社会時評エッセイ

憲法修正の
最後の機会を逃すな
Vol.314[2018年11月号]

藤 誠志

憲法審査会提案以外でも
改憲の発議は可能だ

 雑誌「月刊WiLL」十月号の参議院議員の和田政宗氏の連載「独眼竜・政宗の国会通信」のタイトルは、「憲法改正へ機は熟した」だった。「八月十二日、安倍総理は山口県で開かれた講演会で、『自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう、とりまとめを加速すべきだ』と述べた。憲法改正に向けた本格議論が、国会で始まる段階まで来た」「自由民主党は今年三月末の党大会の前に、党の憲法改正推進本部の議論を踏まえ、四項目において憲法改正の条文イメージ(たたき台素案)を決定した。それは「自衛隊明記」「緊急事態」「参院合区解消」「教育の充実」であり、近隣諸国が我が国の脅威を作り出している以上、憲法への自衛隊の明記は最も優先度が高い」「我が国が他国からの攻撃の危険にさらされる理由は、憲法に国を守る手段が明記されていないからである。このような国は、日本の他にクック諸島、ニウエ及びモナコの三カ国しかなく、一定の国土と人口規模を持つ国で、憲法に国防手段が記されていないのは日本だけである」「他国を攻撃したい国にとって、日本ほど楽な国はないだろう。なぜなら、ミサイルを日本に打ち込んだとして、日本は反撃できないかもしれないし、もし反撃行動に出てきたとして、憲法の制約上、極めて抑制的にならざるを得ないからだ」「非武装国として例示されることが多いコスタリカやパナマも、いざという時の対応は憲法に明記されている。コスタリカ憲法には『国防のため軍隊を組織できる』、パナマ憲法には『全てのパナマ人は、国家の独立および国の領土を守るために武器を取ることが求められる』とある。日本国憲法は、ごく当たり前のことが欠落しているから、国土と国民を危機にさらす結果をもたらしている」「しかしながら、自民党の憲法改正における党内議論も、憲法改正案を国会提出する段階までは至っていないのが現実だ。国会の憲法審査会で議論を活発化させたいという思いから、私は七月、憲法改正案の国会提出から国民投票までの流れを改めておさらいする勉強会を発起人として開催した。憲法改正の発議の提案、すなわち改正条文案の提出は憲法審査会においてしかできないという誤解が、国会議論を停滞させているのではないかと考えたからである」「実は憲法改正の条文案の提出は憲法審査会による提出の他に、国会法においては、衆議院での百人以上の賛成、または参議院での五十人以上の賛成があればできる」「このことを知らない国会議員もいるだろう。野党は憲法審査会を止めたり、議論がまとまらなかったりすれば、憲法改正案を提出できないと考えているかもしれない。だが実は、一定数の議員がまとまれば、憲法改正案は提出でき、国会の審議に正式にかけられるのである」とある。

国民を守ることが一番大事
過去や周辺国は二の次だ

 ここで和田氏は軍隊を保有していない国について触れている。実際、軍隊を保有していない国には、国土面積が狭く人口が少ないミニ国家が多い。ウィキペディアの「軍隊を保有していない国家の一覧」の項目には、軍を保有していない理由として、「外交・経済上の理由」、「クーデター・内戦の予防」、「周辺国の介入、外国軍の占領による強制的な軍隊の解体」の三つが挙げられている。最初の「外交・経済上の理由」がミニ国家にとっては一般的だ。
 私は二〇一〇年十月にコスタリカとパナマを訪問、当時のコスタリカの外務大臣、レネ・カストロ・サラサール氏と観光庁のシニアアドバイザーだったジーナ・ギーリェン・グリリョ氏と対談を行い、その様子をApple Town二〇一〇年十二月号の特別対談記事やエッセイに書いた。エッセイのタイトルは「コスタリカ訪問と米軍が撤退したパナマ運河視察」。「平和が欲しいなら戦争の準備をしろ」という小見出しに以下のような本文が続く。「私はこれまで多くの駐日大使とビッグトークの対談を行い、互いの考えを磨き合ってきた。最近ではApple Town九月号で対談した、中南米・コスタリカ共和国のマリオ・フェルナンデス・シルバ大使が非常に印象的だった。中南米諸国の中でも民主主義が確立され、経済発展も順調なコスタリカは、一九四八年に軍隊を廃止したことで知られている。これを知る多くの日本人が軍事力を一切否定した国だと思っているようだが、それは事実とは違う。大使との対談で一番記憶に残ったのは、古代ローマの言葉を少しもじった『平和が欲しいなら戦争の準備をしろ』という言葉だった」「大学で教鞭をとっていたこともあるシルバ大使は歴史の知識が豊富で、こんな発言もしていた。『私は写真が好きでよく写真雑誌を見るのですが、印象に残っている一枚に宇垣一成大将の写真があります。近衛内閣で外務大臣も務めた人物ですが、その前は朝鮮総督でした。対中国の最前線にいた彼は、アメリカに対して中国がいかに危険な国かということを訴えています。田母神氏の論文を読んで、この宇垣大将の話を思い出しました』。そんなシルバ大使に私は質問をした。韓国の哨戒艦を撃沈するなど暴走を続ける北朝鮮や膨張政策をとる中国と対峙する日本が、果たして軍隊を持たないでいることが可能かと。その答えはこうだった。『北朝鮮は、日本だけではなく世界にとって危険な国です。金正日が権力を維持するために、国民を犠牲にして兵器にお金を費やしているのです。以前であれば中国が北朝鮮をコントロールしていたのですが、今は手がつけられない状況です』『日本に軍隊が必要かどうか。もちろんなくて済むならそれに越したことはありません。しかし今の日本の状況下であれば、国民を守るために軍隊は必要でしょう。まず今の国民を守ることが一番大事なのであって、過去や周辺国を気にしすぎてはいけないのです。中国は中国で、平和を口にしながら軍備を拡張しています。日本は日本で、自分たちを守る方法を考えるべきなのです』と明言した」「またシルバ大使はこんなことも言っていた。『先週、私はダライ・ラマと同じ昼食会に出席しました。チベットでは中国との争いで百万人以上の人々が亡くなっています。ダライ・ラマは常に平和を祈っているのですが、中国は聞く耳を持っていません』。大変デリケートな問題にも非常に勇気のある発言する大使に私は理由を訊いた。『私はもともとコスタリカ大学で人権論などを教えていたので、外交官というより研究者というスタンスが強いのかもしれません。ですから正しいと考えていることは、何も恐れずに発言しているのです』という答えだった。私はこんなシルバ大使の母国・コスタリカに非常に興味が湧き、訪問する計画を練り始めた。コスタリカの隣にはパナマ共和国がある。私はかつて家族四人でエジプトを訪問した時、当時はイスラム過激派ゲリラが観光客を襲っていて、観光バスには護衛の車が同行するなど非常に危険な時だったが、レンタカーは現地の車に紛れてかえって安全だろうと、カイロから往復四〇〇キロの道をオンボロなレンタカーを運転してスエズ運河を見に行った。その時から次はパナマ運河を訪問したいと決めていたのだ。今回もぎりぎりのスケジュールだったが、コスタリカに着いてから、現地の旅行社でパナマ行きのエアーチケットと一泊のホテルを手配して、パナマ運河を訪れる予定を立て、タイトなスケジュールの中、一泊二日の日程でコスタリカからパナマへと向かった。隣国だからコスタリカもパナマも同じような雰囲気だろうと考えていたのだが、空港からして異なっていた。一八二一年にスペインからの独立を果たしてから長い歴史を持つコスタリカに対して、パナマはさまざまな勢力に翻弄され続けて、完全なる主権国家となったのは一九九九年とごく最近のことだ。民族の構成もスペイン系が多いコスタリカに対して、パナマには混血やアフリカ系の人々が多く、人種の坩堝といった国で、空港の入管手続きがスムースだったコスタリカに比べて、パナマ空港の入国係官はほとんどが黒人で非常に非効率に思えた」「空港からはタクシーをチャーターして移動、約五十分でパナマ運河のミラフローレス閘門に到着した。私はパナマ運河というのは、太平洋と大西洋の高低差を水門で仕切っているものだと思い込んでいて、その高低差を利用して水力発電を行えば、無尽蔵のエネルギーを得られるのではないかとも考えていた。しかし現地を訪れて、このイメージがまったく間違いであることを思い知った。パナマ運河には私が訪れたミラフローレス閘門をはじめ、閘門と呼ばれる水のエレベーターが三カ所作られていて、三段階で船を海抜二十六メートルの高さにあるガトゥン湖の水位にまで上げ、反対側でまた三段階で船を下げる仕組みになっている。私はパナマ運河の水は海水と思っていたが、閘門で使われている水はガトゥン湖の限られた湖水だ。パナマ運河開通一〇〇周年記念の二〇一四年の完成を目指して二〇〇七年に着工した拡張工事とともに、その新しい閘門に用水再利用貯水槽を設置し、最大六〇%の水を再利用できるようになるそうだ。わずか二十六メートルの高さを上るとはいえ、閘門を見ていると、まるで船が山を登っているかのように思えた」。

軍隊を持たない国家にも
強い国防意識がある

 コスタリカの外務大臣らとの特別対談の中で私は軍隊について触れ、「軍隊がないとはいえ、人口比の規模では日本の自衛隊に匹敵する八千人を擁する警察軍をお持ちですね」と言いましたが、否定はしなかった。先にも参照したウィキペディアの「軍隊を保有していない国家の一覧」の項のコスタリカについての解説では、「憲法では『恒久的制度としての軍隊を廃止』と常備軍の廃止を規定しているものの、有事には徴兵制を行い軍を組織できることになっている。また法執行機関のうち、警邏・警備警察を担う公安部隊には、憲法で『国の自主性を守る』という役割が与えられており、イギリスの国際戦略研究所などでは『準軍隊』として扱われている。この準軍隊である組織の予算も隣国ニカラグアの国軍の三倍近くあり、ニカラグア側からは『軍』と形容されている」としている。同じくパナマの解説は「アメリカ軍のパナマ侵攻により一九九〇年に軍が解体された。一九九四年改正の憲法で軍の非保有を宣言。警察や沿岸警備隊などの人員は一一八〇〇人以下に制限。ただし緊急時には、一時的な警察強化が可能となっている」とある。両国とも軍隊を持たないとはいえ、国を守る手立ては講じているのだ。

米中間選挙のタイミングが
改憲発議の絶好のチャンス

 中国をはじめロシア、北朝鮮、そしてアメリカと日本の周辺国は全て核保有国だ。さらに明らかに日本に敵対している韓国という国もある。そして中国とアメリカは貿易戦争を激化させながら、北朝鮮を奪い合っている状況だ。アメリカにとって北朝鮮の核兵器はあまり脅威ではなく、彼らが恐れているのは大陸間弾道ミサイルだ。一方、東アジアの中国や韓国、日本にとっては、すでに完成しているノドンなどの中距離ミサイルがあるために、核兵器自身が脅威となっている。この意識の違いも大きい。日本にとっての悪夢は、韓国が北朝鮮に併合され、核を持つ連邦朝鮮が誕生することだ。韓国の文在寅政権は、むしろそれを望んでいるのではないだろうか。核を持つ連邦朝鮮の誕生は、脇腹に突きつけるドスのように日本を脅かす。この連邦朝鮮が中国の手先となったらどうなるのか。日本が中華人民共和国日本自治区となる日も遠くないだろう。
 こんな状況の下、先に挙げた軍隊を保有していない国家の「理由」を見てみる。日本が軍隊を保有していない理由は、もちろん七十三年前に「外国軍の占領による強制的な軍隊の解体」を受けたからだ。しかし経済大国となりG7の一員となった今の日本には、軍隊を持たない「外交・経済上の理由」はないし、クーデターや内戦の恐れも皆無だ。和田氏が指摘するように、日本には軍を持たない理由はないのに、憲法で自衛隊を軍隊と認めていないために、日本の安全保障が危ういものとなっている。国土と国民を守るためには、まず占領下で作られた憲法を修正して自衛隊を軍隊として明記するべきではないだろうか。
 今は衆参ともに三分の二の議員が改憲賛成だ。しかしこれも、来年七月の参議院議員選挙までのことだ。また今年十一月にはアメリカで中間選挙が行われる。トランプ大統領はこの選挙に勝利するために米中貿易戦争を始めた。米国は知的財産権侵害の制裁として、中国からの輸入品500億ドルに25%の追加関税を課すことにした。これはハイテク分野における「米中覇権争い」であり、「製造業大国としてハイテク分野での覇権を握ろうとする中国の存在が邪魔」というのがトランプ政権の胸中にある。また、北朝鮮危機を煽って北朝鮮を自らの傘下に置くことで共和党への支持を高めようとするだろう。日本でもその北朝鮮危機を利用して憲法改正の発議を行い、六カ月以内の国民投票に持ち込むべきだ。過半数の支持を得るためには、全ての改憲派の国会議員の尽力はもちろん、都道府県議会議員の力も必要で、どうしても国民投票で不利ならば、衆議院を解散して国民投票とのダブル選挙もあり得るのではないか。まずは多くの国民の支持を得やすいように、自衛隊を憲法に明記する加憲という形で憲法改正の発議をして、二回目の憲法改正は2020年11月のアメリカ大統領選挙の直前に行われる可能性の高い、朝鮮戦争終結協定を行おうとするトランプ大統領再選戦略の総仕上げのタイミングで憲法第九条第二項の削除をして、自衛隊を真の軍隊とする改正を含む、本格的な独立自衛の憲法に改正を行うという二段階憲法改正が、私は現実的だと思う。安倍首相もこの秋の臨時国会に憲法改正案を提出することに意欲を見せている。和田政宗氏の主張通り、正に機は熟したのだ。

2018年9月13日(木) 18時00分校了