社会時評エッセイ

東アジアの力のバランスに
核シェアリング協定を

藤 誠志

北朝鮮の威嚇に
激しく応じるアメリカ

 夏恒例の米韓合同軍事演習が八月二十一日から行われようとしているが、北朝鮮はまたこれに対抗した威嚇を行っている。八月十日配信の時事通信の記事「北朝鮮、米韓演習に力で対抗=『グアム沖へミサイル』と威嚇」によると、「北朝鮮軍は一〇日、中距離弾道ミサイル『火星一二』四発を米領グアム島沖に打ち込む計画を明らかにし、威嚇をエスカレートさせた。今月中旬までに計画を完成させて金正恩朝鮮労働党委員長に報告して決断を待つとしており、二一日からの米韓合同軍事演習『乙支フリーダムガーディアン』をにらみ、力で対抗していく姿勢を明確にした」という。これを受けて、八月十日には一九七二九円だった日経平均株価の終値は、週明けの十四日には一九五三七円まで二百円近く下がった。
 この北朝鮮の言動にアメリカは強く反応、八月十二日、十三日の産経新聞は一面トップでそれを伝えている。十二日の見出しは、「トランプ氏『北攻撃、準備完了』 グアム標的に報復示唆、先制含み」。記事では「トランプ米大統領は一一日、北朝鮮が米領グアム沖に弾道ミサイルの発射を検討中と表明したことについて、ツイッターで『北朝鮮が愚かな行動を取るなら、軍事的解決策を取る準備は整っている』と警告した。トランプ氏は『金正恩(朝鮮労働党委員長)には違う道を見つけてほしい』とも述べ、軍事攻撃による報復を強く打ち出して北朝鮮に姿勢転換を迫った」「トランプ氏は、一〇日にも滞在先の東部ニュージャージー州で記者団に『グアムで何かやれば、世界が今まで見たこともないようなことが北朝鮮で起きるだろう』と述べた上で、『これは単なる挑発ではない。声明であり事実だ』と言明」「北朝鮮への先制攻撃の可能性についても『今に分かる』と含みを持たせた」。
 十三日の見出しは「米中電話会談、北に挑発停止要求で一致」。記事は「トランプ米大統領は一一日、中国の習近平国家主席と電話会談を行い、軍事的緊張が高まる朝鮮半島情勢について協議した。米ホワイトハウスによると、両首脳は『北朝鮮が挑発的で緊張を激化させるような行為を停止すべきだ』との認識で一致した」「中国国営の中央テレビによると、習氏は北朝鮮問題の『政治的解決』を促し、武力行使に反対する姿勢を改めて強調。『関係各国は自制を保ち、朝鮮半島情勢の緊張を激化させる言動を避けなければならない』と述べ、米国にも冷静な対応を求めた。会談に先立ち、トランプ氏は一一日、滞在先の東部ニュージャージー州で記者団に対し、状況は極めて危険だと述べた上で、『悪い解決策』でなく『平和的な解決策』で『丸く収まることを望む』として、外交解決への期待を示した」。

トランプ大統領の過激な発言は
ロシアゲート疑惑隠しである

 一昨年の米韓合同軍事演習の際には、短距離弾道ミサイル(スカッドC)を日本海に向けて発射し、昨年の米韓合同軍事演習の時には、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星一号」を発射したが、今年は中距離弾道ミサイル「火星一二号」をグアム島周辺三〇〜四〇㎞の公海に落とす計画を完成させ、金正恩に報告し決断を待つと言う。恒例の北朝鮮の抗議の発表へのトランプ大統領の対応はこれまでの大統領にない過剰と言えるものであり、さらにメディアも、あたかも北朝鮮がグアム島を標的に弾道ミサイルを打ち込み、すぐに戦争が起きるかのように大騒ぎをしている。日本の報道もアメリカメディアのコピーであり、テレビでは無知なコメンテーターが馬鹿馬鹿しい議論を繰り広げている。しかし、トランプ大統領は、「グアムで何かやれば世界で見たことのないようなことが北朝鮮で起こる」とか「北朝鮮は炎と怒りに見舞われる」などと言ったりする一方で「北朝鮮との交渉に常に考慮する」とか「悪い解決策」ではなく「平和的な解決策」で「丸く収めることを望む」と硬軟取り混ぜた発言を繰り返している。北朝鮮軍がグアム島沖の公海に長距離弾道ミサイルを打ち込む計画を作って金正恩に報告しただけなのに、一連の発言により大々的に話題を煽るトランプ大統領の意図はロシアゲート疑惑隠しである。トランプ大統領の反応に一番驚いているのは、金正恩だろう。
 トランプ大統領は就任後、選挙運動期間中に公約したことの実現に奔走してきた。オバマケアの廃止案が否決されたように、彼の公約の大半は実現できていないが、挑戦したが叶わなかったことを彼はコアな支持者に見せる必要があるのだ。そもそも彼は、暴言とも言える極端な政策を主張することでメディアの注目を集め、知名度を高めて選挙戦を勝ち抜き、大統領に就任することができた。アメリカファーストを標榜し、アメリカの製造業に不利な北米自由貿易協定(NAFTA)から離脱を示唆、メキシコへの自動車工場の移転も牽制した。さらにアメリカ人が職を奪われないように、メキシコ国境に壁を作り、不法移民の侵入を防ぐと断言した。アメリカでは人種に拘らず農業に従事する人が減っており、不法移民の力を借りなければ農業が成り立たないという「現実」は、トランプ氏の視界にはない。これらと同様、選挙のために、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や気候変動枠組条約に基づくパリ協定からの離脱を主張し、これらは就任後に即座に実行した。確かに温室効果ガスの排出が地球温暖化の要因であることへの異論もまだあり、さらに温室効果ガスの排出権取引によって多額の出費を余儀なくされる国もあって、この辺りに不公平さを感じている人も多い。多くの人々の素朴な疑問に応える主張を行って当選したトランプ大統領であるが故に、再選のためには就任後にそれらの主張を実現する努力をしなければならない。そこに沸き起こったのが、大統領選挙中や直後に、トランプ大統領や側近がロシアと密接に関係していたのではないかという、ロシアゲート疑惑だ。強気な否定を繰り返していたトランプ大統領だが、ここに来て北朝鮮軍は中距離弾道ミサイルをグアム島沖に打ち込むとの威嚇に大騒ぎをして、メディアを煽っているのは、ロシアゲートから人々の目を逸らそうとしているのである。

不安を売り物にする
日本のメディアの酷い報道

 このトランプ大統領の過剰な反応に合わせて、日本の自衛隊も迎撃ミサイルPAC3を、北朝鮮から弾道ミサイルの飛行コースと予告された中四国四県へと移動させた。しかし予告通りであれば、弾道ミサイルは、日本上空をPAC3で撃ち落とせるような高度では飛ばない。失敗した場合に備えるという主張もあるが、飛行コースを外れて落ちてくる弾道ミサイルを迎撃することは、破片が広がって被害を拡大するだけである。また、迎撃ミサイルをいくら用意しても、同時に四発五発と打ち込んで来たらお手上げで、貴重な日本の軍事予算を費やしてアメリカから迎撃ミサイルを買うよりも、憲法を改正して抑止力としての攻撃用ミサイルを持つ方が遥かに安上がりである。
 アメリカに影響されてメディアが大騒ぎをするので、政府・防衛省・自衛隊も何も行わないわけにはいかず、PAC3を中四国四県に配備する対応を決定したのだろうが、ほとんど意味がない。本気で北朝鮮の弾道ミサイルを撃ち落とすのなら、イージス艦によるSM‐3による迎撃の方が効果的なはずだが、長距離弾道ミサイルには基本的に対応していない。アメリカがICBMの撃墜実験に成功したという、地上発射型ミサイル迎撃システム(GMD)の実戦配備もまだだ。そもそも北朝鮮も本気でグアムにミサイルを打ち込むつもりはなく、これは米韓合同軍事演習に対する恒例の抗議である。発射するという四発のミサイルの方向をグアムから変え、北朝鮮から距離的にはグアムと同じぐらいに離れた想定目標にミサイルを打ち込んでその能力を誇示してくるだろう。それにしても、メディアの不安を煽る報道は酷い。新聞は売れなくてはならず、テレビは視聴率が稼げなければならないが、そのために商業メディアが不安を売り物にしてしまっている。
 アメリカはもちろん、中国も韓国も北朝鮮も今や高層化した都市とインフラ整備が進み、七十年近くも前の朝鮮戦争や、その前の先の大戦のような戦争は、お互いのダメージが大きすぎて誰も踏み切れない。また北朝鮮はどの国にとっても地政学的に重要な緩衝地帯だ。メディアの報道だけを見ていると、北朝鮮の核兵器やミサイルは日本や韓国、アメリカを脅かすためのように思えるが、これらは本当は中国からの侵略に対する防御用兵器だ。二〇〇四年四月二十二日に北朝鮮の龍川駅で起こった大規模な列車爆発テロは、当時中国共産党中央軍事委員会主席だった江沢民が、北朝鮮の軍部の一部をそそのかして「金正日の殺害を狙ったものだ」との説がある。
 中国は金正日を北京に呼び出して核開発の停止を迫ったが、彼は強固にそれを拒否し受け入れなかった。その金正日を平壌への帰路の龍川駅の本線沿いの支線の地下深くに、トンネルを掘って仕掛けた高性能爆薬を八百トンも使って、一列車の全てを吹っ飛ばし爆殺しようとしたのだ。この爆殺計画をたぶんロシアかアメリカの諜報機関が掴んでリークし、金正日はダミーと入れ替って、難を逃れたものと思われる。これによって中国への警戒感を極度に強めた金正日は核開発を急ぎ、二〇〇六年に不完全ながらも核実験に成功する。政権継承時に、父からこのことを聞き、中国への警戒心を引き継いだ金正恩は、中国とのパイプとなっていた叔父の張成沢を粛清、自分亡き後中国が後継に立てる可能性のある、腹違いの兄である金正男を、VXガスを使ってマレーシアで暗殺し、中国との距離を作ってきた。

米中の共通の狙いは
これ以上の核開発の中止

 今年になって北朝鮮はミサイルの発射実験ばかりを繰り返し、核実験は昨年九月以降、一年近く行っていない。その理由は中国が北朝鮮の核の小型化実現を強く牽制しているからだ。北朝鮮が緩衝地帯として必要不可欠なのは米中ともに変わりない。もし金正恩政権が崩壊して中国の傀儡政権が誕生した場合には、三八度線で中国と米韓が直接対峙することになり、アメリカにとって非常に危機的状況が生まれる。一方中国にとっては、アメリカ主導で金正恩体制が崩壊すれば、中朝国境までアメリカの影響下にある韓国が進出することになり、これまた中国にとっても危機的な状況となる。これらを勘案すれば、不都合な政権ではあるが、金正恩体制は現状のまま、核の保有は認めるにしても、米本土への脅威となる大陸間弾道ミサイル開発とその弾頭となる核の小型化への実験は中断させたいというのが、アメリカの本音だ。中国も既に、現行の弾道ミサイルが中国全土に届くのは仕方がないにしても、北朝鮮の核弾頭の開発が進み小型化し、米露中英仏が保有するMIRV(マーヴ)のような複数弾頭を搭載した弾道ミサイルの開発にまで成功する事態は、断固として阻止する構えだ。中国はまだ北朝鮮への石油の輸出を止めておらず、これを切り札として保持している。北朝鮮がさらなる核実験で核の小型化や多弾頭化を進めれば、石油を止めるぞと脅している。これが最近、北朝鮮の核実験が行われていない理由だ。しかし既に中距離弾道ミサイルと核弾頭を保有し金正日時代の全ての親中派幹部を粛清した北朝鮮としては、中国が石油を止めればロシアを頼りにするだけのことで、中国の脅しに屈しない北朝鮮の強気の背景にロシアの影が見え隠れしている。
 先の大戦で日本が石油枯渇を必要以上に恐れ、戦争終結のビジョンも描かず、やるなら今しかないと開戦を急いだのは、愚かな選択だった。太平洋に打って出てアメリカと戦うのであれば、開戦前に外交暗号も海軍暗号も変えて、まず陸海軍合同の作戦で、真珠湾の艦船を全滅させるだけではなく、ハワイに陸軍部隊を上陸させて占領し、備蓄されている石油やドック、港湾施設を押さえるべきだった。さらにパナマ運河を破壊して、アメリカの大西洋艦隊が太平洋に出て来ることが出来ないようにする。その上で、インドネシアなどの石油を確保すれば良かったのだ。しかし現実には日本の外交暗号も海軍暗号も解読していたアメリカは、真珠湾から空母と新鋭艦を離脱させて、日本軍の攻撃による被害を限定されたものに留まるようにしていた。その一方で、老朽戦艦アリゾナをわざと日本軍の標的となるように残置し、日曜日でありながら、なぜか戦艦アリゾナには定員以上の兵員が集められていた。日本軍の激しい空爆が終わって六分後に、火災でアリゾナの弾薬庫が誘爆したと言われているが、弾薬庫が火災で誘爆した例を私は他には知らない。この突然の大爆発で真珠湾攻撃のアメリカ軍の犠牲者約二千四百人の約半分となる、千百七十七人が艦と運命を共にした。この爆発は、自ら爆破し、「リメンバー・メイン号」と煽って戦争を始めた米西戦争と同じく、「リメンバー・パールハーバー」と米国民を煽って戦争を始めるための自作自演の疑いがある。暗号が解読されていたことによって、その後のミッドウェー海戦にも日本軍は敗れ、次第に敗戦が濃厚になっていった。

東アジアの平和のためには
日本の貢献が必要不可欠

 もし米朝関係がもつれて戦争になったとしても、一瞬にして北朝鮮はアメリカに敗北するだろう。その際、中国が北朝鮮に加勢することはないが、もし加勢したとしても、対抗できるのは核戦力だけで、現状の中国の海軍力や空軍力では、瞬く間に海軍も空軍も壊滅し、アメリカには太刀打ちできない。こう考えれば戦争が勃発する可能性はほとんどないが、米本土に到達する核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルの開発さえ止めれば、北朝鮮を核保有国として認めてもいいという考えが、アメリカ政府の背後には見え隠れする。そうなれば、日本はどうすればいいのか。やはり真っ当な独立国家となるために、自国防衛を切実に考えなければならないだろう。周囲をアメリカ、ロシア、中国、そして北朝鮮と核保有国に囲まれている、世界で唯一の被曝国である日本が、三度目の原爆投下を受けないためには何を行えばいいのか。アメリカが日本が核武装することを認めない以上、NATO四カ国がアメリカと結んでいる核の共有(ニュークリア・シェアリング)協定を日本も結ぶべきではないか。膨張する中国に対抗する一方、アメリカファーストも実現したいトランプ大統領は、東アジアの力のバランスの維持に日本の分担を求めるべく、この核シェアリング協定に同意する可能性は高い。また、アメリカは世界の軍事費の半分近くを占める巨大軍事大国だが、膨張する中国に対抗するためには、日本は日米安全保障条約だけで、つまりアメリカ一国だけに頼らないことも大切だ。中国に敵対している他の国、ロシアやインド、ベトナムとも良い関係を築いて、中国の暴走を抑え込む必要があるだろう。結局世界は力の論理で動く。核シェアリング協定がまず必要だが、それ以外にも日本の先端科学技術を使って、オフセット戦略ともいえるレールガンなどのポストニュークリア・ウェポン・次世代の爆弾の開発にも乗り出すべきだ。アメリカにも協力しつつ、日本も独自の兵器を開発できれば、東アジアの繁栄と平和に大きく貢献できるだろう。これらの方策実現の為に、二〇二〇年に向けた憲法改正はぜひ実現して欲しい。今は正念場だが、安倍首相には、自虐的メディアを規制して、支持率を高め、是非来年の総裁選に勝って三期九年の任期を得て、改憲に邁進してもらいたいと、切に願っている。

2017年8月18日(金)18時00分校了