2014年1月号 第161回
「過労死」

馳 浩 衆議院議員

丸川珠代厚生労働部会長から電話。 「馳先生、ちょっとお願いがあります。」 「どうぞ、何なりと。」 「過労死防止対策議連の、自民党代表世話人になっていただけませんか?」 「ん。どういうこと?」 「超党派の議員立法を提出する予定なんです。党内取りまとめの手続きをするにあたって、私は厚労部会長なので、自民党代表世話人をできません。メンバーの中を見渡して、馳せんせいが最適だと思います。野党の世話人からも、取りまとめはぜひ馳さんに、と頼まれました。お願いします。」 「ちょっと、待った。これは少々やっかいかもしれませんね。電話だけでハイハイと、安請け合いできる案件ではなさそうです。確かに過労死対策は必要ですが、超党派の議員立法となると、与党としての責任重大です。タテヨコナナメの検討をしなければなりません。一度、説明に来てください!」 「はいっ、わかりました!!」
ということで、さっそく情報収集に入った。
まず、現在の法律のどこをさがしても、過労死、という用語はない。定義は、ない。
法令上の労災認定基準において、以下の記述が参考にされている。
◎労働基準法施行規則 別表第1の2

 8.長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等 を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病。
 9.人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に 過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病。
◎脳・心臓疾患の労災認定基準の例  発症前一カ月間におおむね100時間又は発症前2~6カ月間にわたって一カ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働を行った場合等。
◎なお、労災として認定されるためには、業務と疾病との間に相当因果関係があることが必要であるところ、認定基準は、現在の医学的知見に基づいて、業務起因性を肯定し得る要素を集約して基準化を図ったもの。
ふむ、よく調べておく必要があると直感した通りの基準だった。
心情的に、「過労死なんてあってはならない」という国民感情は、理解できる。 「二度と、ウチの夫のような悲惨な過労死を起こしてはならない!」
という遺族の激情は、全くその通り。
また、ILOに勤務する友人に国際電話で聞いてみたところ、返って来た事実にびっくりした。曰く、 「KAROSHIは、スシやカラオケに匹敵する日本語として定着しています。今年の5月には、国連の社会権規約委員会が、日本政府に懸念を示した上で、立法措置を含む新たな対策を講じるよう勧告しています。ジュネーブのILO本部で働く日本人として、恥ずかしい限りです。馳さん何とかして下さい!」
とまで訴えられてしまった。
なるほど。これまで20本を超える議員立法に関わって来たが、ここまで国連に厳しく勧告されている実態を、放っとくわけにはいかない。義を見てせざるは勇なきなり。
そこでさっそく関係者ヒアリングに入った。
議連事務局長である民主党の泉健太さんは、 「一日でも早く立法を。議連ではもう要綱をまとめています。この臨時国会で結論を!」  とおっしゃる。
ストップ!過労死、基本法制定委員会の弁護士や遺族代表の皆さまも、 「二年前から実行委員会を作り、原案をまとめて来ました。今年6月に議連も結成され、骨子案、そして要綱もできました。一日も早く超党派で成立させて下さい。」  と、切羽詰まった訴え。
その事情はよくわかる。
ただ、臨時国会も残り3週間を切ったスケジュールの中で、要綱を条文化し、法制局の審査や各党手続きを重ねる作業は、至難の業。 「こうしましょう。与党の責任として、党内勉強会を立ち上げ、実態調査や関係者ヒアリングを厚生労働部会のもとで精力的に行ないます。とくに、過労死という定義については、拡大解釈とならないように、カチッとした文言を練り上げますし、過労死や過労自死や、そういった最悪の事態にいたる一歩手前の精神疾患等も対象にできるか検討しましょう。十分に検証を尽くした上で、できあがった法案の運用まで想定した、魂の入った法律に仕上げましょう。必ず、やりましょう!!」
と、引き取った。
社会のひずみの中で、過労死の被害者は、毎年200名を超えている。この深刻な実態をなんとか改善しなければ、先進国、経済大国の名がすたる。

(了)