2011年1月号 第125回
「官邸崩壊」

馳 浩 衆議院議員

「馳さんの質問だけだョ、提案してくれるのは。野党の皆さん厳しいからねぇ。」
 とため息まじりに苦笑いで話しかけてこられたのは、柳田稔法相。予算委員会室にて。
「ハーグ条約とオウム対策は、国民生活に直接かかわりますからねぇ。前向きに取り組んでください。」
「はい、わかりました。」
 と、誠実に答える柳田さん。
 そのお人柄の良さは与野党通じて定評ある所。
 しかし、個人的な人間関係やお人柄の善し悪して、法務大臣の適格性は判断出来ない。
 柳田さんの以下の発言は、決して身内の会合での雑談ではなく、支援者数百名とマスコミ公開の場での公式発言。
「答弁は二つ覚えておけばいい。個別の事案についてはお答えを差し控えます。法と証拠に基づいて適切にやっている。分からなかったらこれを言う。これでだいぶ切り抜けてきた。何回使ったことか。」
 ふざけた話だ。
 法務大臣として言語道断、許しがたい。
 国会論戦軽視。
 その資質に問題ありと言わざるを得ない。
 ところが仙谷官房長官や菅総理は、厳重注意をしただけでおとがめなし。
 柳田さんは反省を示すも自ら辞める意思はなし(十一月一九日現在)。
 そもそも柳田大臣は、失言(暴言)の会合でこう発言してもいる。
「議員になって二十年、一度も法務行政に関わったことはないのに、法務大臣に任命された。」
 ……素直と言えばそうかもしれないが、これでは任命権者である菅総理の責任。
 そもそも、総理と官房長官が仕切らねばならない官邸のリーダーシップのなさ、事なかれ主義が閣僚の気のゆるみを招いていることは、事実。
 これで国家の役割り、機能を果たしていると言えるのか?
 そもそも尖閣諸島周辺での中国漁船体当たり事件への対応が官邸崩壊の象徴。
「ビデオを見れば、公務執行妨害は明白。」
 と前原外相(前国交大臣)は言明した。
 だったら、法と証拠に基づいて、判決まで国内法に従って進めれば良かったのだ。
 拘留延期までしておきながら、中国政府の圧力に屈して「処分保留で釈放」してしまうから、「マヌケで弱腰外交」などと国会で袋叩きにあい、何よりも国益を失ったのだ。
 失った国益は何だったか?
 それは「外交上の信頼」と「国民の信頼」。
 中国との間で海洋権益の紛争を抱えているベトナムやフィリピン、マレーシアからは、「日本を頼りにしていたのに……」
 との期待があったのに裏切ってしまった。
「日本は圧力に弱い。日米同盟も弱体化している」とみてとったロシアのメドヴェージェフ大統領は、国後島を訪問してブログに
「ロシアにはこんなに美しい風景がある!」
 と写真付きのコメントを掲載した。
 日本国固有の領土である北方領土や尖閣諸島を、この国の指導者は本当にまもる気があるのか、との国民の疑念を生じさせてしまった。国民の信頼を裏切ったまま。
 この事件後、横浜で開催されたせっかくのAPECの会議でも、友好を演出するばかりで、中露首脳に対しては腫れ物にさわるような扱い。
 抗議も闘論も、ましてや熟議の外交すら展開出来ずに終った。がっかり。
 そして国会論争ではレベルの低いイザコザを繰り返すありさま。
「柳腰外交」(対中弱腰外交を指摘され)
「健忘症」(丸山議員との電話を暴露され)
「暴力装置」(自衛隊を評して)
「彼の将来を傷つける」(恫喝)
 ……枚挙にいとまがない。
 まるで年末の今年の流行語大賞候補のオンパレード。
 これすべて仙谷官房長官の発言。
 暴言、失言、方言をくり返しては、謝罪と撤回、言いのがれ。
 どうしてこういう官邸になってしまったのか?
 政権交代から一年。
「与党になれておりませんから……」
 よもや今だにそういう弁解が通用するとは思っていまいが。
 国会カメラマンの正当な取材活動を、
「盗撮」
 呼ばわりして、マスコミのせいにして、これまた謝罪と撤回、言い訳に追われる始末。
 いったい、政治主導というスローガンとは何だったのか?情報公開は口先だけだったのか?!
 手柄は政治家、ミスが起きたら官僚の責任。あげくのはてにはマスコミに八つ当たり。
 とても国家を代表する人物とは思えない。
 そんな人物が裏の総理として居座る官邸。
 官邸崩壊。終わりの始まり。

(了)