社会時評エッセイ

蜜月時代の終わりを迎えたアメリカと中国の関係

藤 誠志

軍事パレードによって野望をさらけだした中国

 アメリカの中国に対する外交姿勢が変わりつつある。2月13日の読売新聞朝刊の国際面には、『米大統領、ダライ・ラマ会談へ』『中国追加報復も』という見出しが踊っている。『オバマ大統領とチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世の会談が十八日に行われることについて、中国外務省は12日の報道官談話で、「誤った決定を直ちに取り消すよう米国側に促す」と明確に会談中止を要求した』『胡錦濤政権は今後、台湾への武器売却決定後に表明した軍事交流停止などに加えて、イランの核問題をめぐる国連安全保障理事会の追加制裁協議で非協調姿勢を貫く、といった新たな報復措置を打ち出すとみられる』『中国筋によると、具体的な追加報復措置としては、国連でのイラン問題協議に低レベルの担当者を出席させて審議に時間をかけ、仮に制裁案が採決にかけられる場合も、「棄権カード」を切る可能性が高いという』。
 8年ぶりの民主党政権となったオバマ政権が誕生して1年数ヶ月が経過した。オバマ氏が大統領となる少し前までは、ファンドバブル真っ只中だった。アメリカはグローバルスタンダードと称して自国に有利な金融制度を他国に押し付け、サブプライムローンといった信用度の低い住宅ローン債権を集めて作った債券に高格付けを付与して世界中に販売、金融の中心として資金を集め、空前の好景気を生み出すことに成功していた。また低利の日本資金を借り、ドルに転換して投資するという「円キャリートレード」が横行し、低利のノンリコースローンを使ってエクイティ(資本)にレバをかけて20倍にも30倍にも膨らました事業を盛んに行なっていた。わずかな利回りでも、全体額の数10分の1にしかならないエクイティに対しては充分な高利回りの利益を上げることができたのだ。このような金融工学を駆使したデリバティブ(金融派生商品)を、世界中の投資家(生保・損保・資産家)にばら撒いていたのだ。
 アメリカやイギリスだけではなく、この時期、中国も2ケタ経済成長を続けていた。北京オリンピックの成功で自信をつけて、一気に大国への階段を駆け上ってきたのだ。従来の先進国主導の時代から、米中二大国の時代になるのではという声も聞かれた。しかし2008年のリーマンショックによって、一気に状況は暗転する。「百年に一度の大不況」が現実のものとなり、住宅価格の下落によってサブプライムローンが破綻、この債権を組み込んだ金融商品も破綻、扱っていたファンドが倒れ、投資していた銀行が倒産し、多くの金融機関に公的資金が投入されることになった。こんな状況の中スタートしたオバマ政権主導下の米中関係は、最初は蜜月時代を満喫しているようだった。アメリカからすれば、米国債の最大の保有国であり、人口13億人という魅力的な市場を持つ中国をないがしろにはできないというところだろう。3年ほど前に中国がアメリカに、太平洋を東西で分割して管理することを提案したと報じられたが、まさにそれが現実となるのも近いのでは?と思えるような、密接な米中関係が続いたのである。

米中、そして日本の関係は今後も混迷を続ける

 昨年10月、訪米していたダライ・ラマとの会談を、オバマ大統領は中国に配慮して先送りにした。翌11月にオバマ大統領はアジア歴訪を行い、日本よりも韓国よりも長く中国に滞在して、蜜月ぶりを見せつけていた。変化が生じたのは、今年に入ってからだ。一月にアメリカ・グーグル社が、中国での事業からの撤退を匂わせたことが、その始まりだった。1月29日には64億ドルにのぼる台湾への武器売却計画が明らかとなり、さらに2月18日にはダライ・ラマとの会談と、中国の神経を逆なでするようなアメリカの行動が続いている。この背景には、中国を巡るさまざまな問題が隠れていると見るべきだろう。
 ひとつは、中国でのバブル崩壊の危険性だ。リーマンショック以降、中国は公共投資をどんどん増やすことで、不況からいち早く立ち直り、株価も上昇してきており、むしろ不動産の高騰など資産バブルの懸念が高まってきている。中国人民銀行は、2月25日から預金準備率を0.5%引き上げ、市中に出回る資金を減らし、バブルを抑え込もうとしている。アメリカやヨーロッパの住宅価格の上昇は2000年頃から顕著となり、ピークだった2006年までの6年間で、価格は2倍に達した。しかしその後の2年間で、30%以上も急激に値を下げ、サブプライムローン破綻を招くことになった。これを見ると、欧米での資産バブルの修正は、ここ数年でかなり進んでいるといえるだろう。同時期に高騰した中国の住宅価格だが、さすがにリーマンショック直後は値を下げたものの、下落はさほどではなく、すぐに上昇トレンドに入ってきている。つまり、中国での資産バブルの清算は、これから行われる可能性が高いのだ。
 もうひとつは、中国台頭のあまりの速さへの牽制だ。冷戦終結後には、アメリカの世界一極支配が永遠に続くと思われていたが、それに水を差したのが「9.11テロ」だった。以降アメリカは、アフガニスタンやイラクなど、イスラム圏で泥沼の戦いを続けることになった。また、それらの地域の包囲網を形成するために、中国やロシアとの関係修復に力を入れてきたのである。一方中国は経済的な成長と同時に、ここ10数年間、毎年10%を超える軍事費の増強を行なってきた。アメリカは1979年に中国と国交を樹立するにあたって台湾との国交を断絶したが、同時に台湾関係法を作って関係が継続することを確認した。この法律は、台湾を国家としては認めないが、中国が侵略・併合することも認めないというアメリカのスタンスを示している。中台の軍事バランスの維持がアメリカの望みであり、それを守るためには武器輸出を行うことも辞さないということだ。米中国交樹立当時は、中国が台湾に侵攻しようと思っても不可能だった。中国は軍事的に劣っており、制海権と制空権を台湾が握っていたからだ。この劣勢を補うために中国は中距離弾道ミサイルを台湾近くの沿海部に配置して脅威を演出、1996年の台湾総統選挙に際しては李登輝優勢を妨害するために、軍事演習やミサイル訓練など威嚇行為を行い、結果アメリカ空母の台湾海峡派遣を招くことになった。しかし現在の中国の海軍力や空軍力は、以前とは比べものにならないぐらい増強されている。原子力潜水艦は台湾海峡から日本近海にまで出没し、航空母艦も保有しようとしている。航空戦力としても第四世代戦闘機を大量に配備して台湾空軍を凌駕、制空権も制海権も今や中国が握っている。
 経済力や軍事力を背景に、中国は大国意識を強め、どんどん高圧的になってきている。アメリカはこんな中国に対して、「まだ米中二強時代には早い」とお灸を据える意味で、台湾に武器輸出を行なって軍事バランスを回復させたり、ダライ・ラマとの会談を決めたりしたのだろう。民主党政権に期待をした胡錦濤は、共和党政権に逆戻りしたような思いを抱いているかもしれない。日本もここで現状認識をしっかりと持つべきだ。国防のことを一切考えずに経済発展だけに熱中していればよかったのは、冷戦終結前までである。日米同盟があれば日本防衛は大丈夫などと、アメリカを信頼しすぎてはいけない。かつての世界最強国アメリカは、軍事的にも経済的にも衰えてきている。アメリカと中国、そして日本の関係をきっちり見据えていないと、日本は取り返しのつかない過ちを犯すことになるだろう。

日本文明のルーツは縄文時代にある

 先日、千葉大学名誉教授・清水馨八郎氏から『今世界が注目する「日本文明」の真価』という著作を送っていただいた。その中の『世界最古にして、高度な文明を築いてきた縄文時代』という一節を引用する。『「古事記」、「日本書紀」によると、日本の歴史は神代を経て初代神武天皇の即位に始まり、今日に続いていることになっている。ところが近年、考古学上の新発見や研究により、今から一万年以上前の縄文時代の重要性がにわかにクローズアップされ、日本文明の核心部分をなす根底は、その長い縄文時代にすでに形成されていたものであるらしいことが明らかになってきた』『最近、青森県の蟹田町の大平山元遺跡から、16500年前という世界最古の縄文式土器が発見された。またすでに発掘された三内丸山遺跡の土器や柱の発見や、古代人が岩石に刻んだ文字から判定するペトログラフの研究(吉田信啓著「神字日文解」中央アート社刊)、記紀の数百年前の日本史を記録したとされる「秀真伝」(松本善之助著「ホツマツタヘ」毎日新聞社刊)の分析などから、日本の先史時代に相当に高度な文化が存在していた可能性が高まってきた』『先頃岡山市朝寝鼻貝塚の縄文前期の地層から稲の化石が発見され、日本には約6000年前にすでに稲作が行われていた可能性があることが分かった』『鋳方貞亮教授の「日本古代穀物史の研究」(吉川弘文館)によると、「稲は日本で自生していたものを改良し、これを東北アジア一帯のジャポニカ種の稲として、その耕作方法を大陸に伝えることができたのである」とのことである。従来の説では稲は外国から学んだことになっているが、逆だったという指摘であって、今度の発見はこの説を裏づけることになった』『また、民族の文化・精神の根源であると同時に縮図ともいうべき日本語が、近隣諸国のどこにも仲間がない独立した固有の言葉であることは、日本語もまた、神道やジャポニカ稲と同じように、先史民族の中に自然に内発したもので、外来のどの文明からも教えられたものではない、神ながらの文化であることを示している』『この神ながらの精神文化は、「人類文明の化石」ともいうべきものである。その神代のままの文化が、歴史につながり、現代に連続しているのは、世界で日本だけである』『してみると、日本文明こそ「人類文明の秘宝」とし、大切にしなければならない。この人類の原初文明の形をそのまま保存した文明こそ、これからの世界の破局を救済することができるのだ。日本文明にこそ、その「使命」が与えられているのである』。

人類が持つ根本的な良さを日本文明は保存してきた

 さらに清水氏は、19世紀の「パックス・ブリタニカ」、20世紀の「パックス・アメリカーナ」に続いて、21世紀は「パックス・ジャポニカ」にならなければ…という。近代史を見ても、日本はいち早く人種平等を主張して、日清、日露、さらに二度の大戦を戦うことで、西欧諸国による植民地支配を打ち破り、今日のように多くの国が独立し、アメリカに黒人大統領が誕生する世界を生み出す原動力となった。また温暖で住みやすく、四方を海に囲われた日本は、さながら「文明のガラパゴス」だ。本来人類が持っていた「和を以て貴しと為す」という精神が、今でも息づいている。一方砂漠という苛酷な環境の中で生まれたユダヤ教やキリスト教、イスラム教などの一神教の文明は異教徒・異文化に対して厳しく、西欧諸国はその影響で戦争を繰り返し、行き着いた先が原子爆弾だった。今の世界がまさに、「アインシュタインの予言」にある『最後の戦いに疲れるとき』ではないだろうか。予言はその後、こう続く。『世界の文化はアジアに始まって、アジアに帰る。それにはアジアの高峯、日本に立ち戻らねばならない。われわれは神に感謝する。われわれに日本という尊い国をつくっておいてくれたことを』。その予言通りなのか、お寿司や着物、華道、茶道、おもてなしの心など、世界は日本文化ブームだ。地政学的にも優位性を持つ土地で育った日本文明は、世界の他のどの文明とも異なり、政治学者のサミュエル・ハンティントン氏も、著書『文明の衝突』で、独立した文明として分類しているほどだ。そしてその日本文明の中心にあるのが、万世一系の天皇家である。
 一方的に他者を批難することはせず、常に自分も責任の一端があると感じるのも、日本文化の特徴だ。先の大戦における日本の行動に関しては、この特徴を中国や韓国に逆手にとられ、責められ続けている。人類が本来持つ「和の心」を利用する中国・韓国は、あたかもガラパゴスの自然を荒らした西欧人のような存在だ。日本人も、奥ゆかしさから反論しないという態度を、そろそろ捨て去るべきだろう。大局的に歴史を見直し、日本に誇りと自信を取り戻す。そして21世紀をパックス・ジャポニカ、すなわち日本の世紀として和の精神を広めることが、世界の平和につながるのではないか。私は今、強くそう感じている。