社会時評エッセイ

滞る改憲への流れを再び加速せよ
Vol.319[2019年4月号]

藤 誠志

二月末に二回目の
米朝首脳会談が行われる

 二月七日付の産経新聞朝刊の一面には、「米朝再会談二七・二八日」「トランプ氏 ベトナムで開催」という見出しで、アメリカのトランプ大統領が議会で行った一般教書演説について報じられている。「トランプ米大統領は五日夜、米国の政策課題について説明する一般教書演説を上下両院合同会議で行い、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との二度目の首脳会談を今月二七、二八日にベトナムで行うと正式に発表した」「トランプ氏は演説で『朝鮮半島の平和に向けた歴史的な取り組みを引き続き推し進める』と述べた上で、『もし私が米大統領に選ばれていなければ、今頃は北朝鮮と大規模な戦争が起きていたかもしれない』と主張。また、『私と金正恩氏との関係は良好だ』と語り、北朝鮮の非核化実現に一定の自信を示した」「首脳会談の場所はベトナム中部ダナンが有力視されているが、トランプ氏は詳細には言及しなかった」「米朝首脳の再会談をめぐっては、金正恩氏の有力側近である金英哲党副委員長が先月一八日、ワシントンでトランプ氏と面会し、二月末に行うことで合意した。国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表はこれを受け、六日に訪問先の韓国から北朝鮮入りし、首脳会談の議題などについて、平壌で北朝鮮当局者と実務協議を実施。ビーガン氏の訪朝は昨年一〇月にポンペオ国務長官と一緒に訪朝して以来で、北朝鮮の新しい実務協議担当者の金革哲元駐スペイン大使らとの会談に臨んでいるとみられる」「一方、トランプ氏は演説で不法移民対策の必要性を訴え、メキシコ国境の壁建設の決意を改めて表明。下院で多数を占める野党の民主党に協力を呼びかけた」「トランプ氏はまた、賃金上昇や失業率低下、減税など大統領に就任後二年間の成果を誇示。通商問題では、中国との貿易協議で不公正な貿易慣行を是正する考えを示す一方、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)批准の必要性を訴えた」「安全保障分野ではアフガニスタン駐留米軍の縮小に言及したほか、シリアのイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国』(IS)の支配地域をほぼ制圧したとして、米軍を撤収させる方針を重ねて表明した」という。

「世界を導く役割」の継続を
トランプ大統領は断言

 「強国外交 トップ独断に不安」という見出しの後に、記事はまだ続く。「トランプ米大統領は五日の一般教書演説で、外交・安全保障政策に関し『米国の国益を増進させることを弁解しない』と述べ、『道義的現実主義』に根ざした米国第一の強国外交を展開することを表明した。その核心は、北朝鮮との非核化交渉に代表されるように、従来の常識に捉われない『大胆かつ斬新』(トランプ氏)な政策展開だとしているが、一連の取り組みの成否には不安もつきまとう」「トランプ氏は演説で北朝鮮問題に関し『(北朝鮮に捕らわれていた)人質は戻ってきた。核実験は中断した。ミサイル発射は十五カ月間も行われていない』と改めて強調し、昨年六月に史上初の米朝首脳会談を実現させた米朝の対話路線が順調であると誇示した」「ただ、トランプ氏が同時に『取り組むべき課題は山積している』と述べたことでも明らかなように、同氏が誇示した一連の実績は北朝鮮の非核化を担保するものでは一切ない」「しかも米情報機関は、北朝鮮に非核化の意思が本当にあるのか、極めて強い疑念を抱いている」「トランプ氏はこれまで、『非核化実現以前の対北制裁緩和』や『在韓米軍の縮小・撤収』を否定し、北朝鮮に安易な譲歩はしない立場を示してきた。しかし、核戦力を体制存続のよりどころとみなす金正恩政権が経済支援と引き換えに核を手放す保証はどこにもない」「トランプ氏としては次回の会談で、完全非核化の大前提となる、核戦力や核施設の全容の申告を強く求め、金正恩氏の非核化の意思を見極める必要がある」「しかし、自らの『トップ外交』に絶対の自信を抱くトランプ氏が、非核化に向けた具体的措置を何一つ金正恩氏に確約させられなかった昨年六月のシンガポールでの米朝会談と同じ失敗を今回も繰り返せば、北朝鮮の非核化は一層困難となる恐れが高い」「トランプ氏の外交政策をめぐる決断は、シリアやアフガニスタン情勢にも影を落としている」「トランプ氏は演説で『偉大な国は終わりなき戦争をしない』と語り、シリアとアフガンから米軍部隊を撤収させる方針を改めて表明した。しかし、共和党主導の上院本会議はこの日、両国からの米軍の『性急な撤収』はイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国』(IS)の復活につながるとして異議を唱える条文を盛り込んだ中東関連法案を賛成多数で可決した」「また、ボーテル中央軍司令官は同日、上院軍事委員会の公聴会で、トランプ氏が昨年一二月にシリアからの米軍撤収をツイッターで表明した際、『事前に相談がなかった』と指摘し、同氏が独断で撤収を決めたとみられることが判明した」「一方で、トランプ氏は演説の最後に『米国は世界の全ての国にとって希望と約束、灯火と栄光であるべきだ』と強調。政権が孤立主義に走らず、世界を導く役割を担っていくという伝統的な共和党の対外姿勢を掲げたことは、大いなる救いになったといえそうだ」としている。

韓国の「強気」の理由は
北朝鮮の核兵器の存在だ

 北朝鮮の金正恩との再会談は、トランプ大統領の再選戦略だ。前回の会談ではトランプ大統領は結局何の成果も得られず、貧弱な経済力しか持たない北朝鮮に対等に振る舞われ、金正恩を称賛するしかない情けない状態だった。これが核兵器を保有することの「力」だ。だから今回発表された再会談でも北朝鮮の完全非核化など望むべくもなく、そのために金正恩が核兵器の保有リストを提出するなどということもない。せいぜい実現できるのは、アメリカ本土まで届くミサイルの廃棄と核実験の凍結までだろう。この再会談は明らかにアメリカの焦りの表れであり、トランプ大統領は金正恩に足元を見透かされ、非核化が進展しないどころか援助の約束をする羽目になるかもしれない。日本にとっては北朝鮮が潜在的核保有国として存在するのは、大変な脅威だ。さらに悪いのは、これが韓国の行動に影響していることだ。徴用工に関する判決や海上自衛隊の哨戒機への火器管制レーダーの照射など、最近の韓国の反日的な行動の前提となっているのは、北の核が認められ、今後生まれるであろう連邦朝鮮が核保有国となって日本に対して優位な立場になるという「見込み」だ。この連邦朝鮮は、日本の植民地支配に対する多額の賠償請求など、次々と無理難題の要求をしてくるだろう。日本を取り巻く国々が核保有国となり、連邦朝鮮が中国と組んで日本を刃のように脅すことになれば、早晩日本は中国の一自治区となってしまう。
 日本に今必要なことは東アジアの核バランスの維持だ。自国第一主義のアメリカのトランプ大統領は、自国の利益に繋がらない軍事行動は「国民が許さない」と、一切行わないだろう。だから国会決議である非核三原則を廃止、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を締結し、日本独自の核抑止力を手に入れる必要がある。そうしないと、日本が三度目の核攻撃の犠牲になる可能性が最も大きいのだ。そして憲法改正を行って自衛隊を合憲化、さらに第二次改憲で現行憲法九条二項を削除して、国の交戦権を認めて日本の防衛力を増強する必要がある。
 このような緊迫した情勢下にも拘らず、憲法改正に反対するメディアは、改憲が話題とならないよう「無視戦略」に出てきている。今、安倍首相が目指しているのは自衛隊の存在を憲法に明記する「加憲」であって、九条二項を削除するものではない。そして七月の参議院議員選挙までは、改憲派議員が衆参両院で三分の二を占めているのだが、憲法改正は一向に進んでいない。現在の状況は世論調査の結果では、改憲支持が反対を下回っているのは確かだが、それを根拠に「世論が熟していない」という理由で自民党議員でさえ改憲を先延ばししているように思える。六年前の参院選で自民党は大勝したのだが、この七月の選挙は相当頑張っても前回並の大勝は難しい。このままでは参院の改憲支持議員は三分の二を割ることになるだろう。それまでに、なんとしてでも改憲の発議を成さなければならない。
 なりふり構わず振る舞うトランプは、再選するだろう。そうであれば、安倍総理も三選で退任するのではなく四選を目指すべきだ。過去安倍首相ほど憲法改正に熱心に取り組んだ首相はおらず、トランプ大統領も日本の改憲を容認している。この二人の在任中に、(最初の)改憲をなんとしてでも成し遂げないと、日本は永遠に憲法を改正できない。安倍首相は早急に自民党、公明党の議員に改憲への支持を迫り、反対者が多いようであれば衆院を解散、改憲不支持の議員は公認せず刺客を立てるぞと脅してでも、早期の改憲発議を目指すべきだ。

アメリカは中国を
宗教問題でも批難し始めた

 多くの国際紛争は宗教に根ざすことが多い。二月七日付の日本経済新聞の二十七面の「経済教室」で、名古屋市立大学教授の松本佐保氏が「米中摩擦 弾圧問題が火種」というコラムを書いている。ポイントは「トルコの牧師拘束問題で世界経済が混乱」「米の宗教上の脅威はイスラムから中国に」「中国はソ連崩壊させた『宗教の力』を警戒」だ。「二十一世紀の現在、古代・中世ならともかく、国際政治・経済と宗教に直接的な関係などないと、多くの人が思っていただろう。しかしそれは二〇一八年一〇月までにトルコで起きた、米国人キリスト教牧師アンドルー・ブランソン氏の拘束・釈放劇で覆った」「ブランソン牧師の拘束に対しトランプ米大統領は同八月、トルコへの経済制裁を発動し、トルコ通貨は大暴落した。これがロシアやブラジル、アルゼンチンなどの新興国通貨に連鎖し、日本を含む先進国の株価にも影響を及ぼした。その後、トルコ当局が牧師を釈放するやいなやトルコ通貨は回復し、ほぼ以前の経済状況を取り戻した」「このブランソン牧師はキリスト教福音系の長老派の聖職者である。彼の釈放は同一一月の米中間選挙を前に、トランプ大統領の重要な支持基盤であるキリスト教保守・右派票を固めたといわれる。同五月の米国大使館のエルサレムへの移転もこうした『宗教票』への配慮によるもので、今や米国の内政や外交を左右する重要な要因である」「トルコや中東・北アフリカではイスラム教徒が多数派で、特にイラクやシリア、エジプトでキリスト教徒少数派(シリア正教会徒、コプト教徒、マロン派を含む)が弾圧され、彼らが「イスラム国」(IS)などイスラム過激派に虐殺されたことも、この事件の背景にある」「トランプ氏は一七年の大統領就任以来、大統領令でこうした国から米国への入国を制限し、州政府が『信教の自由を保障する米国憲法に反する』として訴訟に発展した。しかし最高裁の判決は、キリスト教保守系の判事が多数派になったこともあり、トランプ氏の大統領令が勝訴した」「判決理由は『本件は内政の治安問題であり、国民の安全を確保するのは大統領の義務ゆえに違憲でない』であった。極端に言うと、イスラム教徒が潜在的にテロリストであることを最高裁が認めたことになる。このため、宗教の問題を巡っては『キリスト教対イスラム教』が再び濃厚になるかと思われた」「しかしブランソン牧師の釈放発表の一週間ほど前の一〇月四日、ペンス副大統領が保守系シンクタンクのハドソン研究所で行った演説で宗教問題は意外な方向へと転換した」「演説内容は中国の巨額の対米貿易黒字や知的財産権の侵害への批判だが、同時にキリスト教徒やイスラム教徒、仏教徒すら弾圧している中国当局を厳しく糾弾した。キリスト教徒を弾圧しているのは中国共産党政府であり、イスラム教徒のウイグル人を収容所に集めて中国化の洗脳をしていると明言した。ウイグル人イスラム教徒への弾圧はトランプ大統領の就任前から行われているが、米中貿易戦争の影響もあり、ここ数カ月で英米や日本の主要メディアも取り上げるようになった」「トランプ政権の支持基盤であるキリスト教保守・右派のロビーや団体も、筆者が一八年二月にインタビューした時点では、中東やアフリカでのキリスト教徒への弾圧問題に取り組んでいると強調していた。しかし米中貿易戦争に呼応するかのように、中国当局によるキリスト教会の破壊、信者の拘束・投獄などを主に報告するようになった。さらにウイグル人イスラム教徒への弾圧の情報が強調され、『信仰の自由を認めない中国共産主義を糾弾する』という論調が強まってきている」という。

バランス・オブ・パワーが
東アジアの平和には不可欠

 このコラムにもある通り、新疆ウイグル自治区では大規模な宗教弾圧が行われている。イスラム教徒が多いエリアなのだが、外出すれば顔認証システムの防犯カメラが方々にあり、許可なく行動するといきなり当局によって強制収容所に入れられ、家族が問い合わせても行き先を伝えない。強く聞くと拘束されていることはほのめかされるが、理由や期間、場所については一切わからないという。そのように拘束された人は、百万人どころか二百万人に及ぶと言われ、衛星写真で見る収容所の棟数がどんどん増えている。
 八百万の神を信じる日本人には理解し難いことだが、世界では多くの人々が一神教を信仰し、古代から宗教を巡る争いや悲劇を繰り返してきた。それらに巻き込まれなかった日本は、非常に幸せな国だった。先の大戦から七十四年間、世界の争いや悲劇を日本が感じずに来られたのは東西冷戦のおかげだ。ソ連と中国との地政学的位置から日本を西側のショールームとすべく、冷戦漁夫の利で経済復興を成し遂げることができたことは、日本にとって非常に幸運だった。しかし今、新帝国主義時代となって中国は膨張政策をとり、海洋覇権を獲得すべく、南シナ海や東シナ海に進出している。新聞やテレビ等、日本のマスメディアはこれらをなかなか報じない。なぜなら日中記者交換協定があるために、中国にとって不利益なことを言うと中国に駐在員がいられなくなるためだ。一方中国では、ありもしない南京大虐殺の言及など、日本批判が繰り返されている。そして韓国もまた、従軍慰安婦や徴用工、そして自衛隊哨戒機の威嚇飛行など、ありもしないことをでっち上げ、日本に難癖をつけている。
 中国や韓国、北朝鮮から見ても、日本は素晴らしい国だ。治安が良く、古い歴史と美しい自然を持ち、公共交通機関は時間通り運行され、食べる物も安心して食べることができて美味しく、社会の理念もしっかりと確立されている。このような国を、他国が傘下に収めたいと野望を持つことは、当然想定すべきことだ。そして自国第一主義を強く打ち出すようになったアメリカが、日米安保があるからといって、日本の代わりに戦ってくれるという保証はない。核兵器はもちろん、全体的な軍事力のバランスが崩れた時に戦争となるのであって、日本もバランス・オブ・パワーを維持可能な軍事力を持てるような憲法に変え、さらに日米安保条約を一方的な保護条約ではなく、お互い守り合う双務条約に変える必要がある。安全保障に関して、日本を取り囲む状況は厳しさを増しているのに多くの日本人の認識は甘く、国会では野党が些末なことで騒いで、真に国益を追求するような議論が行われていない。メディアも改憲について無視戦略を取って触れない。これでは日本はあっという間に膨張する中国に飲み込まれ、中国日本自治区として今の新疆ウイグル自治区のような弾圧を受けることになるかもしれない。一刻も早く自分の国は自分で守る体制を日本は作らなければならない。改憲などが進まない状況に、私は昨今焦りを感じ始めている。

2019年2月12日(火) 10時00分校了