社会時評エッセイ

国民が一致団結
することで、
この国難に打ち勝つ
Vol.333[2020年6月号]

藤 誠志

危機を克服した者のみが
偉大な指導者と名を残す

 
 ニューズウィーク日本版の四月十四日号に、ジョージタウン大学教授のサム・ポトリッキオ氏の「コロナ危機対応、リーダーの成績表」というタイトルのコラムが掲載されている。その冒頭で、「政治の世界には、リーダーは『よい危機』を逃してはならないという表現がある」「目的のためなら手段を選ばないマキャベリ的な言い回しだが、歴史はその正しさを裏付けている。古来、偉大な指導者が歴史に名を残すのは、深刻な危機にうまく対処できた場合のみ。世界的なリーダーは、例外なく戦争や経済危機を経験している」とした上で、「新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)は、犠牲者の多さ(今後一年半の間に世界で数百万人の死者が出る可能性がある)、経済的ショック(既に世界の景気は崖から転げ落ちている)の両面で、第二次大戦後最大の危機だ」と主張している。世界各国のどのリーダーにも共通して言えることだが、困難を極めている新型コロナウイルスの感染拡大という危機への対応は、後世に名を残すチャンスなのだ。
 中国・武漢市の国立病原体研究所から漏れた人工的なウイルスの可能性もある新型コロナウイルスは、中国で多くの感染者を出した後、韓国、日本に感染を拡大、さらにイラン、ヨーロッパ、北米と、その感染エリアと感染者を飛躍的に拡大させた。他国とは一線を画すクラスター対策で感染者数を抑えてきた日本だが、三月下旬についに一日の感染者数が百人を突破、その後も東京を中心に感染者数の増加は止まらなかった。そのような状況の中で安倍首相は決断をし、四月七日に緊急事態宣言を出した。
 四月七日付の日本経済新聞夕刊には、「今夕に緊急事態宣言」「新型コロナ『影響重大』」「首相表明」という見出しの下、以下のような記事が掲載されている。「安倍晋三首相は七日の衆院議院運営委員会で、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、同日夕に改正特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令すると表明した。『国民生活や経済に重大な影響を及ぼす恐れがある事態が発生した』と語った。東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の七都府県を対象区域に指定し、期間は一カ月間になると述べた」「緊急事態宣言の発令は初めて。知事の権限が強化され、法律に基づく外出自粛要請やイベント開催制限の要請・指示が可能になる。効力は八日午前〇時から五月六日までとなる見通しだ」「首相は議運委で『国民に社会機能維持のための事業継続は引き続きお願いしつつ、可能な限りの外出自粛に全面的に協力してほしい』と訴えた。『国民の命と健康を守ることを第一に、都道府県と緊密に連携しながら感染拡大の取り組みを徹底する』とも強調した」「一カ月間という期間は感染の潜伏期間などを考慮したと説明した。宣言の解除には新規感染者数の減少が必要との認識を示し『専門家の意見を聞き、適切に判断する』と語った」「これに先立ち、感染症の専門家による『基本的対処方針等諮問委員会』は七日午前の会合で、現在の感染状況について協議した」「(一)国民の生命・健康に著しく重大な被害を与える恐れ(二)全国的かつ急速なまん延により国民生活・経済に甚大な影響を及ぼす恐れ――という特措法が定める発令要件を満たしたと評価し、首相の方針を了承した」「首相は七日夕に開く新型コロナウイルス感染症対策本部で緊急事態宣言を正式に発令する。午後七時からの記者会見で決定に至る経緯を説明し、国民に協力を訴える」「宣言を受けて、七都府県の知事は外出自粛などの要請ができるようになる。学校や保育所、福祉施設、映画館、百貨店といった多数の人が集まる大規模施設には使用停止を求められる。私権制限を伴う措置が可能で、事業者が正当な理由なく応じなければ『要請』より強い『指示』を出せる」「知事は医療体制を強化する権限も得る。臨時の医療施設を設けるために土地や建物を所有者の同意なく使える。医薬品や食料品についても事業者に売り渡しを要請でき、正当な理由なく応じない場合には収用できる」「鉄道やバスなど公共交通機関は宣言の発令後も運行を続ける。食料品や医薬品といった生活必需品を扱うスーパーマーケットなどは営業する」「海外では違反した場合に罰則を伴う外出禁止令を出すケースもあるが、日本は自粛要請にとどまる。道路を封鎖する法的根拠もなく、中国などで実施された都市封鎖(ロックダウン)はできない。感染拡大を防ぐための緊急事態宣言の実効性は住民や企業がどこまで要請・指示に沿って行動するかに左右される」。法律上の制約がある中でも従来の日本ではあり得なかった思い切った決断を安倍首相は行ったと思う。

アパホテルにも
感染者受け入れの要請が

 日本はこれまで「一、クラスターの早期発見・早期対応」「二、患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」「三、市民の行動変容(広告用語で人々の行動面の変化)」という三本柱を基本戦略として、新型コロナウイルス対策を進めてきた。この二の「医療提供体制の確保」の観点から、アパホテルにも四月二日に、政府筋からある打診がきた。それは、「PCR検査(微量の検体を高感度で検出する手法)で陽性となった新型コロナウイルスの感染者の増大によって病院の病床が埋まりそうであり、そのため軽症や無症状の感染者をアパホテルで受け入れてもらえないか」というものだった。日本最大のホテルネットワークを持つアパホテルとしては、この国難ともいえる時に受け入れを行うのは当然と、即座に快諾の返事をした。このことがメディアの報道で伝えられると、多くの賛同の声とともに、アパホテルの周辺に居住する方々から、受け入れるのであれば感染リスクが多少とも高まる付近住民の同意を得てからにして欲しいというご要望をいただいた。具体的な受け入れ方法については現在詰めている状況だが、感染者の受け入れは必ずホテル一棟単位で行い、ゾーニングを設置し、ホテルのスタッフは防災・緊急時対応以外はグリーンゾーンでリネン類と消耗品の手配、電話・ネットに対応する。シーツ・タオル等のセッティングに、ベッドメイクは感染者自らが行うルールとする。具体的にはリネンサプライ業者が客室の前の廊下に置いていったリネン類を感染者が部屋に入れて交換、使い古したシーツやタオルはビニール袋に入れて廊下に出す。この古いリネンは回収して、業者が廃棄処分にする。食事も業者が客室の前の廊下に置いたものを、感染者が室内に入れて食べ、食器は使い捨ての食器として、これもビニール袋に入れて廊下に出す方式を想定している。依頼を受けた場合は、スタッフ等他に感染者を出さないよう、万全の体制で対応する予定だ。

一人ひとりの行動変容で
緊急事態宣言の早期終了を

 今回の新型コロナウイルスによる死者は、四月六日時点において、全世界で七万人を超えた。感染者は約百三十万人にも及ぶ。感染者数の一割以上の人が亡くなっている国はスペイン、イタリア、フランス、イギリス、オランダだ。そんな中、国家非常事態宣言を出したアメリカでの感染者や死者の急増は、貧困層の無保険者が国民の八%もいて、PCR検査をするだけでも一千ドル(十一万円)もかかることになるためにしない人が多いことによる。日本の死者数は感染者数の約二・四%であり、絶対数も率もまだかなり低い数字に抑えることができている。この段階で緊急事態宣言を発出したことは、安倍首相の英断だ。
 感染者が急激に増加して医療の対処能力を超える危険性が高まったタイミングで、アパホテルを含む複数のホテル業者に軽症や無症状の感染者の受け入れを打診するとともに、さらに非常事態宣言を出すに至った。このような事態はいち早く手を打つことが肝要であり、わずかな遅れによって取り返しのつかない感染の広がりが起こり、死者数が増大することになる。PCR検査の数が少ないと今の日本の対応を批判する人もいるが、それは間違いだ。全ての人をPCR検査して感染者を入院させれば、たちまち病院のベッドがなくなってしまうだろう。先に挙げた三本柱の戦略では、医療体制の維持のために重症者を優先して病院に収容して、死者を減らすというのが、日本が採用してきた方針であり、それはきちんと成果を出している。改正特別措置法に基づく日本の緊急事態宣言は欧米の同様の宣言とは異なり、個人に対する罰則等がなく、強い強制力を持たない。これは指定した都道府県の知事に外出自粛要請や多くの人が集まる施設への休業要請・指示、イベント開催制限の要請・指示の権限を与えるだけのものだ。大学や映画館等は休業要請の対象だが、病院や診療所、スーパーなど、社会生活の維持の上に必要な施設への休業要請は行われない。今回の緊急事態宣言の下、爆発的な感染者の増大が回避され、一カ月後の五月六日には緊急事態宣言を終了できると私は信じている。真面目に自粛要請に応える日本人は行動変容の要請を受けた七都府県をはじめとした多くの国民が一致団結して協力することで、感染者と死者が一気に拡大したイタリアやスペインのようにはならないと考えられる。
 しかしコロナウイルスとの戦争といってもよいこの戦いに勝利するには、コロナウイルスに対する特効薬の開発とワクチンの開発が必要であり、それにはまだ一~二年かかる。コロナウイルスとの戦いがまだまだ続く覚悟で取り組まなければいけないだろう。
 この緊急事態宣言を含む一連の新型コロナウイルス対策が功を奏すれば、安倍晋三の名前は、歴史に深く刻まれることになるだろう。安倍首相にはこのチャンスにリーダーシップを存分に発揮して、難局を打開してくれることを切に願っている。

部屋を求める方がいる限り
営業するのがホテルの使命

 十分用心していたはずのイギリスのボリス・ジョンソン首相が感染、一時入院して集中治療室に入る等、この新型コロナウイルスはかなりの強敵だ。一日も早くこのウイルスに効くワクチンや治療薬の開発を行って、完全に封じ込めなければならない。人類はこれまでも数多くの感染症の世界的な大流行に直面してきた。一四世紀に起きたペストの大流行では当時の世界人口の約二割に当たる一億人が死亡したと推計されていて、ヨーロッパでは街や村ごと全滅したところもあったという。第一次世界大戦中の一九一八年から流行が始まったスペイン風邪では、世界中で五億人が感染し、推計で一千七百万〜五千万人の死者が出たし、一九六八年の香港風邪では世界で五十万人の人が死亡したと考えられている。近年でも二〇〇二年にSARS(サーズ)、二〇〇九年に新型インフルエンザ、二〇一二年にMERS(マーズ)と、十年に一回は大きな感染症の流行が起こっている。
 私は常々、ホテル事業における最大のリスクは、パンデミックと近隣における戦争の勃発だと語ってきた。正に今回の新型コロナウイルスのパンデミックによって、多くの人が外出を自粛、ホテルの稼働率が従来の五分の一にまで下がる中、営業を停止するホテルも続出している。しかし私は近くに他のアパホテルがないところにおいては、稼働率が低くても、できるだけ営業を続けていきたいと考えている。このことは二〇一一年の東日本大震災の際も同じだった。震災直後、仙台においてほとんどのホテルが閉館、予約をしていた人が宿泊できなくなるだけではなく、既に宿泊していた人も退去を求められた。そんな中、アパヴィラホテル〈仙台駅五橋〉は営業、電気も水道も通じていないがそれでも良いかどうかの確認をとった上で、通常宿泊料金の半額以下で、宿泊希望のお客様に部屋を提供し続けた。また全国からやってきた個人のボランティアの人々には無償で部屋を提供、国境なき医師団の医師にも泊まっていただき、彼らからは電気や水道がなくても雨露がしのげるだけでもありがたいと言っていただいた。これは、営業を続けるアパホテルのスタッフの支えにもなった。このことで、私は必要としている人に対して、ホテルは常に門戸を開けておくべきだと痛感、この考え方は今の新型コロナウイルス騒動の中でも、全く変わっていない。アパホテルはくつろぎを与える場所として、求める人に常に部屋を提供していく所存であり、日本全国のアパホテルの支配人やスタッフのほとんどは、その覚悟で日々の業務に勤しんでいる。さらに国や地方自治体からの要請があれば、近隣に住居の少ない商業地などのホテルを一棟単位で貸し出して、感染者の宿舎として提供していくつもりだ。国難というべき思わぬ今回の新型コロナウイルスだが、今後の教訓となるよう、緻密に対応策を練って、実行していきたい。来年開催予定の東京オリンピックの中止も取り沙汰される中、このコロナ戦争に勝利して開催ができるように、今はアパホテルも含め全国民が一丸となって、この国難に打ち勝つべく全力で行動する時なのだ。

2020年4月20日(月) 18時00分校了