社会時評エッセイ

アジア諸国との
集団的安全保障体制を構築せよ
Vol.343[2021年4月号]

藤 誠志

中国の搾取を受け続けてきた
新疆ウイグル自治区

 二月五日付の産経新聞朝刊の一面トップに、「中国人権弾圧 議連動く」という記事が出ている。「新疆ウイグル自治区やチベット、香港での中国政府の人権弾圧に対し、日本も厳しい態度で臨むべきだとの動きが国会で強まりつつある。欧米に比べ対応が鈍い日本政府への不満があるからだ。放置すれば人権問題に疎い国家と見なされ、日本の国際的な立場と国益を失いかねない。危機感を強めた有志の議員連盟が議員立法や国会決議の提出に向けて動き出し、腰の重い政府を突き動かそうとしている」という。
 世界の他の国々の動きは早い。「国際社会では、中国によるウイグル族など少数民族への弾圧や同化政策への批判が高まり、人権面での“対中包囲網”の形成が進んでいる」「米国のポンペオ前国務長官は退任直前の一月十九日、新疆ウイグル自治区で一〇〇万人以上が恣意的に投獄されたり、多くの女性が不妊手術を強要されたりしていると指摘し、弾圧を『ジェノサイド(民族大量虐殺)』と断定。後任のブリンケン国務長官も同様の認識を示し、バイデン政権として中国の人権問題に厳しく対処すると強調した」「米国では昨年六月、ウイグル族弾圧に関与した中国当局者に制裁を科す『ウイグル人権法』が成立。その後、同自治区トップの陳全国・共産党委員会書記らが制裁対象となった」「中国との経済関係を強化する欧州でも、批判の声が強まっている」として、フランスやドイツの対応を報じている。
 ポンペオ前国務長官が指摘した百万人の投獄は、人工衛星からの観測で判明したことだ。新疆ウイグル自治区では強制収容所と思われる施設が、どんどん増えている。このようにウイグル人を弾圧する国が隣国にあることを日本は自覚して、如何にこの国に対処していくかを考えなければならない。超党派の複数の議連が、中国の人権弾圧に対して何らかの対応を求めることは必要なことだと、私は評価している。
 中国が東トルキスタンに対して行った仕打ちは、現在の弾圧だけではない。世界ウイグル会議のサイトに、二〇〇七年五月五日投稿された「健康と核実験」という記事を引用する。「一九四九年の占領以来、東トルキスタンの人々の生命、土地、財産が中国の軍事・経済発展のために犠牲にされてきた。ウイグル人の先祖たちが代々暮らしてきた土地は中国共産党政権により核実験場にされ、より肥沃な土地は中国人(漢人)により殖民された。その過程の中で、巨大な石油・ガス・石炭などの豊かな天然資源や希少金属は中国の渇望する経済を満たすために搾取された。中国は、東トルキスタンで核実験を繰り返し軍事力を世界に誇示しつつ、経済発展を遂げ、ついに軍事・経済大国までになった。その陰で核実験のモルモットにされたウイグル人の生命、土地、そして略奪された巨大な資源が犠牲となってきた。ウイグル人の生命や財産の犠牲の上に、中国の今の軍事・経済発展が成り立っているのである」という。

不妊手術によって
民族浄化を画策する中国

 「ウイグル人を襲った核の悲劇‥数十万人が急性死亡、数百万人が急性放射線障害」という見出しの本文は以下の通りだ。「中国政府は東トルキスタンで四六回もの危険な核実験を強行したが、いずれの場合でも周辺住民に事前に予告し避難させるなどの安全対策を取ることはなかった。それどころか、ウイグル人には核実験そのものの存在さえ知らせてこなかった(現地のメデイアではそれを報じることは許されていない)ので、ほとんどのウイグル人住民は核実験の実験事実も被害状況も一切知らずに暮らしている」「ロプノルで実施された核実験の影響で周辺に居住するウイグル人らの急性死亡は一九万人にのぼるほか、急性の放射線障害(特に白血病、甲状腺がんなど様々ながん、死産や奇形児)など甚大な影響を受けた被害者は一二九万人に達するとの調査結果をまとめている。しかも、これはメガトン級の大型地表核爆発がもたらした被害状況を反映している調査結果であり、ほかの核実験もあわせると犠牲者数はそれ以上となるという。中国共産党機密情報では核実験で七五万人死亡説も流れているほどである」。
 第四回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞した札幌医科大学名誉教授の高田純氏は、一九八〇年代にNHKが放送したシルクロード関連の番組によって推定二七万人の日本人が東トルキスタンを旅行、「中国西域の観光から帰国した後に『白血病』、『肺がん』、『悪性リンパ腫』を発症したという方や、そのご家族から情報が寄せられています」とコメントしている。また一九八五年に急性骨髄性白血病で亡くなった女優の夏目雅子氏も、その数年前にロケでウイグルの砂漠に入っており、その時浴びた放射能の影響による発病が疑われる。日本人も中国の発展のための犠牲者となっているのだ。
 ウイグルに関して、ポンペオ前国務長官が投獄と同時に指摘したのが、不妊手術だ。西日本新聞が二月四日に「ウイグル族ら一〇万人に不妊手術 中国が強制? 五年で一八倍」という記事を配信している。「中国政府による少数民族ウイグル族への抑圧政策が強まった二〇一四~一八年に、新疆ウイグル自治区の不妊手術が一八倍に増え、計一〇万人の住民が手術を受けたことが政府の資料で分かった。中絶件数は延べ四三万件を超え、子宮内避妊具(IUD)を装着した女性は一七年時点で三一二万人に上った。中国政府が産児制限を緩和する中、自治区の不妊処置は不自然に増えており、非人道的な人口抑制策が実施されてきた疑いが強まった」とのことで、実際に出生率も低下しているという。強制的な不妊手術は民族浄化の常套手段だ。事実だとすれば、「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と糾弾されるのも、当然のことだろう。

中国は海洋進出に向けて
着々と軍備を増強している

 東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)とほぼ同時期に中国が侵攻したのが、チベットだ。チベットで生まれ、日本に帰化した拓殖大学教授のペマ・ギャルポ氏は、著書『犠牲者一二〇万人 祖国を中国に奪われたチベット人が語る 侵略に気づいていない日本人』(ハート出版)で、中国侵攻について次のように書いている。「中国のチベット侵略は、一九四九年一〇月、中華人民共和国成立後すぐに計画され、一九五〇年一月には『人民解放軍の基本的課題は、本年中にチベットを帝国主義者の手から“解放”することである』と宣言することで、明確にその意志を示している」「『帝国主義者』どころか、当時チベットには外国人はほとんどいなかった。チベット政府はこの宣言に抗議し、国境の防備を固めようとしたが、時すでに遅く、この年の一〇月には中国の人民解放軍が、侵略軍として東チベット(アムド、カム地方)に押し寄せてきた。その数は数万人、僅か数千の、しかも武器も乏しかったチベット軍は彼らを防ぐことはできなかった」「当時は朝鮮戦争開戦の年でもあり、世界の目はそちらに集中していて、この侵略は世界の注目を集めず、国際的な支援もなかった。これは、中国が常に行うある種、火事場泥棒的な侵略であって、今現在(二〇一七年秋)でも、中国は北朝鮮危機のさなか、インドとの国境線上で圧力をかけている」「中国の行ったことは確実に侵略であり、暴力で一七カ条協定を強制してチベットを支配下におさめ、しかもそれを自ら破って、最低限の自治さえ許さず、最後には軍隊の力で民衆を虐殺するという、絶対に許してはならない行為だ。しかし、チベット側にも、この侵略を許してしまった多くの過ちがあったことも認めなければならない」。
 一九四九年に建国した中華人民共和国の歴史は、周辺国への恐喝と戦争の歴史だ。東トルキスタンやチベットを自治区にした中国は、一九六二年の中印国境紛争でインドと、一九六九年のダマンスキー島事件でソ連と、一九七九年の中越戦争ではベトナムと戦った。陸続きの国との戦争が一段落した後、中国は海洋進出を目論む。一九八〇年代には、東シナ海や南シナ海を含む第一列島線や、伊豆諸島からパプア・ニューギニアにまでに至る第二列島線内部の制海権確保を目標とし、一九九二年に尖閣諸島や南沙諸島等を中国領と規定した領海法を施行、太平洋進出の野心を露わにした。この野心を達成するために、二〇一〇年代に入ってから、南シナ海の岩礁を埋め立てて人工島を建設、軍事基地化することに着手した。海軍力増強のために、ウクライナから購入した未完成の空母を完成させて、二〇一二年に「遼寧」として就役させた。さらに二〇一九年には初の国産空母「山東」が就役、現在三隻目の空母も建造中だ。かつてはソ連(ロシア)の劣化コピーだった中国空軍の戦闘機は、主力戦闘機のJ‐10に、まだ少数であるが最新鋭ステルス機のJ‐20等、自国開発の最新鋭機に置き換えられてきていて、空軍としての力も増している。

力の均衡による平和のため
日本は改憲で国軍の保有を

 中国と日本との軍事力のバランスは、日米安保条約の存在でかろうじて保たれている状態だ。空軍力で言えば、現在は中国空軍と航空自衛隊はほぼ互角だが、自衛隊の次期主力戦闘機のF‐35よりも航続距離が長いと言われるJ‐20の配備が進むと、中国が有利となり、制空権が奪われる可能性がある。制海権は、今は深深度潜水艦に深深度魚雷を保有する海上自衛隊が握っているが、今後同等性能の潜水艦を中国が開発すれば、その優位性は消える。人口十四億人の数の力による経済力は凄まじく、この経済力が軍事力と直結している。日本は、この中国の力とどうバランスをとるかを考えないと、いずれは中国日本自治区となってしまうだろう。そうならないためにも、今後はベトナムや台湾、フィリピン、インドネシア等の近隣のアジア諸国との連携がより重要となる。
日本はヨーロッパ諸国によるNATOのような同盟関係をアフリカを含めてこの地域に構築して、軍事力をちらつかせる中国を牽制していかなければいけない。日本は、支配する平和も支配される平和も求めていない。膨張する中国に対して、集団による安全保障体制の下、バランス・オブ・パワーによる平和を維持していくべきだ。
 日本は憲法第九条があり、日米安保条約があるから平和なのではなく、侵略に対して先陣を切って戦う精強な自衛隊と、日米安保条約に基づく米軍の支援により力のバランスが保たれてきたから平和なのだ。今後もこのバランスを保つにはどうすれば良いか。理解していない人が多いが、日米安保があったとしても、中国による日本の侵略に対してアメリカ軍が日本の代わりに中国と戦ってくれることはあり得ない。日本が自国の権益や領土、領空や領海を自らの力で守る時に、アメリカ軍はそれを友軍としてサポートしてくれる役割なのだ。ベトナムは第一次インドシナ戦争(一九四六年~一九五四年)でフランス軍に勝ち独立を勝ち取り、ベトナム戦争(一九五五年~一九七五年)でアメリカを一九七三年に撤退させ、一九七五年に南北ベトナムを統一した。さらにベトナムは、一九七八年にカンボジアに侵攻して、百七十万人もの自国民を虐殺したポル・ポト政権を解体し追い払ったが、そのことに対して中国がベトナムを懲らしめるとして、一九七九年にベトナムに侵攻して始まった中越戦争でも、中国を撃退して勝利した。
 自分達の国を自分達の手で守るというこのベトナムの精神に、日本も学ぶ必要がある。アメリカの存在を背後に、自由と民主主義を奉ずる近隣諸国と集団的な安全保障体制を構築すると共に、武器輸出をしていくことが、膨張する中国との間に平和を保つことができる唯一の道だ。そのためにも日本は一日も早く憲法を改正して、警察権で動く自衛隊ではなく、軍隊として立ち向かう国防軍を創設して、自分達の国を自分達の力で守ることができる国家とするべきなのだ。

2021年2月16日(火) 11時00分校了