社会時評エッセイ

中国の仕掛ける
「歴史戦」に対抗せよ
Vol.307[2018年4月号]

藤 誠志

テキサスの博物館にも
虚構の展示プレートがある

 Apple Town二〇一八年二月号の本稿に、昨年十二月のハワイへの秋季勝兵塾・ACC・FC・PH・社員合同海外研修旅行「戦跡を訪ねる旅」での出来事について、次のように書いた。「三日目に向かったのは真珠湾にある太平洋航空博物館だ。アメリカ軍で実際に使用された様々な軍用機が展示されている中、私は爆撃機B‐二五の展示プレートを読んで衝撃を受けた」「そのプレートには、一九四二年四月一八日にこのB‐二五(アメリカ陸軍爆撃機)による東京初空襲となった、関東沖千二百キロの位置で空母ホーネットから発艦した『ドゥーリットル空襲』のことが記されていた」。日本各地の空襲を終えたドゥーリットル隊の十六機は、「一機がソ連のウラジオストクに着陸、四機が日本軍の支配地域である中国の海岸沿いに不時着、残り十一機は内陸側で搭乗員全員がパラシュートで脱出した」「六十四人の特別攻撃隊員は中国住民や民兵らによって日本の捜索から匿われたり脱出支援されたりしたが、そのことで『二十五万人近い中国人がこの爆撃に参加した特別攻撃隊員の逃亡を助けた処罰で日本軍によって殺害されました。』」と展示プレートには書かれていたのだ。もちろんこんな事実があるはずもない。
 「私は、帰国後すぐに友人を通じてドゥーリットル爆撃機B‐二五前の展示プレートの写真を安倍総理に届けてもらうとともに、友人の秋葉賢也代議士に外務省とホノルルの日本総領事館に撤去・訂正の要請をするように依頼した」。すると一月二日に、秋葉代議士から三月末までにプレートが訂正されるという連絡がきた。抗議の甲斐があったのだ。
 また、二月三日に勝兵塾で講師をしていただいたことのある岸田芳郎氏から以下のようなメールがきた。「『アップルタウン』で紹介されていましたハワイの太平洋航空博物館におけるドゥーリットル爆撃隊のお話ですが、私達のテキサスにあります米国国立太平洋戦争博物館にも同じ展示がなされています。私達が直接、お手伝いしています米国国立太平洋戦争博物館には、あの琉球処分に関する記述があり、『一八七一年、日本が(中国から)琉球諸島を含む沖縄を日本に帰属させた』とあり」「中国からという記述は、後でどれほどの災いになるか見当もつかないということで、つい去年、ここ数年の活動が認められ、その『中国から』という記述を削除して頂くことになりました」という。これに驚き、早速岸田氏に電話をして確認をしたところ、「同じ展示ではなくてドゥーリットル隊員を匿ったり、脱出支援をした人を日本軍が酷い目に遭わせたという表現であった」ということだった。私は、この情報を改めて秋葉代議士に連絡したところ、昨年四月に青山繁晴参議院議員がテキサス州フレデリックスバーグにある米国太平洋戦争博物館でこの展示を見つけて外務省に訂正削除させるよう要請。青山参議院議員の働きによって、同年九月に「中国から」の記載を削除することができた。今後もこのような誤った記載による展示物は正していくべきであり、国内外問わずこのような監視活動は重要である。

江沢民と習近平が
「歴史戦」を主導してきた

 米国国立太平洋戦争博物館で、正しい展示を行うための手伝いをしている岸田氏は、二〇一五年十月に開催された第五十三回勝兵塾月例会で講演を行い、中国が金銭も含む圧力によって、博物館の展示内容に自らの意向を反映させようとしているというリアルな実態を語った。中国が時間やお金を掛けてこのような「歴史戦」を仕掛けてくるようになったのは、天安門事件からだ。このことは、拓殖大学客員教授で新しい歴史教科書をつくる会副会長の藤岡信勝氏が昨年十一月十一日に行った「歴史戦の構図と争点」という講演の記録に詳しい。江沢民が何故「愛国主義教育」を実施したか。「何故こんなことを始めたかと言いますと、一九八九年の天安門事件が原因です。六月四日、民主化を求める学生達に対して、中国共産党は戦車を繰り出して弾圧した。これは中国共産党にとっては、深刻な危機だったのです。若い世代がこのような動きに同調して行くとすれば、中国共産党の支配が根底から揺さぶられる。と言うことで、中国共産党の幹部が緊急に集まって会議を開き、ここは青年の思想教育に徹底して力を入れるという方針を決めた。それを愛国主義教育として打ち出したのが、江沢民という訳です」。
 江沢民の「正統性の問題」も、彼の決断の背景にはあっただろう。一九九二年に権力を掌握した江沢民だが、軍歴もなく革命の英雄でもなく、その地位はもっぱら鄧小平の抜擢によるものだった。毛沢東は自ら革命を主導して中華人民共和国を建国した。鄧小平は文革などで何度も失脚しつつ復活し、改革・開放政策で経済発展の実績を上げた。それらに比べて江沢民には何も実績がない。そのハンディを克服して自身の権威を保つために反日を掲げる、歴史戦に目を付けたのだ。
 さらに藤岡氏が「歴史戦」の起源として指摘するのは、現国家主席の習近平が二〇一二年に提唱した「反日統一共同戦線」だ。「習近平の反日政策の特徴は、領土問題と歴史問題を接合するという戦略にありました。領土問題というのは尖閣への挑発、沖縄の独立工作であります。歴史問題というのは、いわゆる南京事件と慰安婦問題です。これを結び付けて日本を非難する。そして同じように日本との間に領土問題を抱えているロシアと韓国に呼びかけて、中露韓の三つの国が共同戦線で日本と戦おう、日本潰しをやろうと提唱した訳です」。習近平は昨年の中国共産党全国代表大会で、これまでの通例では国家主席を務めてから五年で行う後継者指名を行わなかった。この領土問題と歴史問題を接合する作戦で、習近平帝国とも言うべき長期政権を確立するつもりではないだろうか。

核だけではなく対中政策も
変わりゆくトランプ政権

 アメリカのトランプ大統領が就任してから一年が経過した。二月二日にトランプ政権は核戦略見直し(NPR)を発表し、核軍縮を進める一方で多様な核戦力の保有や非核攻撃への核での反撃の可能性を明記、オバマ政権の方針を一変した。その背景にあるのは、中国やロシアの核兵器の近代化と北朝鮮の核開発だ。核だけではなく、アメリカの対中政策自体が変化しようとしている。一月に中国在住の友人がネット上のある記事を読むように薦めてきた。YAHOO!ニュースに一月二十五日付で掲載された「あのランディがトランプ政権アジア担当要職に―対中政策が変わる」という記事だ。書いている東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉氏は、中国の裏側に詳しいと言う。「一月八日、ランディ・シュライバーが米国防総省アジア担当に任命された。二〇一六年九月二〇日、『日中戦争時代、毛沢東が日本軍と共謀した事実』を話し合う国際会議を主宰した人物だ。トランプ政権の対中政策が変わる」「ランディ・シュライバーは共和党のブッシュ政権時代に東アジア太平洋担当の次官補代理を
務めた経験があり、二〇〇八年にはアジア安全保障などに関する研究を行なうProject 二〇四九 Institute(プロジェクト2049研究所)というシンクタンクを創設している」「Project二〇四九は『中国共産党こそが歴史の改ざんを行なっている』という視点を軸に、中国の軍事、領土問題等における覇権主義に対して厳しい抑止政策を主張してきた。同時に台湾側に立って発信することが多く、ランディは完全な対中強硬派として知られている」という。
 選挙活動時からトランプ大統領の外交顧問的役割を果たしていたのは、ニクソンとフォードの二人の大統領の国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーだ。彼は一九七一年に訪中、周恩来首相と会談し、「日本が過度な再軍備を行えば伝統的米中関係(第二次大戦前のような関係)がものをいうだろう」とまで発言している日本嫌いで知られる人物だ。またトランプ大統領にアドバイスをしながらも、中国政府から顧問料をもらっていたという報道もある。しかしランディ・シュライバーの登用は、このキッシンジャーの影響から離脱して、アメリカが対中強行姿勢へと転換することを意味する。トランプ大統領の認識では北朝鮮危機は日本にとってはともかくアメリカにとっては実は大したことではなく、本当に重要だと考えているのは中国危機なのだ。中国は南シナ海ではサンゴ礁埋め立てによる軍事基地建設を行い、東シナ海では尖閣諸島を奪うべく挑発を続けている。ハワイを境界線に、太平洋を中国とアメリカで二分するという野望まで抱いているのだ。この状況を作り出した原因は、アメリカは「世界の警察官ではない」と公言したオバマ大統領の対中弱腰外交だ。

最悪のシナリオは
北朝鮮が核を保有したまま
韓国を併合することだ

 日本にとっての最悪のシナリオは、北朝鮮が核を保有したまま韓国を併合し、その朝鮮連邦国家が中国の尖兵と化し、日本に牙をむくことだ。その時には、日本は中国の軍門に下って、中国の日本自治区にまで落ちぶれるかもしれない。
 憲法改正について自民党は、いろいろ議論があっても年内に本誌三月号の本稿に書いた「憲法九条の一項二項に加えて三項を設けて、三項には『国防の為には前二項に関わらず、国防の為の交戦権と国防の為の戦力として、陸海空の国防軍(自衛隊)を保持する』」に収束させなければならない。来年の二〇一九年四月三十日には天皇陛下が譲位され、五月一日には皇太子殿下が新天皇に即位され新元号となり、六月か七月には参議院選挙がある。そして再来年の二〇二〇年七月には東京オリンピックが開催される。この日程を考えると衆・参ともに改憲支持議員が三分の二以上いる来年に行なわれる参院議員選挙の前に、国会議員(衆議院百人以上、参議院五十人以上)の賛成により、憲法改正の原案を発議すべきだ。そして、衆・参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審議された後、両院それぞれの本会議にて、三分の二以上の賛成で可決し、国会が憲法改正の発議をし、その日から六十日以上百八十日以内に、十八歳以上の国民に提案し、国民投票で過半数の賛成で憲法改正案を成立させるのだ。必要であればこの国民投票と参院選を同時に行うこともある。
 かつて現行憲法を周知させるために「新しい憲法 明るい生活」という小冊子を二千万部も作成し、全国の家庭に配布する等、大国民運動を行ったが、これと同様の一大国民運動を展開して、国民の過半数の支持ではなく、七、八〇パーセントの支持を得られるように憲法改正を支持する国会議員をはじめとして都道府県市町村議会議員の全てが国を挙げて頑張らなければならない。今の北朝鮮危機をチャンスに「自分の国は自分で護る」といった当然の認識を広め、改憲の必要性を訴えて、憲法改正をやり遂げなければならない。安倍首相は三期目の自民党総裁となり、トランプが大統領のうちに、日本国憲法を改正し日本の安全保障体制を強化することだ。ロシア、中国、北朝鮮と、日本は核保有国に囲まれており、いつまでも憲法に縛られて「専守防衛」と唱えていては、日本の領土と国民を守ることはできないからだ。
 昔から「平和を望むなら、戦争の準備をせよ」との言葉があるように、抑止力となる攻撃用兵器を保有してはじめて、戦争を抑止することができるのだ。また、日米安保を片務的なものから双務的な対等互恵の条約に変え、ニュークリア・シェアリング協定を締結。その際、法律ではなく、単に国会で決議されたに過ぎない「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則は、新たな国会決議によって打ち消す必要がある。「アメリカファースト」と国内重視へ軸足を移すアメリカは、東アジアに軍事費を費やすよりも、憲法の歯止めがなくなった日本とニュークリア・シェアリング協定を締結することで中国の膨張政策に対する抑止を委ねるのではないだろうか。
 北朝鮮に対しても、まず金正恩の生命を狙うものではなく、政権も現状で維持して良いという前提で、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射と原爆実験の凍結宣言をしなければ、ICBM関連施設と原爆関連施設の重要な場所約百カ所の攻撃時期を公表し、その場所からの退避通告を行うとともに、その間にアメリカ人をはじめとした外国人観光客、駐在アメリカ人などをソウルから避難させた上で、巡航ミサイルやB‐1爆撃機による爆撃やバンカーバスター(地中貫通爆弾)による空爆を行い地下施設を破壊する「公開限定空爆」を行えば、金正恩の核兵器やICBMの開発を止めることができる。金正恩政権は不都合な政権ではあるが、北朝鮮という国の存在は地政学的な緩衝地帯として重要だ。この国が中国のものになったら米中が、ロシアのものになった場合は米ロが三十八度線で直接対峙することになる。韓国が北を併合しても、中朝国境で米中が対立してしまう。望ましくなくても、北朝鮮が存在することが大事なのだ。一度造ってしまった核兵器を破棄させるのは非常に困難なことだ。だから北朝鮮からテロリストに核技術が移転することを阻止し、核弾道ミサイルの大気圏再突入技術の完成や核弾頭の小型多弾頭化などの技術のこれ以上の開発を封印するように仕向けるのだ。北朝鮮に完成済の核兵器を保持させ続けることには、膨張してくる中国に対する抑止力としての防衛用兵器という意味もある。そもそも中国と北朝鮮は仲が悪い。ロシアと中国もそうだ。これもあって、今ロシアと北朝鮮の連携が強くなってきている。北朝鮮の行動の最大の目的は自国防衛と現行体制の維持であって、日本を侵略する意図はない。しかし核兵器は非核武装国に対する絶対的な威嚇兵器である。核兵器を完成させた北朝鮮は、日本に戦前戦後の賠償として多大な請求を突きつけて行ってくる可能性がある。
 ロシアがプーチン大統領の長期政権で軍事力を増強、プーチン帝国化するのと同様に、中国は習近平帝国化し、より覇権主義を強めて、アメリカに代わって世界一極支配を目指すようになるだろう。そして日本に対して、従軍慰安婦二十万人強制連行説や、南京大虐殺三十万人を中心とした「歴史戦」をさらに過激に仕掛けてくる。ハワイの太平洋航空博物館やテキサスの米国国立太平洋戦争博物館にあるような、捏造された日本軍の虐殺の記述も、まだまだ出てくるだろう。ハワイの件は今回なんとか抗議で抑えることができそうだが、そもそも外務省がこのような表現を放置してきたことが問題なのだ。今後は世界に虚構の歴史が蔓延ることにならないように、外務省はもっとしっかりと対応すべきだ。そうしないと、その様な嘘が本当のこととしてどんどん世界に拡散し、ユネスコの世界記憶遺産に南京大虐殺が登録されたようなことが、今後も続いていくだろう。歴史戦もしかり、サイバー戦や情報謀略戦もしかり。二十一世紀の戦争は戦火を交えるものではなく、情報のフィールドで展開するのが当たり前になってきた。日本は誤った教科書と誤ったメディアによる反日教育から早急に脱して、これら情報の世界における戦いに立ち向かわなければならない。二月に韓国で開催された平昌オリンピックは、あたかも北朝鮮が主催者かのような乗っ取られぶりだった。これは文在寅大統領が北の情報戦略にすっかり絡め取られてしまったからだろう。これを日本は他山の石としなければならない。

2018年2月13日(火) 23時00分校了