Big Talk

米中拮抗を維持が日本にとっては望ましいVol.360[2021年7月号]

早稲田大学ビジネススクール教授 相葉宏二
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APAグループ代表 元谷外志雄

ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタントとして活躍した早稲田大学ビジネススクール教授の相葉宏二氏。経営学の専門家でありながら、七年前に真実の歴史に覚醒して、歴史書のシリーズも執筆した氏に、バイデン新政権のアメリカとそれに対峙する中国、両者の今後の動向についてお聞きした。

相葉 宏二氏

1954年神戸市生まれ。1976年東京大学法学部を卒業、太陽神戸銀行(現三井住友銀行)に入社。1982年ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。同年ボストン・コンサルティング・グループに入社、1991年パートナー等を歴任、大阪国際大学助教授を経て、2002年より現職。『グロービスMBA事業戦略』(ダイヤモンド社)、『教科書に書けない歴史』 シリーズ5冊(Amazon Kindlebook)等、著書多数。

歴史的に見て
日本ほどまともな国はない

元谷 今日はビッグトークへの登場、ありがとうございます。相葉さんのご専門は経営学なのですが、四年前からAmazonの電子出版であるKindleで、「教科書に書けない歴史」という歴史書のシリーズを出版されています。また、勝兵塾にも頻繁に参加されていることから、今回お招きすることにしました。

相葉 よろしくお願いいたします。私は代表同様にビジネスのキャリアを金融機関から始めたのですが、コンサルティング会社に転職、その後独立して大学教員もしています。歴史に関しては多くの方同様に、戦後の自虐史観を刷り込まれて大人になったのですが、七年前におかしいと気づき、歴史を猛勉強して本を書いたのです。代表の仰る「真実がわかれば保守になる」は、本当にその通りだと思います。

元谷 歴史にも詳しいということで、今日はいろいろ教えてもらいたいと思っています。先の大戦の歴史といえば、日本軍は東南アジアを侵略したのではなく、侵略していた西欧列強を追い払って解放したと私は考えています。特に真珠湾攻撃の直後に行われたマレー作戦は、わずか二カ月でシンガポールを陥落させたという、戦史に残る大勝利でした。

相葉 マレー作戦自体は代表の仰る通り、素晴らしい戦果だったのですが、杜撰な行動もありました。私は東京銀行に勤める父の仕事の関係で一九六〇年代前半、七~十一歳までシンガポールに住んでいたのですが、日本人は華僑の人々からとても恨まれていることを肌で感じました。小学生だった私はある日、学校の友達の家に行ったことがあるのですが、そこのお母さんに「今日は仕方がないが、二度と来ないで」と言われました。その理由は、一九四二年に日本帝国陸軍の辻政信が唆した、多くの華僑虐殺です。シンガポール占領初期に、華僑を集めて尋問し、「敵性」と見做した者を裁判なく処刑していたのです。反証がいくらでもある南京大虐殺とは異なり、犠牲者の名簿も研究者によって作られていたり、多くの証人がいたりと、この虐殺は確かなことで、山下奉文がフィリピンですでに処刑されていたため、辻に命じられて実行したものが戦犯として処刑されています。

元谷 この華僑虐殺は、あまり日本には伝えられていませんね。戦争は基本悲惨なもので、やるべきではないことですが、やらざるを得ない場合もあります。ただ、そんな場合でも、戦場では様々な悲劇が生まれています。戦争責任と戦場での犯罪的行為とは分けて考えるべきでしょう。そして犯罪的行為を理由に戦犯として裁かれるのは、常に敗戦国の人のみというのも問題です。

相葉 私も全く同感です。

元谷 もっと歴史の真実を、後世の人に伝えていく必要があります。私はそれを目指して、言論活動を続けているのですが。

相葉 私も全く同じ思いで、二〇一七年に本を書きました。丁度同時期に代表の書かれた本を読んで、私のやりたいことを先にやっている人がいるのかと、非常に驚きました。

元谷 『理論近現代史学』ですね。毎月この月刊Apple Townに書いているエッセイを年に一回、まとめて本にしたものです。もちろん過去は取り返せませんが、間違ったことがあるとすれば、次は過去を参考に正しいことをしなければなりません。そういう意味で、歴史というのは大事なのです。私は歴史の専門教育を受けたわけではありませんが、自分なり学んで考えたことを、エッセイという形で文章にしています。

相葉 私は十年前に、中国語の勉強を始めました。中国の歴史を読み込んでいくと、自分が知っているものと全く異なるのです。それから朝鮮も台湾もアメリカも、いろいろな国の歴史をしっかり学んでいくと、私が考えていたものとは全部違っていることがわかってきたのです。

元谷 どの国も自国を良く見せる歴史教育を国民に行い、対外的にもその歴史を前面に押し出してきます。例外は、自虐史観がまかり通っている日本だけでしょう。しかし真実は違います。西欧列強が新大陸からアフリカ、アジアまで過去に何をしてきたか。彼らが行ったことは、侵略以外の何者でもありません。中国が、大躍進政策や文化大革命でどれだけの人を殺したのか。時代の空気もあり、一概に今の基準でそれらの行為を責めるのはおかしいと思いますが、少なくとも日本にはそれらと同等の歴史は存在しません。

相葉 全く異なります。日本のようなまともな国は、世界中探してもないでしょう。

ホワイトハウスの中で
力を失ったバイデン大統領

元谷 その中国は、十四億人という圧倒的な人口の力を利用して経済力をつけ、それを軍事力に変えて、海洋進出の野望を露わにしています。日本は侵略されないための策を講じるべきです。外交は力の鬩ぎ合いであり、平和を望んでも軍事力の背景がなければ、単なる絵に描いた餅にしかなりません。日本の教育現場では、こんな力の論理を教えないのです。先の大戦で日本が悪いことをしたとばかり教えるのではなく、もっと世界の歴史を深く教えなければなりません。

相葉 確かに教えるのは、現実を離れた理想論ばかりです。ただ、中国は今、尖閣よりも台湾を狙っているのではないでしょうか。

元谷 まずは台湾でしょうね。次に尖閣諸島と沖縄、そして日本本土を狙ってくると思います。一つの政府が十四億人を束ねるというのは、有史上初めての歴史的な大実験です。これまでだとソ連のように、内紛から分裂を起こすのですが、今の中国は強権でまとまっています。このまま力をつけていくとどうなるのか、予測が非常に難しい。世界が中国の覇権の下にひれ伏すというシナリオも、十分に考えられます。

相葉 私は、中国は遠からず、経済的に破綻すると考えています。アメリカからの制裁は、ボディブローのように中国に効いています。既に国内では習近平外しの動きが出ているのではと、私は推測しているのです。GDPの半分近くの投資をリーマンショック以来続けてきて、債務が積み上がってきて、地方政府は対応に苦慮していますし、国営企業の破綻も始まっています。中国人は本音のところでは政府を信用していませんから、もうすぐ金持ちは財産を持って逃げ出すのではないでしょうか。

元谷 とはいえ、権力を握っている側は強いですよ。そうおいそれと、政府が倒れることはないでしょう。ただ、豊かになってきたから、民衆が従っているという側面はあります。経済成長が止まり、将来の今以上の豊かさが望めなくなった時には、危険ですね。また中国人は本土以外にも、華僑として世界中にネットワークを築いています。この全体としての力は絶大です。

相葉 スケール的には大きな力であることは確かです。もう一つ、中国に不利なことは、対中強硬路線に転じたアメリカに、多くの国が追従し始めたことです。一時期、かなり中国に接近していたオーストラリアは、中国による賄賂や利益誘導が明るみになり対中政策を転換、今は鋭く中国と対立しています。この空気はイギリスにも飛び火しています。トランプ前大統領が始めた対中強硬策ですが、元々親中派と目されているバイデン大統領がどうするのか、周りのスタッフがどう考えるのかは、まだ未確定です。

元谷 今のところバイデン大統領は、かなり中国には厳しく対応しています。特に、ウイグルでの人権侵害で激しく中国を批判しているのは、国民からの支持獲得という理由も大きいのでしょう。当初年齢から再選はないと考えられていたバイデン大統領ですが、だんだん再選への意欲が湧いてくるのではないでしょうか。

相葉 私が危惧しているのは、本当にホワイトハウスを動かしているのが誰かが、わからなくなってきていることです。バイデン大統領の発言を、報道官がホワイトハウスの意見ではないと否定するケースが出てきています。実権を握っているのは副大統領のカマラ・ハリス氏か、それともホワイトハウス外の人かもしれません。その背景にあるのは民主党の左傾化です。さらにほとんどのアメリカのメディアや、アマゾンやアップル等の「ビッグ・テック」と呼ばれる巨大IT企業も加担しています。

元谷 その分、保守派が劣勢ということですね。

相葉 はい、共和党はかなり追い込まれています。そもそもトランプ氏がなぜ批判されたのかといえば、彼が戦後初めてウォール・ストリートの金に支配されない大統領だったからです。共和党であろうが民主党であろうが、これまでの大統領には皆、選挙資金支援者の「ヒモ」が付いていたのですが、トランプ氏にはそれがなかった。だから彼はロシア疑惑で三年も総攻撃され、それ以外にも多くの攻撃を受けているのです。

元谷 なるほど、反トランプ運動には、そういう背景があるのですね。私は、トランプ氏はまだ再選への意欲を捨てていないと思っています。今年一月六日に発生したトランプ支持者による議会議事堂襲撃事件ですが、その後過激な運動は一切起きていません。これはトランプ氏が、次の選挙での再選に方針を転換した結果ではないでしょうか。日本にとっては歴史的に見ても、民主党政権よりも共和党政権の方が都合がいいのです。連続しない二期を務めたアメリカ大統領としては、二十二、二十四代のクリーブランドという先例もありますから、ぜひトランプ氏には再度大統領になって欲しいです。

相葉 私も同感です。最近、トランプ氏の話し方が変わって、冷静になりましたね。内容はあまり変化はありませんが。

武力衝突も想定した
対中政策が必要だ

相葉 バイデン大統領には、今の対中強硬路線を続けて欲しいと思います。米中が対峙していないと、日本はポジション取りに困りますから。

元谷 確かに戦後日本経済は、米ソ冷戦の間に急激に成長してきました。同様に米中冷戦の継続が都合良く、一方が他方を完全に制圧することは望んでいません。今は中国があるから、アメリカは日本を優遇しているのです。

相葉 しかし、私の予想ではいずれ中国は経済的問題から崩壊しますから、その時の世界経済への影響や難民の発生も怖いですね。

元谷 確かに、人口十四億人という人類が経験したことのない大実験国家ですから、今後どうなるかは誰にもわかりません。

相葉 私が生きている間に、どのように物事が変化していくのか。そして日本人が誤った歴史観からいつ覚醒するのか。非常に大きい事件が起こらないと、日本人は変わらない気がしています。

元谷 「大きい事件」とは、例えば何でしょうか。

相葉 まずは台湾有事でしょう。

元谷 台湾が中国共産党の支配下になったぐらいでは、日本人は目覚めないかもしれません。尖閣諸島や沖縄に中国軍が侵攻したぐらいの、インパクトがある出来事が必要でしょう。ただ、まず日本は台湾を守ることを考えるべきです。中国の最終的な狙いは日本ですから、台湾が沖縄になり、日本本土になるかもしれないからです。

相葉 台湾の現状を何が何でも維持すると同時に、台湾情勢の重要さを多くの日本人が理解する必要があるでしょうね。

元谷 その通りです。また、今日本が安全を維持できているのは、周囲に海があるからです。防衛力として最も重要なのは、海上自衛隊が保有する世界一の技術を誇る、深深度潜水艦と深深度魚雷でしょう。航空機による爆撃やミサイル攻撃だけでは、日本を屈服させることはできません。どうしても上陸作戦が必要なのですが、深深度潜水艦によって制海権を日本が維持している以上、中国はこれを行うことができません。

相葉 核ミサイルによる攻撃であれば、日本は屈服せざるを得ないのではないでしょうか。

元谷 日米安保条約がある以上、迂闊には核兵器は使用できません。通常兵器やゲリラ戦を仕掛けてくる可能性の方が高いのではないでしょうか。

相葉 私の母親が長崎で原爆投下に遭遇しており、父親は特攻隊の生き残りで、彗星に搭乗していました。いろいろと話を聞いていながら、日本が現代の技術での戦闘に巻き込まれていく事態を想定することが、なかなか難しいのです。

元谷 もちろん、あらゆる手段を尽くして、武力衝突を避けなければなりませんが、そのことと最悪の事態を想定しておくことを同時に行うべきなのです。今の日本は武力衝突が起こることを想定外として教育を行っていますが、これは誤りです。

相葉 教育とメディア、これらを変えるのが一番難しいですね。

元谷 例えば、日露戦争の直後に起こった日比谷焼打事件は、日清戦争に比べて得るものが少なかった日露戦争の講和条約に対して、メディアが煽って民衆が暴動を起こしたものです。他にもメディアの誘導による様々な悪影響が発生しています。メディアをチェックする機関が必要なのです。

日本のニュースだけでは
アメリカはわからない

相葉 テレビや新聞等旧来のマスメディアは急速に影響力を失い始めてきていて、ユーチューブやツイッター、フェイスブック等のネットメディアが政治的に動きつつあります。その結果、これらの上で、正しい情報が押さえられ、嘘の情報が流布されることがあります。このため今世界では、SNSを法律で規制しようとしています。

元谷 SNSも大きな影響力を持つようになりましたが、旧来のマスメディアの影響力もまだまだ残っています。それらが大きな声で伝えることが、メディア世論として正義になりがちです。

相葉 確かにその通りです。例えばアメリカのブラック・ライブズ・マター運動の発端になった、昨年五月二十五日のジョージ・フロイド氏の死亡ですが、警官の膝での圧迫による窒息ではなく、鎮痛剤として開発された合成麻薬・フェンタニルの摂取過剰ではないかという説もあります。しかしテレビ等のメディアが、一斉に警官による窒息死と断定して報道した結果、世論は完全にそちらに偏りました。メディアの偏向によって、真実がわからなくなるのです。

元谷 人々の考えは一斉報道によって、大きく変わりますからね。

相葉 アメリカに関するニュースは、直接アメリカのメディアを見ないとわかりません。日本のメディアは、CNN等左派系メディアの報道ばかりを取り上げるからです。FOXニュース等保守系メディアは、全く異なる報道を行っています。

元谷 確かに、トランプ支持のFOXニュースの報道は、ほとんど日本には伝わってきませんでしたね。私は次のアメリカ大統領選挙は、再びトランプ対バイデンになるのではないかと見ていますが、相葉さんはいかがですか。

相葉 バイデン大統領はこの後ミスを繰り返すなどして辞任、カマラ・ハリス氏が大統領になることもあり得ると私は思っています。

元谷 そうなった場合、次の大統領選挙で民主党が再び勝つか、共和党が奪回するかは非常に不透明になりますね。次第に覇権国家化する中国に、バイデン大統領等、民主党政権のアメリカが迎合することはあり得ますか。

相葉 あり得ないでしょう。現状では民主党も共和党も反中国で結束しています。アメリカは世界覇権を失う気は全くありません。

元谷 しかし、経済力で中国がアメリカを凌駕した場合はどうでしょうか。

相葉 先程お話したように私は、中国はアメリカ以上の経済大国にはなり得ないと考えています。そもそも中国の統計は信用できないのです。中国人に聞くと、すでに三割水増ししている可能性すらあるようです。

元谷 中国が経済的に破綻して、ソ連のように分裂・民主化していくことが日本にとっては望ましいのですが、現実ではIT技術をフルに活用して、かなり強引な統治を行っています。ウイグルでは、至るところに監視カメラ設置して、顔認証で行動を把握して、予防拘束で百万人以上の人々を収容所に入れているのです。

相葉 カメラと共に、スマホ決済を普及させて、国民の金の動きを政府が全て把握しています。現金が使われなくなる中、政府に反対する人の決済手段を止めることも容易です。IT技術が民主主義ではなく、権威主義に有利なものになっているのです。

元谷 未来予測は非常に難しいですが、米中冷戦は当面は続くということでしょう。日本は今後、何に一番注力すべきなのでしょうか。

相葉 基本的には、日本はアメリカにくっついていくしかないでしょう。そして中国が経済的に巨大な問題を抱え、政治的にも変化してくれればいいのですが。そんな中、日本の若い人が今、あまり危機感を持っていないことが、非常に怖いですね。目を覚まして欲しいです。

元谷 私は、アメリカが現在の力をどこまで維持できるかが鍵だと考えています。人口が三億人対十四億人であり、この人口を基にした経済力を軍事力に変えて、中国は拡大を続けています。その軍事力によって台湾や日本に圧力を掛けていますから、日本も当然警戒心を持ち、準備をするべきなのです。その中で日米安保に寄りかかった姿勢でいられるのは、アメリカに絶対的に中国を凌駕する力がある場合だけです。日本はアメリカが力を失った場合のシナリオも、考えておくべきではないでしょうか。

相葉 仰る通りだと思います。

元谷 最後にいつも、「若い人に一言」をお聞きしています。

相葉 学生にいつも言っていることなのですが、国際的な視野が不足しています。海外から日本に来ている留学生とも接しているはずなのですが、日本社会の常識に囚われ過ぎているのです。

元谷 冒険をしないということですね。

相葉 留学すらしたがりません。日本の居心地がいいのでしょうね。チャレンジ精神が減ってきているように感じます。本人達は幸せなのでしょうが。

元谷 いろいろな経験をしていないと、新しい事態に対峙できなくなります。もっと挑戦をしたくなる雰囲気作りが重要ですね。今日はいろいろと興味深いお話を、ありがとうございました。

相葉 ありがとうございました。