式会社テーブルスタジオ 代表取締役
瀧藤 久夫氏
エースマネージメント株式会社 代表取締役
飯田 真一郎氏
ネスレ日本株式会社 サプライビジネス事業本部 飲料ビジネス営業部・マシンビジネス営業部 統括部長
齋藤 裕氏
エースマネジメントの飯田真一郎氏は若いころフランスに料理を学びにいき、三ツ星レストランを食べ歩き、トゥール・ダルジャンで鴨料理を食べて衝撃を受けた。また、シェフであるドミニク・ブシェの調理を目の前で見せてもらった経験がある。日本に帰国してからは和食文化も学び、二〇〇九年からはアパホテルのテナントとして朝食を提供することで朝食文化の発展に一役買っている。元はご飯に納豆、干物、味噌汁というメニューで始まった宿の朝食だが、今は日進月歩でより多彩に進化、料理の提供方法も変わってきている。ホテルの口コミでも、朝食で宿を決めているお客様が多く、エースマネジメントでも楽天トラベルやじゃらんnetの朝食のお客様評価を非常に意識している。
二〇二五年十二月十八日にオープンしたアパホテル〈札幌大通駅前西〉にはテナント飲食店として、中華料理店「布袋」が出店した。札幌のソウルフードである「ザンギ」と呼ばれる大きな鶏の唐揚げで有名だ。これまであり得なかった「布袋」の朝食が食べられるということで、他のホテルよりも喫食率が格段にアップしている。この朝食は宿泊者しか食べることができないが、地元の人からは宿泊なしでも「布袋」の朝食が食べたいという声が出ているほどだ。
齋藤裕氏のネスレ日本は、インスタントコーヒー(ソリュブルコーヒー)のネスカフェの輸入を一九五〇年から開始、一九六五年には姫路工場を完成させて、翌年から国内でのネスカフェの製造も始めた。当時は喫茶店で飲むものであったコーヒーを、誰でも家庭で簡単に楽しむという新しい飲用文化を創造したり、暑い夏に冷たいアイス飲用の文化を牽引したり、トーストにコーヒーという欧風の朝食スタイルを提案し急速に広めるなど、様々なシーンで日本の消費者がコーヒーを楽しめるよう地道な広報活動を行いながら、コーヒー文化を広めてきた。
一八七〇(明治三)年創業の瀧藤久夫氏のテーブルスタジオは、最初は陶磁器に絵付けをして海外に輸出する貿易会社だったが、時代の変遷と共に和洋食器を中心とした商品を、ホテルやレストランに販売する業務を行っている。通常ティーカップは薄手で飲み口が広がっており、コーヒーカップは厚手になっているが、厳密に考えずにティーカップでコーヒーを出す店もあるかもしれない。ハンガリーのヘレンドやドイツのマイセン等、海外のブランド食器が有名だが、日本でも割合は和食器よりも小さいが洋食器が造られている。例えばその味わい深さで知られる伝統工芸品の佐賀県の有田焼では、和食器も洋食器も作っている。最近は飲食店がドリンク提供時に価値を高める工夫を行っていて、紅茶にガラスの器を使用する店舗が多くなった。そのような付加価値を高めるような余裕が感じられる飲食店に、人気が集まる時代だ。
一志CEOが十二月に出張で訪れたアメリカのシアトルのパイク・プレイス・マーケットという市場には、スターバックスの第一号店があって、世界中から観光客が訪れる「聖地」となっている。スターバックスの創業は一九七一年で、これはアパグループや日本マクドナルドと同じだ。シアトルはGAFAM(Google、Amazon、Facebook<Meta>、Apple、MicrosoftのIT大手五社の総称)と関係が深く、グーグルとマイクロソフトは本社を構え、他の三社も研究拠点等を置くなど、独自のIT文化が育まれている街だ。そんな企業群に出勤する人が、朝はスターバックスでコーヒーを買って、それを飲んでスイッチを入れるというのが文化になっている。森永乳業はカフェラテブランドとして「マウントレーニア」を冠した商品を発売しているが、このレーニア山はシアトルから見ることができる山だ。シアトルのコーヒー文化を日本へというコンセプトで、この山の名が付けられた。コーヒー生産国が分布する北緯二五度〜南緯二五度のエリアはコーヒーベルトと呼ばれているが、日本では石垣島や宮古島がかろうじてこのエリアに入る。最近はこの二島に加え沖縄本島等でも、コーヒーの栽培を行う農園が誕生している。輸入品であることが当たり前だったコーヒーだが、今後は国産コーヒーがもっと出回ってくるかもしれない。
一志CEOは今回の北米出張の際、カナダのバンクーバーで「桶屋久次郎」という寿司店で食事をした。松田卓也氏が二〇二〇年にモントリオールに一号店を、二〇二二年バンクーバーに二号店、二〇二四年トロントに三号店を出したこの店の特徴は、「劇場型おまかせ」スタイル。コの字型のカウンターには、最初は中が見えないように幕が降ろされていて、時間になるとオープン。そこから二時間の料理ショーが始まる。日本刀で刺身を切るなど、エンタテインメント満載の内容だ。松田氏はシルク・ドゥ・ソレイユに感銘を受け、それと料理を融合させた店を作り上げた。カナダでも大人気で、著名な料理ガイドブックの星も獲得している。四号店は京都で、松田氏も来日して二〇二五年十二月二十六日に開店。日本でもまたたく間に人気店になることは、間違いないだろう。シルク・ドゥ・ソレイユと日本料理という、これまでそれぞれできちんと確立していた二つの文化を融合させて、全く新しい世界観を築くという発想が素晴らしい。
オイシイファームは、コンサルティングファーム出身で、MBA取得のために渡米した古賀大貴氏がアメリカ人と共同で起業した、日本の農業技術と工業技術の粋を集めたいちごの植物工場を運営している会社だ。アメリカのニュージャージー州の旧プラスティック工場を再利用した「メガファーム」には、完全閉鎖型のいちご農場ユニットが設置され、外の気候に関係なく一年中安定的にいちごを栽培することが可能。ロボットやAIの活用で、ミツバチによる受粉までコントロールした効率的な無人オペレーションを実現し、電力は隣接した太陽光発電所から、水は循環システムで大部分を再利用している。最初は一パック六十ドルで販売していたが、工場の二十四時間稼働による大量生産が可能になることで、一パック十ドルと値下げを行った。天候不良や人手不足でも採算のとれる農業ができるため、これから世界を席巻するかもしれないビジネスモデルだ。新進気鋭の経営者は非常に豊かな発想を持っており、多くのビジネスパーソンの刺激となっている。常に世界的な視野を持ってウォッチを続けることが、ビジネスチャンスに繋がっていく。
二〇二六年六月に開催されるFIFAワールドカップの、日本代表のグループステージの対戦相手と日程、場所が発表されている。初戦の相手はオランダ代表で六月十五日にアメリカのダラス・スタジアムで、第二戦の相手はチュニジア代表で六月二十日にメキシコのエスタディオ・モンテレイで、第三戦の相手はヨーロッパプレーオフの勝者(三月に決定)で場所がまたダラスになる。大のサッカーファンである一志CEOは、百人規模の応援団を結成して観戦する予定だ。瀧藤氏は成城大学サッカー部出身の元プレイヤーで、一志CEOとはいつもサッカー談義で盛り上がる。世界中にサッカー文化は広がっているが、やはり発祥のイギリスの文化は濃厚だ。パブに集まった人々が、飲み食いしながら地元のチームについて語り合い、一週間の機嫌もチームの勝敗で決まる。また別の国では、裸足のストリートサッカーが盛んだったりする。日本では今、球技が禁止されている公園が増えているが、その結果子供達が家の中でゲームをして遊ぶようになってしまっている。子供達の怪我を考えての規制だと思われるが、少し行き過ぎているのではないだろうか。
島根県にある足立美術館は、アメリカの専門誌の日本庭園ランキングで、二十二年連続で日本一に選ばれた庭を持つ。庭の姿がさらに外の自然と合わさった景観は絶品で、二つある喫茶室では、そこから臨める庭の風景に合わせた異なるメニューが異なる食器で提供されている。景観に合わせて出すものや器を変えるのは、茶道を生み出した国らしくいかにも日本的で、足立美術館は訪日外国人旅行者の人気訪問先となっている。
浅草のかっぱ橋道具街は、かつては飲食店の人々が業務用調理器具や食器を購入する場所だったが、今はすっかり訪日外国人旅行者の人気スポット化した。増えたのは、外国人旅行者の人気のお土産になっている包丁の店だ。海外では口コミで、日本の包丁の素晴らしさが話題になっていると思われる。食品サンプルも相変わらずよく売れている。店のスタッフにも海外出身の人が増え、一見どこの国かわからない光景が展開している。
かつては家族団らん等、家族での行動が標準とされていたが、最近は一人で楽しむことが重視されている。団らん文化から「おひとりさま」文化への移行だ。調理器具でも昔はなかった一人用の土鍋が登場、よく売れているという。「おひとりさま」向けの外食が増える中、それを家でもやってみようということで、一人鍋だったり一人しゃぶしゃぶ、一人すき焼きなどが流行っている。一人でキャンプやカフェ、映画等様々な遊びを行う「ソロ活」も若い世代を中心に、当たり前のものとなっている。寂しくないのかとも思うが、他人の邪魔を受けないというのは、確かにメリットだとも思える。
ニンテンドーのゲームやアニメ、漫画も今は日本を代表する日本発の文化だ。サウジアラビアでは、世界初の「ドラゴンボール」のテーマパークの建設計画が進んでいる。こういった日本発の文化も、海外の様々な文化にインスパイアされて融合して、「桶屋久次郎」やオイシイファームのように、さらに優れたものへと進化していく可能性がある。掛け合わせの文化が、これからの日本には非常に重要なものになっていくだろう。