日本を語るワインの会153

ワイン153二〇一六年二月四日、恒例「日本を語るワインの会」が代表自邸にて開催されました。昨年十月まで外務副大臣を務め、ISによる人質事件の際にはヨルダンの現地対策本部長だった衆議院議員の中山泰秀氏、この三月に日本についての本を出版する予定のトーゴ共和国大使館臨時代理大使のスティーブ・アクレソ・ボジョナ氏、一月に出版した「やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人」(PHP研究所)が好調の米国カリフォルニア州弁護士ケント・ギルバート氏、博物館の展示に対する中国からの歴史改竄要請を暴露した米国太平洋戦争博物館日本事務局代表岸田芳郎氏をお迎えし、昔も今もテロと陰謀が渦巻く世界について、語り合いました。
二〇二五年の大阪万博を地方創生の起爆剤に
 憲法改正は安倍政権の今が、実質的なラストチャンスだ。この機会を逃せば、何十年も憲法改正を発議できる首相は登場しないだろうし、その間に日本は中国に飲み込まれてしまう。安倍首相は憲法改正を掲げて、衆参同時期選挙に臨むだろう。来年四月に迫った消費増税は決行されるはず。やらないと安倍首相の威信が失われてしまうからだ。安倍氏に一年でも長く首相をやってもらうのが日本のためだ。自民党は党則を改正して、総裁の任期を現行の連続で二期六年から三期九年にまで延長すべきではないか。アメリカ大統領は基本二期八年だ。長くやらないと、実効性のある政策はできない。途中国民の審判を受けない一期制は危険だ。韓国大統領は一期五年のため、後がない任期終盤で腐敗しがちであり、退任後に逮捕されることも多い。
 二〇二〇年の東京オリンピックの次は、二〇二五年の大阪万博を…という動きが活発になっている。この四月にも閣議決定が行われる予定だ。万博誘致の一番のライバルはパリ。テロに屈しない姿勢を打ち出しており、同情票もあってパリはかなり有利だ。日本にとって地方創生の象徴となりうるのが大阪であり、万博を起爆剤にした復活が望まれる。アパホテルも今後大阪で4つのプロジェクトが稼働する予定だ。現存のアパホテルの中でも、大阪と北陸新幹線効果の金沢の売上伸び率が最も大きい。
 自虐史観からの脱却など、ケント・ギルバート氏の一連の発言に一番反発しているのは日本にいるアメリカ人だ。その理由は、彼らがThe Japan Times(ジャパンタイムズ)を読んでいるから。この英字新聞は朝日新聞顔負けの左翼紙で、自虐史観が強い。先日もアメリカン・スクールの教師の慰安婦問題で安倍首相はいつまでも懺悔をするべきという主張が掲載されていた。日本のアメリカン・スクールの教師には元ヒッピーの左翼が多い。
 昨年末の日韓合意に対して保守の中でも賛否が分かれている。代表の元にも多くの勝兵塾生から電話があった。しかし日米韓の結束を固めるには、これしか落とし所はなかった。憲法改正に集中するためにも、捏造の慰安婦問題にこれ以上関わるのは時間と労力の無駄だ。これで国際的には慰安婦問題は終わり、韓国の国内問題になった。挺対協は北朝鮮の影響下にある組織であり、今後韓国政府がどのように対応するかは注目に値する。
 動向が心配なのは、原油価格の下落で経済的な勢いを失ったロシアだ。今年、安倍首相を含め多くの要人がロシアを訪問する。米中の新冷戦時代において、ロシアは必ず味方につけておかなければならない国だ。日本にとっては、アメリカカード以外のカードとしても重要だ。確かにプーチン大統領は自作自演のテロを行ったり、時には暗殺も厭わない独裁者だが、そこに拘泥しても日本の国益には資さない。日本の保守は真実に拘る傾向があるが、それだけで済む国際情勢ではない。功利主義的に考えるべき。対ロシアでは今が日本にとってチャンスであり、北方領土問題の解決も睨み、良い関係を構築していくべきだろう。

金正恩の最大の関心事は自分の命を守ることだ
 拉致問題の解決をどうするか。一つのアイデアとして、北朝鮮に住む小西隆裕をリーダーとするよど号ハイジャック犯を、逮捕して帰国させることがある。彼らは日本人拉致者の居場所を知っている可能性が高いからだ。小西らも逮捕帰国に同意している。これ以外の手は少ない。自衛隊を派遣して取り返すのも、物理的に無理だ。日本と北朝鮮の関係を拉致だけで考えるのも問題だ。世界を見渡せば、このような事件は頻発しているし、韓国人で拉致された人はかなりの数になる。金正恩が一番注力しているのは、自分の命を守ることだ。中国にとって緩衝地帯としての北朝鮮は必要だが、金正恩は必ずしも必要ではない。彼の兄の金正男をマカオに匿っているのは、いざとなったら首をすげ替えるためだ。金正恩は今後、堅固な政権を確立するか、クーデターで倒されるか、中国に暗殺されるか、三つの道しかない。
 海外からの駐日大使のレベルが高いのに比べ、日本の外務省の外交官には首を傾げる人が多い。OBにはM氏のようなとんでもない親中派もいる。今現役の外交官としてM氏の息子が外務省に勤めているが、父親を反面教師にしているようだ。今年の一月にニューヨークのカーネギーホールで、三枝成彰氏作曲のオペラ「KAMIKAZE‐神風ー」の公演を行う予定だったが、日韓合意を受けて在米韓国人が騒ぎを起こす恐れがあるという理由で、日本の駐ニューヨーク総領事の反対によって公演は潰された。日本の精神と反戦のメッセージが非常に良く伝わるオペラで、多くのアメリカ人に観てもらいたかったのに、非常に残念なこと。この外務省の対応には憤りを禁じ得ない。
 三月三十一日から四月三十日まで、東京、仙台、横浜、広島、福岡など全国十四箇所でトーゴ文化フェスティバルが開催される。トーゴで最も有名な歌手キング・メンサーのコンサートも行われる予定だ。多くの人がトーゴの文化に触れる良い機会になるだろう。

優秀な教師を育てるために学費不要の高等教育機関を

 橋下徹氏は今後どうなるのか。素晴らしい逸材だが、そもそも国家観、世界観、歴史観についてはどうか、ということもある。若さと突破力は凄いが、組織力が弱い。自信があるから、なんでも自分でやってしまう。政治というのはもっと組織で行うものだ。安倍首相は昨年、維新の党の大阪系までが内閣不信任案に賛成したことに、わだかまりがある。だから大阪府知事、市長のダブル選挙に、閣僚の半分と党四役を送り込んだのだ。橋下氏が安倍首相と緊密な関係を持つのはいいが、安倍氏が将来裏切られないように上手く立ち回る必要がある。結局維新の党は分裂してよかった。民主党と維新の党が一緒になっても決して票は増えない。民主党の岡田代表のやっていることは、的外れだ。
 偏差値・記憶力教育の勝者である日本の学者は、あまり優秀ではない。優秀な人は自分で事業をする。優秀ではない人が人に教えるというアメリカのことわざもある。大学の先生の中でも特にビジネス系の学部の先生が駄目だ。本当に優秀なら自分でビジネスを興して成功しているはずだ。現状では勉強が出来る人が教員にならない。防衛大学のように、学費が不要でむしろ給料をくれるような教員養成のための高等教育機関を作るべきではないか。馳浩文部科学大臣には、その辺も考えて欲しい。
 ISはこれまでのテロリストとは全く異なる。広報担当を持たず、様々なメンバーがインターネットを媒介にプロパガンダを行っている。昨年発生したISによる日本人拘束事件では、日本政府はヨルダン当局と交渉した。身代金は先進国首脳会議で確認された通り、一切支払っていない。湯川氏、後藤氏の殺害に続いて、二月三日にヨルダン空軍のムアーズ中尉の焼殺映像がネットにアップされたが、ヨルダン当局はムアーズ中尉が一月三日にすでに殺害されていたことを、殺害直後に把握していた。前年の十二月二十四日に墜落、捕えられ、一月三日まで拷問されて殺されたのだが、その後一カ月間、ISはムアーズ中尉が生きていると見せかけていたのだ。後藤氏がムアーズ中尉の写真を持っている画像がISによって公開されたが、これはphotoshopという画像編集ソフトウェアで加工してムアーズ中尉の顔に髭を生やし、一カ月経過したことを演出した写真だと判明している。従来のテロリストにはない、コンピューターやネットに関する高い技術をISは持っている。またヨルダンの現地対策本部長だった中山泰秀氏が記者会見で語った英語を引用して脅迫文を書き、それを後藤さんに読ませた動画をネットにアップしていた。これは後藤さんがまだ生きているというISからの証明だった。オウム真理教のサリン事件が正にそうだったが、テロとハイテクが出会うことが今の時代の真の脅威だ。

日本でもテロの可能性あり安全のためのコスト意識を
 よくISはスンニ派は殺さずシーア派や非イスラム教徒を殺すと言われているが、それは嘘であり、全部殺している。彼らの行っていることは宗教対立ではなく、野蛮な無法行為なのだ。事件当時からなぜトルコではなくヨルダンに現地対策本部を置いたのかと批判された。その理由はヨルダンが立憲君主国であることだ。国王の行政機関や国民に対するグリップ力は、共和制の元首のそれよりも非常に強い。実際ヨルダン国王はムアーズ中尉と日本人を同等に扱い、それを国民に納得させていた。ISがムアーズ中尉が生きているように見せかけた理由は、これをネタにヨルダンで革命が起きることを狙っていたからだ。後藤氏が解放されるという噂を流したりすることで、ヨルダン国王が自国民よりも日本人を大事にしているという印象を与え、民衆を蜂起させようとしたのだ。実際にムアーズ中尉の家族や親戚はかなり動揺していた。しかしヨルダン国王はどちらも助けるというスタンスを変えず、民衆の動揺を抑えた。すでにムアーズ中尉が殺害されているという情報を握っていたからこそできた対応だろう。
 今年五月に伊勢志摩サミットが開催される。テロの標的になりやすいのは、サミット会場など警戒が厳しいところではなく、例えば渋谷のスクランブル交差点など、世界的に有名だがテロ対策が取りにくい場所だろう。髭があればイスラム教徒の疑いを持つが、綺麗に髭を剃ってしまえば、他の外国人とは区別がつかない。武器の持ち込みは難しいので、プロパンガスなど日本にすでにあるものを使ってテロを起こすのではないか。さらに警戒が必要なのはネット上のサイバー攻撃だ。官庁はセキュリティレベルが高いが、民間の病院などが狙われ、カルテが書き換えられたら、間違った投薬によって犠牲者がでるかもしれない。テロを防ぐのは非常に難しい。ルールを守る人とルールを無視する人が戦えば、無視する人の方が圧倒的に有利だ。日本ではこれまで安全と水と空気はタダだと思われてきた。この意識を変えて、安全に対して応分のコスト意識を持つ必要がある。