2013年6月号 第154回
「スポーツ外交」

馳 浩 衆議院議員

 外交にはかけひきがつきもの。
 国益をてんびんにかけるのだから、お互いがゆずれない一線を、どのようにしてときほぐしていくのかのプロセスと交渉力が必要。
 二〇二〇年オリンピックパラリンピック東京大会の招致推進本部長を引き受けた私は、さっそく海外出張に出かけた。
 おめあては、IOC委員との直接会談。
 しかし、多忙を極めるメンバーであり、現地に到着するまで、会談がセットされているかどうか、確約はなかった。
 それでも、事前の準備と情報収集だけはていねいに行った。
①IOC倫理規定の遵守。
②その国のスポーツ事情。
③当該国IOC委員の関心事項。
 ルール違反をしては、せっかくのキャンペーンが逆効果となるし、そうかといって遠慮ばかりしていては、トンビに油揚げをさらわれてしまう。孫子の兵法よろしく、IOC倫理規定というルールを熟知した上で、相手が何を求めているかに答えながら、自分たちの主張を理解してもらい、流れ(ペース)をつかむのは外交のイロハ。
 先ず訪問したのは、オーストリア。
 大使館がセッティングしてくれたのは、シュトス・オーストリアオリンピック委員会委員長との面談。場所はカジノ・オーストリア。
「どうしてカジノの会社でスポーツの話?」と率直にうかがうと、
「オーストリアのスポーツ予算1億3千万ユーロの内、8千万ユーロは、カジノ・オーストリアが財源として拠出しているんですよ。」
 とのこと。
 日本でならば、JOCが自らカジノを運営し、その売り上げをスポーツ振興に使うようなものだ。
 シュトス委員長が強調する。
「オーストリアでは子どもの肥満が社会問題になっている。毎日1時間の体育の時間を法律で規定している。我々はJOCとの提携をさらに強化し、例えばアイスホッケー競技での日本との交流を深めたい。二〇二〇年東京開催にはシンパシーを感じる。今回のハセさんの情熱あふれるキャンペーンにはシンパシーを感じる。ヴァルナーIOC委員にも話しておく。」
 と、好意的に話していただいた。
 経済界を代表してエックスナー総領事と懇談すると、さらに踏み込んだ表現。
「マドリードは財政状況が厳しい。王室の金銭スキャンダルもある。パリは二〇二四年の開催を目指しており、日本はフランスと共同戦線を張ればどうか。トルコとオーストリアの二国間には、移民問題や歴史的侵略問題もある。イスタンブール開催はドイツの経済的利益につながるだけだ!!」
 と、こちらがびっくりするほどのあけすけなもの言いだった。
 私は訪問直前に、猪谷千春元IOC委員から、
「馳さん、絶対に他の立候補都市の悪口を言ったり評価をしてはいけないよ。どんな小さな情報でも、すぐにネガティブキャンペーンに使われるから。それに、IOC委員はプライドが高く、政府からの関与を嫌う傾向があるから、言動には要注意!!」
 とアドバイスされていたので、エックスナーさんの勢いに圧倒されながらも、メモを取ることに集中して、苦笑いでごまかし、あまり図に乗らないように会話をすすめたのだが。
 ウクライナでは、サフィウリン青年スポーツ大臣と予定時間をオーバーして議論した。
 ネタは、スポーツ基本法とチェルノブイリ。
「86年のチェルノブイリ事故を経験した我々にとって、フクシマ原発事故は他人事ではない。とりわけソ連崩壊後の20年で七〇〇万人もの人口減少(主に少子化)に悩んでいる。国民の健康増進のためにも、スポーツ関連施設の整備と、スポーツ指導者の学校への配置が重要課題である。スポーツ振興を国策として法律に規定した日本とは、よりいっそうの協力を推進して行きたい。私は9月にブエノスアイレスで東京に決まることを期待。東京の支持は、国際的な民間のレーティングで55%となっており、他よりも高い。」
 と熱く語ってくれた。
 実は、オーストリアとウクライナには、計3人のIOC委員が住んでいる。
 その3人と面談できたかどうか、ここでは詳細に書くことができない。
 なぜならば、IOC委員との接触についてすら、倫理規定の条項に明記されているから。
 だが、わざわざ日本から訪問をし、東京の開催計画がいかに優れているかと、日本政府がオリンピックムーブメントに具体的にどう貢献するかについての意欲を伝えることができた。
 やはり、スポーツ外交は重要だ。世界平和を実現する一助としてのオリンピックパラリンピックの運動体は、なくてはならないと実感した。

(了)