社会時評エッセイ

混乱する世界の中で
高まる日本の存在意義

藤 誠志

トラックで大量虐殺を実行
手段が衝撃的なテロの発生

 私は南フランスのコート・ダジュールにあるリゾート地・ニースを四度訪れたことがある。この街の顔であり、私も宿泊したことがあるホテル「ル・ネグレスコ」の近くで、七月十四日、大型トラックがパリ祭の花火の見物の群衆に突っ込み暴走、七月十六日時点で死者八十四名、重体五十二名の大惨事となった。当初はトラックが防弾仕様であるとか、犯人が三名であるとかの情報が流れたために、ISが仕掛けた計画的なテロかと思ったが、実際にはトラックはレンタカーで通常の仕様であり、犯人も一人だった。十六日にはIS系のラジオが犯行声明を出したが、ISと今回の犯人が直接コンタクトを取っていたかは不明で、犯人が特に指示を受けることなく、ISの思想に共感して行ったローンウルフ(一匹狼)型テロであるかもしれない。昨年十一月のパリ同時多発テロのような複数のテロリストによるソフトターゲットへの銃撃とも、三月にブリュッセル空港で起きた自爆テロとも異なり、マークされていなかった人による、全く想定外の、トラックによる大量虐殺という意味で、衝撃的なテロだった。
 冷戦期は、共産主義に対する政治制度として、比較の上では、より良く思える民主主義に意義があった。しかし共産主義が消滅した冷戦終結から二十七年が経過した今、多数派の善意を信じる民主主義への信頼も揺らいできている。いつの時代でも技術が世の中を変える。ネット時代の到来は一強多弱の世界が現れたことを意味し、極少数が我が世の春を謳歌する一方、大多数の不満が解消されないまま放置されている。アメリカ共和党の大統領候補であるトランプ氏は、ここを突いた。三回結婚し、四回経営破綻し、三十年前から三回目の大統領選に挑んだトランプ氏は、私の予想通り共和党の大統領候補となった。世の中、裕福な人と貧しい人では、貧しい人が、エリートとノンエリートでは、ノンエリートが圧倒的に多い。トランプ氏は、多数派の貧しい人とノンエリートの心を掴むために、移民排斥による職の確保や社会の秩序維持、世界への関与から手を引くアメリカ第一主義といったポピュリズム的主張を行い、「米国を再び偉大な国にしよう」と連呼して、見事目的を達成した。次は民主党のクリントン大統領候補との一騎打ちの戦いだ。組織対組織の戦いとなる本選挙では、オバマ大統領の支持と民主党候補選を争ったサンダース氏からの「手打ち」を受けたクリントン氏が、民主党の一体感を演出して一歩リード、それまで支持率はトランプ氏を下回っていたが一旦は逆転することに成功した。

トランプが選んだペンスは
主流派に近い副大統領候補

 トランプ氏が共和党をまとめるためには、副大統領候補がポイントになると私は以前から主張していた。過去本稿で「トランプ氏は副大統領候補に女性、しかも非白人で若く美しく魅力的な人物を選ぶだろう」と書いた。また「共和党主流派の支持を得られる人を選ばなければならない」とも主張した。しかし七月十六日の日本経済新聞朝刊は、トランプ氏がペンス氏を副大統領候補に選んだと次の様に報じている。「ペンス氏は二〇〇一年から六期一二年間にわたって下院議員を務め、一三年からインディアナ州知事に就いた。保守派の論客として知られ、人工中絶や同性婚に反対、トランプ氏と同様に移民政策にも強硬だ。ライアン下院議長など共和党主流派とのパイプが太く、非議員のトランプ氏は党内の調整役をペンス氏に期待する。『伴走者』と称される副大統領候補は大統領候補の弱点を補う存在だ。年齢や政策、地域、性別などで補完し合うのが通例だ。本選に向けてトランプ氏の弱みとみられるのは、女性やヒスパニック系(中南米系)、黒人など少数派の集票だ。ペンス氏はトランプ氏支持層の主体である白人男性で、キリスト教保守派に属する。少数派の集票につながるとの予測はほとんどない。インディアナ州も元来、共和党が強い『レッド・ステート(赤い州)』で、激戦州ではない。共和党全国大会目前の副大統領候補の発表は、トランプ氏が意中の副大統領候補に次々と断られた末に、ペンス氏しかいなかったという消去法の選択の面もある」
 実際のところ、多分サウスカロライナ州知事のヘイリー氏やアラスカ州知事のペイリン氏など私が指摘したような女性に声を掛けたが叶わず、「共和党主流派とのパイプ」という条件のみに合うペンス氏に決めたのだろう。
 厳しい大統領選が予測されるが、共和党としては、二期八年続いた民主党政権をこれ以上継続させる訳にはいかない。そのためには主流派ではないにしても、トランプ氏に勝ってもらうしかない。一方のトランプ氏も党組織のバックがなければクリントン氏に勝つことが難しいために、徐々に本選に向けてTPPや外交、安保について共和党主流派に合わせた政策主張へと軌道修正を行ってくるだろう。政治的な圧力もあってか、メール問題での訴追は免れたクリントン氏だが、そのことに対するアメリカ世論の不満は予想以上に大きい。一時は支持率でクリントン氏がトランプ氏を逆転したが、ニューヨーク・タイムズが七月十四日に発表した世論調査では、共に支持率四〇%とイーブンになっている。
 七月十六日付けのフジサンケイビジネスアイの海外面では次のように報じられている。「全国大会に先立ち開催された党規約委員会(一四、一五日)は、複数の代議員が求めていた規約改正案を否決した。党の規約により代議員は予備選や党員集会の結果に従い投票する義務を負う。しかし、トランプ氏指名阻止を目指す一部代議員が党規約を変更して全国大会で代議員が『良心に従って投票』できるようにしようとしていた。反トランプ派の試みが失敗に終わり、トランプ氏の指名獲得に向けた障害がまた一つ取り除かれた。共和党の全国大会はオハイオ州クリーブランドで一八日から四日間開催される」
 今回の全国大会は、党主流派の欠席が目立つ異例の事態にもなっていて共和党の大御所よりスポーツ選手や有名実業家など、一般国民にアピールする人に講演を依頼する、これまでにない共和党全国大会となった。トランプ大統領誕生までには、まだまだ波乱がありそうだ。

自民党は分裂選挙ではなく
保守VS鳥越で戦うべきだ

 一方、七月十日に行われた日本の参議院議員選挙では与党が圧勝、その結果、改憲勢力が参議院の三分の二の議席を獲得した。改憲勢力は衆議院では既に三分の二を確保しており、憲法改正の発議を行うことができることとなった。
 そして今、東京都知事選挙が行われている。自民党主流派からやや距離を置く小池百合子氏は、自身が選ばれる可能性が少ないと読み、自民党公認候補が決まる前に立候補を表明する先出しジャンケン策に出た。これに反発した自民党東京都連は、建設省の官僚出身で岩手県知事と総務大臣の経歴を持つ増田寛也氏を公認候補とした。野党側はこの自民党の分裂選挙をチャンスと考え、参院の共闘路線を継続して、かつ勝てる候補を模索した結果、先に立候補を表明していた元日弁連会長の宇都宮健児氏を降ろして、第一次安保世代のジャーナリストである鳥越俊太郎氏を野党統一候補として擁立した。しかし鳥越氏には世界観も歴史観も国家観も無く、今の世界経済や軍事情勢にも疎く、都政に関する具体的な政策も全くない。彼は、参院選で改憲勢力が三分の二を獲得した事で、憲法改正が行われる事を阻止するために都知事選に出たのだと言ったが、全くお門違いだ。彼を擁して野党は人気投票的選挙戦を展開しようとしている。一九九五年に東京都知事選挙では青島幸男氏が、大阪府知事選挙では横山ノック氏が当選し、青島・ノック現象と呼ばれた。この二人はテレビなどで全国的に知られた人気者であり、無党派層が一気に彼らに流れたために当選できたのだ。時代錯誤的にこれと同じことを野党連合は狙っている。
 この都知事選を「自民党分裂選挙」と考えてはいけない。小池氏も増田氏との戦いではなく、共産党が支援する鳥越氏の当選を阻止する為の戦いと考え行動すべきである。それなのに自民党都連は「都知事選挙における党紀の保持について」の文書で「各級議員(親族等含む)が、非推薦の候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、賞罰規定に基づき、除名等の処分の対象となります」と通達したが、「親族等を含む」と書いたことで増田陣営は自滅した。鳥越氏は出馬理由が全く不適切で、都政への政策提言もなく、テレビ公開討論で政策のなさが暴露されることを恐れて出演を拒否したことで、テレビ討論会を中止としてしまった。これにより鳥越氏は政策もなく公開討論から逃げた候補と見做され自滅した。 
 七月一七日に発表された最初の主要メディアの世論調査では、三氏の接戦だが、都政に精通し韓国人学校への都有地貸出しの白紙撤回や外国人参政権に反対している小池氏が一歩リードと伝えられている。自民党の公認がなくても一歩も引かずに戦う小池氏の姿勢は大いに評価に値する。小池氏は増田氏への批判を控え、共産党と手を組んだ鳥越氏への批判を徹底的に行うことで、結局勝利する。民進党、社民党、共産党、生活の党の野党共闘は野合であり、基本的な考え方が全く異なるために、反アベ以外に何の具体的な政策も出すことができない。二〇二〇年東京オリンピックは、日本の存在感を世界に示すための千載一遇のチャンスだ。国と東京都が一体となって、この世紀のイベントを成功に導かなければならない。

トランプの発言を契機に
日本は自主独立を目指す

 今の世界は、民主主義の時代から、強いものが弱いものを支配する帝国主義の時代へと逆行しているように思える。フィリピンがハーグの仲裁裁判所に申し立てた南シナ海についての仲裁裁判で、中国の主張を一切認めない最終判断が示されたが、中国政府はこの判断は紙切れだとして、全く受け入れようとしない。一方のアメリカは、誰が大統領になろうと年間五兆円の軍事費削減は行わなくてはならず、東アジアからの撤退、沖縄からの海兵隊員の削減路線が決まっている。トランプ氏は、「在日米軍の駐留費用の全額を日本側が負担しなければ撤退する」と語り、「日本と韓国が核武装することを容認する」とも発言している。
 トランプ氏は、アメリカの先住民インディアンを虐殺しながら西部開拓してきて西海岸に達した時から、太平洋の覇権を獲得することがアメリカにとっての悲願となったことを知らないか、知っていてもわざと無視しているか、どちらかだろう。一八五三年ペリーが黒船で日本に来たのは太平洋の覇権確立のためであり、そのペリーの旗艦・サスケハナ号が掲げていた星条旗が先の大戦の降伏文書調印式が行われたミズーリ号に飾られていたのは、長年念願だった太平洋の覇権がようやく手に入ったという意味だ。在日米軍基地はアメリカの太平洋覇権維持のための基地である。しかしトランプ氏の発言は日本にとってはチャンスだ。彼が大統領になった暁には、日本は真の独立国家・核武装化へと向かうべきだろう。中国が暴走する中、東アジアの力のバランスをなんとしてでも維持しなければならないが、力の源泉はやはり核兵器だ。従来日本の核武装にアメリカは全面的に反対してきたが、NATO四カ国(ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダ)がアメリカと協定しているニュークリア・シェアリング(核の共有)の日本導入を認めさせるべきだ。さらに戦争を呼び込みかねない現行憲法を改正して、自衛隊を国防軍にして攻撃力を備えて戦争を抑止できる憲法にしなければならない。

一神教の歴史は
イコール対立の歴史だ

 東アジア以外の世界情勢も緊迫している。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ現象に見られるように、自国第一主義が世界を席巻している。イギリスの国民投票でのEU離脱派勝利で為替は乱高下し、株価が大暴落、世界中で一時二百十五兆円の時価総額が失われたとも言われる。しかし七月中盤には株価も為替も落ち着きを取り戻しつつある。私もかつてヨーロッパをレンタカーで旅したことがあるが、少し走るとすぐに国境になり、非常にわずらわしかった覚えがある。しかし今は入国審査もなく、通貨も統一されていて、非常に便利だ。イギリスでもこのメリットを大いに享受していたのは、大学での学びや職探しで移動が盛んな若年層であり、彼らの中では残留派が多かった。今回の国民投票では直前の世論調査で残留派が勝利すると伝えられたために若年層が安心し、投票率が低くなったことが離脱派勝利の理由の一つだとされている。
 離脱派勝利の責任をとってキャメロン首相が辞任、ポスト・キャメロンの最右翼と見られていた離脱派の主導的地位にあったボリス・ジョンソン下院議員は、保守党の党首選への不参加を表明して敵前逃亡した。結局サッチャー以来の女性宰相として、残留派のメイ首相が誕生し、離脱を煽ったボリス・ジョンソンは外務大臣に就任した。これからメイ首相の指揮の下、イギリスはEUとの離脱交渉に臨むことになる。
 四百万人もの署名が集まった再投票の請願に対してイギリス議会は却下の結論を出したが、今後のEUとの交渉の中で、再度国民投票を行いイギリスが残留するシナリオはまだ残されていると私は考えている。しかし、官僚機構が肥大化したEUは、崩壊の始まりを迎えているのではとも私は思う。
 ヨーロッパや中東でイスラム過激派が引き起こすテロとの戦いが激化している。これはロシアがシリアのアサド政権維持のために空爆を開始して以来、ISが終わりの始まりを迎えたと言ってよく、ISは六月に二年半維持してきたイラク中部の都市・ファルージャの支配権を失い、あとは最大の本拠地・モスルを残すのみだ。しかし、彼らが支配地域を失うのと反比例して、テロが世界中に拡散している。ニースのテロも、日々生活に不満を抱く男が、インターネットでISの過激な思想に共感して、単独で犯行に及んだ可能性が高い。今や何処でも誰に対してでもテロは発生する。しかしこれもいずれ収束するだろう。
 十六日にはトルコでクーデター未遂事件もあった。エルドアン大統領が従来の世俗主義国家からイスラム色の強い国にトルコを変えようとしているのは明らかであるが、軍の一部が更なるイスラム化を求めて起こしたクーデターであった可能性が高い。このクーデーターの鎮圧を機に、エルドアン大統領は七千人を超える軍と司法関係者を拘束すると共に、政敵の宗教指導者のギュレン師派の公務員を免職させ、非常事態宣言を発令し同派を一掃し、独裁体制の強化を図っている。
 一神教内での対立は今に始まったことではなく、イスラム教だけの話でもない。ヨーロッパでは三十年間に及ぶ宗教戦争に一六四八年にヴェストファーレン条約が締結された事により、カトリックとプロテスタントの戦いに終止符が打たれた。これに比べて、八百万の神々を信奉する日本は、古来より平和を維持してきた。多くの国民がこの事実を認識すべきだ。
 最近天皇の生前譲位論がマスコミを賑わせている。日本には昔から天皇が職務を全う出来なくなれば摂政を置く制度がある。生前譲位論も女性天皇論もGHQが占領政策として宮家を大幅削減したことも、天皇家の自然消滅を狙ってのことと考えられる。
 アインシュタインの言葉に「世界の盟主こそは武力や金の力ではなく、あらゆる国の歴史を超越した、世界で最も古くかつ尊い家柄でなくてはならない。世界の文化はアジアに始まってアジアに帰る。それはアジアの高峰日本に立ち戻らねばならない。我々は神に感謝する。神が我々人類に日本という国を作って置いてくれたことである」とある。
 私は誇りを持てる日本を再興すべく、これからも事業にも言論活動にも益々力を注いでいくつもりだ。

2016年7月20日(水)21時30分校了