社会時評エッセイ

中国に対する
軍事的備えを
強化すべきだ
Vol.342[2021年3月号]

藤 誠志

南沙諸島の環礁埋め立てで
海への野心を剥き出しに

 一月七日付のブルームバーググローバルファイナンスの一面トップには、「米、中国系八アプリ禁止」「大統領令トランプ氏署名」「商取引大混乱の恐れ」という見出しの記事が掲載されている。冒頭部分を引用する。「トランプ米大統領は五日、アント・グループのデジタル決済プラットフォーム『アリペイ(支付宝)』など八つの中国系アプリとの取引を禁止する大統領令に署名した。トランプ政権が中国IT企業を標的に国家安全保障上の権限を発動する新たな取り組みで、これらプラットフォームが国家安全保障を脅かす恐れがあるためだとしている。実施されれば国境を越える国際商取引システムを大きく混乱させる可能性がある」。任期末期のトランプ大統領だが、最後まで中国との対決姿勢を崩していない。
 オバマ大統領までのアメリカや他の自由民主主義諸国は、中国を経済的に豊かにすれば、いずれ民主化して自分達同様、自由な民主主義の国に変わるはずという目論見で動いてきた。また十四億人という巨大な人口による低賃金労働力と購買力も中国の大きな魅力であり、これらに期待して経済援助を続けてきた。しかし中国は民主化どころか、益々共産党一党独裁色を強め、軍事大国化してきた。
 中華人民共和国の歴史は周辺エリア争奪の歴史でもある。一九四九年十月に中華人民共和国建国後、東トルキスタンに侵攻し、新疆ウイグル自治区とした。そして一九五〇年、中華人民共和国はチベットに侵攻して併合、一九六二年には国境を巡って中印国境紛争でインドと戦い、獲得したアクサイチン(カシミール地方にある三万七、二四四平方キロメートル)の実効支配を行っているが、インドは今でもこの地の領有権を主張している。一九六六年から一九七六年にかけて「文化大革命」が起こり、中国共産党は内モンゴル人民革命党粛清事件と呼ばれるモンゴル人の大粛清を行い、数十万人を殺害した。そして、漢民族を内モンゴルに移入し続け、漢民族は内モンゴル自治区の人口の八十%を占めるに至った。一九六九年にはソ連とアムール川の支流ウスリー川の中州であるダマンスキー島(〇・七四平方キロメートル)の領有権を巡り武力衝突が発生、戦争寸前の緊迫した事態にまでなった。それまで双方が管理下にあると主張して争ってきたダマンスキー島は中国に帰属することが合意された。一九七九年にはカンボジアに侵攻したベトナムに対して、鄧小平はこれを懲らしめると中越戦争(懲罰的軍事行動)を始めたが、この時は多大な犠牲を出して撤退した。
 このように陸続きの国とは一通り戦って国境を定めてきた中国だが、次に狙ったのは海洋覇権だ。二〇一〇年代に入って中国は南沙諸島の環礁の埋め立てと軍事基地化を開始、この基地の周辺十二海里を領海だと主張しているが、日本をはじめとして諸外国は認めていない。南沙諸島を押さえられることは、シーレーンを押さえられることに等しく、海外との貿易で経済が成り立っている日本にとっては死活問題だ。また二〇〇八年にアメリカ太平洋軍のキーティング司令官は、その前年に中国を訪れ中国海軍高官と会談した時に、ハワイを境に東をアメリカ、西を中国が管理する太平洋分割案を提案されたと証言した。半分冗談だとしても、中国の海洋への強い野心を示すものであり、実現すれば日本はすっかり中国勢力圏に入ってしまうことになる。

日本は恒久施設の建設等で
尖閣の実効支配を明確化

 二〇四九年は中華人民共和国成立百周年であり、習近平主席はこの年までに中国による世界覇権を確立しようとしている。そのために江沢民や胡錦濤等、歴代の主席が守り続けてきた五年×二期十年の主席の任期を撤廃し、自らの皇帝化と中国の習近平帝国化を目指している。今後確実に展開されるのは、冷戦終了後の世界覇権を握ってきたアメリカとの鬩ぎ合いだろう。しかし十四億対三億という人口の違いは大きく、経済力においても軍事力においても、この十年~十五年の内に中国がアメリカを凌駕してしまうことも十分に有り得る。
 そんな中国の太平洋への海洋進出の障害となるのが、日本であり尖閣諸島だ。自由に太平洋と行き来するためには尖閣諸島をどうしても手中に収めたいというのが、中国の本音だろう。竹島が歴史的に日本領であることは明らかだ。しかし一九五二年四月、サンフランシスコ講和条約の発効で領土が確定する直前、それまで一時的に日本の施政権範囲を設定していたマッカーサー・ラインを基に韓国が李承晩ラインを設定して竹島の領有を主張、無人島だったこの島に一九五三年四月に独島義勇守備隊という民兵組織が上陸・常駐して以来、実効支配を行っている。尖閣諸島は明治時代に鰹節工場等が造られ、最盛期には二百四十八人の人々が住んでいたという、日本領としての歴史的事実があるが、周辺に海底資源が存在することが明らかになったために、一九七一年以降、中国は歴史的事実を無視して尖閣諸島の領有権を主張している。例えば嵐の時などに、今は無人となっている魚釣島に避難と称して中国人が上陸、竹島と同様にそのまま居座って実効支配を主張してくる可能性もある。これを防ぐためにも、尖閣諸島における日本の実効支配を強化する必要がある。民間の政治団体が魚釣島に建設した灯台を、二〇〇五年に国が譲り受け現在海上保安庁が管理しているが、その他には中国に慮って施設は造られていない。港湾施設等、恒久的な構築物をもっと造るべきではないか。また、できれば自衛隊が常時駐留するようにして、日本が実効支配していることを明確にするべきだ。

強さを増す海警局の圧力に
力の対抗策を講じるべき

 最近、尖閣諸島付近への中国海警局の船の動きは活発化している。昨年は百日以上連続で尖閣諸島周辺の接続水域に侵入、十月には六十時間近くに亘って日本領海に留まったこともあった。もちろん他国の領海において、民間船舶だけではなく軍艦でも「無害通航」を行うことはできる。しかし今中国海警局船舶が行っているような、長時間に亘る領海内の徘徊や日本漁船を追跡する行為は、到底「無害通航」には当たらない。この場合には国際法上、活動の中止や領海外への退去を要求できるため、実際に現場で海上保安庁の巡視船が退去要求を行うと同時に、外交ルートを通じて中国政府に対して厳重に抗議をしている。国際法上、領海に侵入した外国の軍艦を攻撃できるのは、その船が武力攻撃を行う場合に限られる。海警局の船が放水や進路妨害をしてきた場合には、巡視船も同様の対応ができるが、それ以上は無理なのだ。
 しかし尖閣諸島の三島を国有化した二〇一二年以降、常態化している中国海警局の船による領海侵犯に、海上保安庁の対応も限界を迎えている。二〇一六年には海警局の船に守られて、政府が扇動したであろう数百隻の中国漁船が日本の領海侵犯を行った。また中国海警局の船は軍艦を改造した大型船であり、装備からして巡視船よりも充実している。二〇一八年七月にこの中国海警局は人民武装警察部隊に編入されて、さらに軍事色が強くなった。中国政府がGOサインを出せば、いつでも実力で竹島同様に尖閣諸島を実効支配できる状態なのだ。やはり世界はバランス・オブ・パワーによって成り立っている。平和もそうだ。いくら日本側が退去要求を行い、抗議をしても軍事力を背景に領海侵犯を繰り返されては、対抗しようがない。平和を唱えれば平和になるという考え方は国際常識から大きく逸脱した、誤った論理だ。尖閣諸島においても中国の強力な圧力に対して、自衛隊員を常駐させる等、必要な軍事的対抗措置を講じなければ、いずれこれらの島々は中国領となってしまうだろう。

守り抜きたい
日本近海に眠る海洋資源

 竹島など韓国にあげればいい、尖閣諸島のような無人の島々など中国に渡しても構わないだろうと主張する人もいるが、領土侵害を少しでも認めたら、さらに多くの領土を奪われてしまうことは歴史が証明している。また沖ノ鳥島や南鳥島の存在が示すように、小さくても無人でもそこに領土があることで、日本の排他的経済水域は大きく広がり、そのエリアの水産資源や鉱物資源に対して排他的な権利を持つことができるのだ。特に重要なのは海底資源であり、石油だけではなく希少金属や化石燃料のメタンハイドレート等、現在は輸入に頼っている資源の多くを、技術力によって海から獲得できる可能性が高まっている。小さな領土が奪われるということは、そのエリアの資源に対する排他的権利も奪われることになる。この危機意識は我が国では国民のみならず、国会議員でも希薄である。
 陸続きの大陸国ではなく周囲を海に囲まれた島国である日本は、領海侵犯に対して、寛容過ぎるように思える。他の国であれば、もっとそれらに神経を尖らせるだろう。歴史における戦争の原因でもやはり多いのは、領土に関わる不満や野心だ。これらがあっても軍事力が均衡していれば戦争は起きないが、相手国よりも軍事力が優越していると認識すれば、領土問題解決のために侵攻を開始するだろう。中国も必ず同じように考える。領空侵犯に対しては航空自衛隊が緊急発進(スクランブル)で対抗しているが、この回数は二〇〇四年の一四一回に対して、二〇一九年は九四七回と七倍に増加しており、この中のかなりの割合が中国空軍の戦闘機に対するものだ。空はなんとか対応できているが、やはり心許ないのは尖閣諸島周辺の領海の守りだ。むやみなエスカレーションを防ぐために海上保安庁という枠組みは維持しなければならないが、尖閣諸島防衛にはもっと予算を注ぎ込んで、中国がこれ以上の圧力をかけることがないよう、力の均衡を保っていく必要がある。またメディアも国際感覚に則って、国民世論が尖閣防衛強化を支持するように報道することが求められるだろう。人々は主権の及ぶエリアにいる限りその国の法律に従わなければならない、そのときに公海上であればその船の船籍国の法律に、航空であればその飛行機を保有する国の法律に従わなければいけない。
 GDPはそもそも人口に比例する傾向を持つ。既にかつての貧しかった国ではない、人口十四億人の中国は早晩GDPでアメリカを抜くだろう。さらに共産党一党独裁に加え、主席の任期撤廃で習近平独裁色を強める中国では、蓄えた資産全てをトップリーダーが集中して利用することが可能だ。また人についても、二〇一〇年に成立した国防動員法によって、有事には子供とお年寄り以外には全員国防義務が生じる。この法律は海外にいる中国人にも適用され、居住者か観光客かに関わらず、有事では北京政府の命令で動くことになる。例えば二〇一九年には、日本には中国から約九百五十万人の観光客が訪れている。有事にはこれらの中国人観光客が政府の命令で、日本の主要な施設を占拠するかもしれない。そんなゲリラともなる国の人を無制限に入国させていていいのか。日本人は警戒心が不足しているのではないか。支配される平和でも、支配する平和でもなく、バランス・オブ・パワーに基づく平和を維持できるよう、日本人はもっと国防意識を強く持ち、日本は軍事力を増強しなければならない。これが国を守るということなのだ。

2021年1月18日(月) 18時00分校了