2013年1月号 第149回
「泥船解散」

馳 浩 衆議院議員

  恥ずかしい。
 解散前日のこと。
 衆議院本会議場となりのお手洗いに、小用を足しに行ったとき、個室から携帯電話の声がもれてきた。
 電話の主は、民主党の某代議士。
 相手は、某マスコミ記者のようだ。
「……困った、アイツはまだ離党に同意してくれないんだ。説得してるんだけど……。」
「わかった。はっきりしたら、テロップを打ってくれ、名前を教えるから。」
「……本当に信じらんないよ、こんなタイミングで解散を明言するなんて。ソーリはよっぽど思いつめたんじゃないか……。」
 信じられないのはこちらの方だ。
 誰が聞いているかわからないトイレの個室で、大声で離党発表の連絡をしているだなんて。
 よっぽど文句を言ってやろうかと思ったが、咳払いを二つしてから黙って出てきた。
 この期に及んで、という気がした。
 みんなで選んだ民主党の代表が野田佳彦総理大臣じゃないか。それも二カ月前に。
 舌の根もかわかないうちに、沈みゆく泥船から逃げ出そうだなんて、覚悟なさすぎ。
 もちろん、部下も部下なら、大将も大将。
 とても国益を国民に問う解散表明ではない。
 この前日の党首討論のことだ。
 初対決の安倍晋三自民党総裁は、あたりまえのように、「近いうち解散」の明示要求。
 どこまでシナリオを練り上げていたかわからないが、どじょう総理はヤブから棒に定数削減への確約を求め、十一月十六日の解散を明示した。よっぽどウソつき呼ばわりに耐えられなかったと見えて、小学校の時の通知表で、バカ正直と書かれたエピソードを持ち出した。
 当然、冷静に安倍総裁は切り返した。
「定数削減は元々、自民党の政権公約でもあります。しかし、こんな大切な議員の身分にかかわることを、二つの政党だけで決めていいんですか?」と。
 その通り。議席は主権者たる国民のもの。二大政党だけで決めて後はみんな従えというのも乱暴すぎる。
 しかし、野田総理の切羽つまった覚悟を受け止めた安倍総裁は、
「民主党が出されている連用制はきわめてわかり辛い。しかし、十六日に解散して頂ければ、国民の皆さんに委ねようではないか!!」
 とその場を引き取り、直後の自民党役員会で、定数削減に次期通常国会で協力することを確約し、十六日解散は確定した。
 近いうち解散が必要だと主張していた野党にとっては、野田総理の決断は、遅きに失したとはいえ、シナリオ通り。
 しかし。
 より衝撃の強かったのは、与党民主党の方だった。寝耳に水だったからだ。
 だって、解散にふさわしい政策条件が、何もそろってないどころか、不協和音ばかりが表面化していたのだから。
(1)TPP協議参加表明について、強硬反対派が顕在化
(2)二〇三〇年代原発稼働ゼロに疑心暗鬼
(3)三党合意の消費増税に、いまだに反対派
 エトセトラ、エトセトラ。
 そもそも、マニュフェスト違反に耐えられず、ポロポロと離党者が相次ぐ中で……
 対岸から見ていても、政権政党としての存在のたえられない軽さには、開いた口がふさがらない。そんな中でのいきなり解散宣言。
 野田総理は、党内外から追い込まれていた。
 マニュフェストが崩壊し、その象徴が消費税。けじめをつけるためには、新たな政権公約を示して総選挙を闘い、国民の審判をあおがざるを得なかった。
 党内が分裂し、これ以上放置していては、解散の大権を封じ込まれ、その総理の座をひきずり下ろされる寸前でもあった。
 衆議院で過半数を割れば、即刻、不信任決議案が可決し、解散か総辞職。
 追い込まれ解散を避けたい党内からは、とにかく人気のないトップ交代がまことしやかに公言されていた。 ウソつきもいや、せっかく総理になったのに解散も出来なければ、末代の恥。
 そこで大芝居のパフォーマンスが、党首討論の場で、いきなりの解散日時明示。
 練り上げられているようで、下心丸見えの解散に、徒労感をおぼえたのは与野党一致した見解。
 何故か!
 本来、国民に信を問うべき、国益論争を二分すべき政策論争があってしかるべきではないのか? 政権維持が目的の、いや、総理のメンツを立てるためのパフォーマンスでは底が浅い。
 マニュフェストで政権交代実現の、あれから三年余。どれほどの国益と国際社会の信頼を失ったか。それを取り戻す闘いが、始まる。

(了)