社会時評エッセイ

新帝国主義時代の到来

藤 誠志

「世界の警察」の座をアメリカは放棄した

 五月十日付けの産経新聞は、今の国際情勢を象徴するような記事が並んでいた。まず一面トップの見出しは「南シナ海緊張 米 火消し躍起」だ。「南シナ海で、領有権を争う中国とベトナム、フィリピンとの緊張が高まり、米政府は情勢の激化を阻止するため、各国に自制を促している。オバマ大統領は先のアジア四カ国歴訪で、安全保障の重心をアジア太平洋地域に移す再均衡(リバランス)戦略を補強したばかり。これに反発する中国の今回の出方を注視しているが、ウクライナ情勢も抱え、新たな火種はもみ消したいというのが本音だ」。
 第二面には「併合後初 クリミア訪問」「露大統領『祖国に戻った』」というタイトルが踊っている。「ロシアの対ドイツ戦勝記念日に当たる九日、プーチン露大統領は、併合したウクライナ南部クリミア半島のセバストポリを訪問した。黒海艦隊のパレードで演説したプーチン氏は、クリミア半島が『祖国に戻った』、『クリミアの人々は自分たちの尊厳と自由を得るために戦った』と述べ、併合があくまで住民の強い希望によるものであることを強調」という。
 先の大戦から六十九年、冷戦終結から二十三年。世界最強の軍事国家アメリカは冷戦に勝利した後、世界一極支配体制を確立すべく、伝統的にヨーロッパ権益の地であった中東で、イラクのフセインがクエートに侵攻したと湾岸戦争を始めた。その後九・一一のテロを実行したアルカイダのビンラディンをかくまっているとアフガニスタンに侵攻し、タリバン政権を崩壊させて、その後に大量破壊兵器を蓄えているとして、フランスなどの反対を押し切り、イラク戦争をしてフセインを殺害し占領したが、大量破壊兵器は見つからなかった。アメリカの不正義な戦争に、厭戦気分の世論も出てきて、撤退を余儀なくされた。そんなオバマ大統領は、最近特に内向き傾向を強めていて、かつてのアメリカのように武力をちらつかせて交渉を行うのではなく、万事話し合いで済まそうとしている。
 原油支配を目指して進出した中東だが、アメリカ国内でシェールガス・オイルの開発が進み、エネルギーを他国に依存しなくても済むようになったこともあって手を引き始めており、シーレーン防衛の重要性が薄らぎ、アメリカとサウジアラビアとの関係もかなり冷え込みつつある。これも内向き傾向の一因だ。「アメリカは世界の警察官」というスタンスはすっかり鳴りを潜め、自国に直接影響のないことに、関与しなくなってきた。

 

多極化する世界の中で中国とロシアが台頭

 アメリカの弱体化・内向き化に反比例して、中国やロシアが台頭してきている。第二次世界大戦後、世界は民族自決を尊重するが、武力による領土変更は認めないというコンセンサスを築いてきた。しかしロシアによるクリミア半島の併合、ベトナム、フィリピンが南シナ海でEEZ(排他的経済水域)や領有権を主張するエリアへの中国の露骨な進出は、このコンセンサスを蔑ろにしている。特に中国の南シナ海への進出は、東シナ海の日本の尖閣諸島への挑発と軌を一にしている。かつて中国は、朝鮮戦争に義勇軍を派兵し、インドに対して一九六二年に中印国境戦争を仕掛け、原爆実験に成功した後、ソ連に対して一九六九年にダマンスキー島争奪戦で軍事衝突した。一九七九年にはベトナムに対して中越戦争を行うなど、周りの全ての国と戦争をしてきた。中国の領土拡張意欲は、一九四七年にモンゴルの南部を内モンゴル自治区として統治し、一九四九年に東トルキスタンを統合、翌年にはチベットに派兵し、一九五一年にラサを占領した。陸続きの国とやれることは全てやり尽くした。そして、「次は海」というのが、今の中国の真意だろう。だから東シナ海では尖閣諸島、南シナ海でのパラセル(西沙)諸島、スプラトリー(南沙)諸島へと、手を伸ばし始めた。いずれも狙いは海底に眠る資源と、太平洋へと向かう「出口」の確保だ。その流れから、尖閣諸島近くの日中中間線部分でガス掘削施設を造ったり、今回問題となったように、南シナ海で石油掘削を強行する中国に対して、自国の沿岸警備隊が中止勧告をしても、それを無視して体当たりし、放水して抵抗してくる中国船の映像を即座に公開するベトナム。この南シナ海における中・越の激しい争いは日本にとっては他人事ではなく、その動向に最大限の注意を払う必要がある。南シナ海は、日本にとっても海上輸送に欠くことのできない「シーレーン」であり、中東の石油などが通過する大事な海上交通路だ。
 ポーランドやバルト三国をNATOに加盟させたことで危機を感じていたプーチンは、ウクライナの政変を機にクリミア半島を独立させて結局は併合し、次に東ウクライナへと触手を伸ばし始めている。ロシアの最終的な目的は、ウクライナを東と西とに分断して連邦国家とし、その上で東ウクライナをロシアの衛星国家とすることだ。資源が豊富で工業地帯でもある東ウクライナをこの際傘下に置きたいのだろう。大義名分としては、人口比率の高いロシア系住民の「意志」に添うということであるが、そもそもこのウクライナの人口構成は、スターリンが工業化推進のための外貨獲得手段として、一九三二年に凶作にも拘わらずウクライナの農作物をむりやり輸出させ、結果的に発生した飢饉によって六~七百万人にも及ぶウクライナ人を餓死させたためである。その人口の穴埋めにと多くのロシア人をウクライナに移住させた。つまりソ連が起こした人為的な飢饉によって、ウクライナにロシア系住民が増えたのだ。この歴史的事実を忘れてはならない。

 

機能不全となった国連には徹底的な機構改革が必要

 ロシアと中国の行動で再び明らかになったのが、国連の機能不全だ。現在の国連は先の大戦の戦勝国連合であり、中核である安保理の常任理事国には、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスの五カ国の戦勝国が名を連ねている。常任理事国は安保理の決議に拒否権を発動できる。つまり常任理事国の一員であるロシアや中国の横暴については、国連は何もできないのだ。先の大戦の戦勝国が敗戦国を「指導」するという形をとり、戦後六十九年も経つのに未だに国連憲章の敵国条項の撤廃すら行っていない国連を、平等で真に世界の平和に寄与できる形に早急に変革するように、日本は敵国条項指定国(ドイツ・イタリア・ブルガリア・ハンガリー・ルーマニア・フィンランド)と共同で要求し、要求が認められなければ、認められるまで国連分担金の支払いを停止すべきである。そして敵国条項指定国を中心に、かつて植民地支配を受けたアジア・アフリカ・中近東・中南米・南米各国と共同して国際問題を解決する国際組織を創るとともに、各地域における力のバランスをそれぞれの国々が同盟を結ぶなどで連携して保ち、平和を維持していく安全保障体制を作ることが必要である。
 先の大戦以前には、ソ連のスターリンの世界赤化政策に脅威を感じる西洋列強と日本が連携して手を結び、西側からは西洋列強がソ連の侵出を防ぎ、東側では日本が満州を豊かな国家とすることで共産主義の浸透を食い止めようとした。今回のロシアのクリミア半島併合に際しても、従来の絶大な力があったアメリカであれば、適切な対応をしたはずだ。それができなくなった今、独・仏を中心としたヨーロッパのNATO加盟国がその代りをすべきだ。そのような地域ごとのバランス維持の行動に対して、新しい国際機関が国連に代わってお墨付きを与えられるようにするのだ。
 先の大戦の戦勝国は、これまで国連を牛耳ってきただけではなく、核を独占してきた。一九四五年に日本に原爆を投下したアメリカに続いてソ連が一九四九年に、英国が一九五二年に、続いてフランスが一九六〇年に、そして中国が一九六四年に核実験に成功し、常任理事国はここで核を独占する体制NPT(核拡散防止条約)を作り、その他の国々に加盟させ、核の開発を抑え込んできた。しかし中国に対抗してインドが一九七四年に、それに対抗してパキスタンが一九九八年に、そのイスラム国家の核開発に危機を感じるイスラエルが、とその後も核は拡散し続けてきた。今、そのイスラエルに対抗して核開発を行おうとしているのが、イランやサウジアラビアだ。そして、東アジアでも北朝鮮が二〇〇六年に核実験を強行し、日本はロシア・中国・北朝鮮・アメリカと周囲を核保有国に囲まれていると言っても過言ではない。日本では憲法九条によって戦後平和が保たれてきたという間違った認識が蔓延っているが、強大なアメリカが安保条約で日本を半植民地としていたから、戦争に巻き込まれなかったに過ぎない。その保護者・アメリカが力を失いつつある今、膨張する中国やロシアに対抗するためには、東アジアでの力のバランスが必要になる。多極化時代となった今は、新帝国主義時代の到来といえる。
 外交交渉の背景にあるのは軍事力であり、力のバランスを保つことが唯一の平和維持策だ。地域のバランサーとしての軍事力の意義は、今後益々重要になっていくだろう。
 その東アジアでパワーバランスを保つためには、日本の核武装は不可欠だが、日本がいきなり自前の核を保有するとなるとアメリカが猛反対するだろうし、数多くの障壁が立ちはだかる。私が予てから主張しているのは、アメリカがヨーロッパにおいて現在もNATO参加四ヶ国(ベルギー・ドイツ・イタリア・オランダ)に提供しているニュークリア・シェアリングという核の共有システムを作ることだ。これは、例えばアメリカの核搭載原潜を平時は日米共同で保有・運営し、有事には日本側にその指揮権を委ね、核兵器使用権限も与えるという、いわば核をレンタルするというもの。日本の核武装に最も強硬に反対するアメリカも、この方式であれば日本が独自に核武装することを抑えるためにも承認する可能性が高いと思う。日本が核武装することが、東アジアの安定と平和に繋がる。
 アメリカが核を独占し絶対的軍事力を誇り、日本を武装解除し、永遠に植民地状態に縛っておくための現行憲法は、その前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を維持しようと決意した」とあるが、今や、そのような時代ではない。
 憲法の改正は絶対に必要であるが、今は改正のために必要とされる、両院ともに国会議員の三分の二は確保されても、まだ国民投票で過半数を得ることは難しい。その原因は、戦後のGHQが施行した新聞編集綱領三十項目(プレスコード)に未だに縛られているメディアと自虐教育のために多くの日本人が現状を直視せず、「平和を唱えれば平和になる」という念仏平和主義に陥って「九条の会」とかいう組織を全国に七千も創設して、憲法改正を国民投票で阻止しようとしていることにある。

 

公明党との連立を解消し自民党は保守勢力の結集を

 アメリカ世界一極支配の崩壊後、国際秩序の根幹は、その基本単位である国家の力に依拠して守っていかざるを得ない。アメリカが世界の警察官の座から下りるなら、日米安保条約による同盟国である日本を信頼し、核保有を認めて東アジアのバランサーの役割を担わせるべきだろう。にも拘らず、アメリカは日本を信頼するどころか、真実ではないと知りながらも「南京大虐殺や慰安婦問題」など捏造された歴史問題を時事問題の様に日本バッシングに使っている中・韓に対して、日本を擁護する姿勢を見せない。この背景には、伝統的に中国と連携するアメリカ民主党の基本的な政治姿勢がある。ヨーロッパの戦争に参戦するために日本を追い込み暴発させ対米英戦争に引きずり込んだルーズベルト、ポスト第二次世界大戦の世界覇権のために、終戦を望む日本に対して、核実験が成功するまで戦争を引き伸ばし原爆を完成させ、無警告で原爆を投下し、ソ連を牽制したトルーマン、そして靖国参拝を「失望した」と語り、同盟国日本を擁護しないオバマなど、民主党政権は伝統的に反日親中スタンスをとる。次のアメリカ大統領選挙は二〇一六年だが、民主党の候補はヒラリー・クリントン、対する共和党の候補はブッシュジュニア大統領の弟ジェブ・ブッシュとなる可能性が高い。「戦後レジームからの脱却」とは安倍首相が第一次政権の時に掲げ、それ故にアメリカから疎まれて辞任を余儀なくされた言葉だが、今、日本に一番必要なのはこの精神だろう。二年後の大統領選挙で共和党が政権を奪還できるかどうかはその後を大きく左右する。
 半島という地政学的に不安定な位置にある韓国は、常に周辺国の影響を強く受け続けてきた。中国・清朝に阿ようとして日清戦争を引き起こし、ロシアに接近して日露戦争の大きな要因となり、日本との併合により繁栄したにも拘らず、先の大戦後は朝鮮戦争で悲惨な代理戦争を戦い、休戦協定後はアメリカに操られ、ベトナム戦争に動員された。その後、経済復興を遂げた日本に助けてもらって再び繁栄してきたのに、中国が力をつけてきた今、また事実でもない性奴隷(従軍慰安婦)二十万人強制連行説を唱え非難を繰り返し、日本からの投資も観光客も激減した。さらに先日、貨客船セウォル号の沈没などで急速に国家の信用を失い、おそらくまた日本に援助を求めて擦り寄ってくるだろう。日本は、戦後アメリカに押しつけられたプレスコードに縛られ朝鮮人への批判や中国に対する批判が出来なかったことで、中国や韓国の理不尽な主張に反論できなかったが、このままでは朝鮮半島もろとも中国の影響下に入る可能性もある。北朝鮮は核開発を強行し、三回の核実験を行うことでなんとか中国の圧力を耐えているが、今後、朝鮮半島がアジアの「クリミア半島」となり、韓国が「東ウクライナ」と化してしまえば、それは日本に突き立てられたドスとなり、日本は否応なく中国勢力下に入れられ、「中国・日本自治区」となってしまうだろう。
 高支持率を保っている安倍政権は、まず憲法改正と独立自衛のできる国家構築への道筋をしっかりと築くべきだ。憲法解釈変更による集団的自衛権の行使を認めない公明党との連立を解消して、真正保守の考えで結集できる自民党の先を行く保守政党を創り、その政党と連携を図るのがその為の第一歩だ。膨張する中国に飲み込まれるまでの時間は、もう余り残されていない。軍事的に弱体化してきたとはいえ、依然世界の覇権国アメリカは、世界の基軸通貨であるドルを持ち、世界最高水準のIT技術を保有するサイバー空間の覇者であることは間違いない。モンロー主義に徹したとしても、自活のできるアメリカは繁栄を維持できる。
 アメリカは東アジアで勢力維持を図るためにも、日米安保条約を結んでいる日本に、憲法改正を認め、独立自衛の軍の保持を認めて、共同して中国・ロシアと対峙して、この地域の平和に貢献するべきである。日露戦争時に明石大佐がロシア革命をお膳立てし、後方攪乱を図ったのと同様に、日本は情報省を創り、情報謀略戦が行われている世界に打って出て、次のアメリカ大統領選で共和党が勝利するべく画策するぐらいの気概を持つべきだ。安倍政権がこれから行わなければならないことは、まだまだ山積しており、長期政権を目指さなければならない。私も積極的に支援をしていきたい。

2014年5月24日(土)1時00分校了