BIGTALK

真実を伝えるべく
アカデミズムと
メディアにゲリラ戦を
Vol.342[2020年1月号]

文藝評論家 小川榮太郎
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APAグループ代表 元谷外志雄

昨年の第一回アパ日本再興大賞では特別賞を、今年の第十二回「真の近現代史観」懸賞論文では社会人部門の優秀賞を獲得した文藝評論家の小川榮太郎氏。これまでも日本人に対して数々の提言を行ってきた小川氏に、大幅な人口減少を迎える日本において、保守は何を担うべきなのか等をお聞きしました。

小川 榮太郎氏

1967年生まれ。大阪大学文学部美学科(音楽学専攻)、埼玉大学大学院修士課程修了。大学在学中に文芸同人誌「一粒の麥」を発刊・主宰し、文芸批評や社会批評を多数発表。2003年遠山一行の推薦により文藝誌「新潮」編集部に寄稿した「川端康成の『古都』」が、第三十五回新潮新人賞・評論部門の最終候補作となる。現在は文藝評論家として活躍、専門は近代日本文學、十九世紀ドイツ音楽。また一般社団法人日本平和学研究所理事長としての活動も行う。受賞歴は、フジサンケイグループ主催第十八回正論新風賞、第一回アパ日本再興大賞特別賞。『平成記』(青林堂)など著書多数。

中国と北の脅威が増す中
日本人に危機感がない

元谷 今日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。今年の第十二回「真の近現代史観」懸賞論文において、小川さんの論文「令和日本―國體が耀く時代をどう作るか」が社会人部門の優秀賞となりました。おめでとうございます。

小川 ありがとうございます。

元谷 小川さんは多くの文章を著すことで、日本の方向性を常に明確に示してきていて、私はその言論活動に敬意を抱いています。どういうきっかけで、今のような文筆活動に入ったのでしょうか。

小川 私は元々文学と音楽を学んでいて、文学者になるか音楽家になるかとなって、文学を選びました。夏目漱石や森鴎外、小林秀雄や三島由紀夫等の近代日本の文学者の仕事に憧れて、それを継ぎたいと考えたのです。しかし私が大学生の時に御代替わりがあり、その頃から急激に日本社会が変質します。文壇も、それまでは伝統的な技術を受け継いだ上で新しいものを作っていたのが、技術も才能もない人がいきなり作家として注目を集めるようになりました。言葉の在り方も変わり、私が本来ついていくつもりでいた文壇が消えそうになってきた。私は旧来のものを死守するつもりで、大学時代より純文学と音楽の評論を書き続けてきました。世に出るきっかけとなったのは、民主党政権時代に起きた東日本大震災です。このままでは日本が終わるという危機感の中、仲間達と語る内に政権交代を望むのであれば具体的に誰かを推さなければ、であれば安倍晋三氏しかいないだろうとなったのです。そこで私は、最初に本になった『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)を二〇一二年九月に上梓して安倍首相待望論を打ち出し、その直後の自民党総裁選で実際に安倍総裁が誕生しました。その流れでまずは政治的な保守論壇に書くようになり、その後専門である文学や音楽の評論も発表するようになって、今に至ります。

元谷 私は安倍首相再登板が日本を救ったと考えています。東日本大震災直後の危機感は私にもあり、そこに小川さんが明確な方向性を示したことが、安倍首相誕生の一助となったのは確かでしょう。さらに今、一部の人々が他から搾取することで成り立っている中国が軍拡で膨張を続け、北朝鮮が核兵器を保有するようになり、日本に対する脅威が強まっています。これらに対抗するためには、憲法に自衛隊を明記するだけではなく、第九条第二項の撤廃まで行って、日本を真っ当な軍備を持つ国にしなければなりません。それには二回の改憲が必要であり、安倍首相の後二年の任期では間に合いません。安倍さんには是非総裁四選で二〇二四年まで首相を続けて、二回の改憲を実現してもらいたい。アメリカのトランプ大統領も再選されれば同じ二〇二四年までの任期になります。この間日米が協力して中国と北朝鮮に対峙すべきなのですが、アメリカも核を手に入れた北朝鮮には迂闊に手出しができず、米朝協議を行う等立場が対等になってしまっています。そんな危うい状況なのに、多くの日本国民に危機感がありません。

小川 金正恩委員長は明確な目標を持って核を保有、貧乏国でありながら、核によって超大国の向こうを張っているのです。しかし北朝鮮の最大の仮想敵国はやはり中国です。今、中国が北朝鮮に強硬姿勢を打ち出せないのは、北朝鮮の核ミサイルはアメリカには届きませんが、北京は確実に攻撃できるからです。

元谷 二〇〇四年の北朝鮮の龍川駅の列車爆破は、核開発を止めない金正日を狙った中国による暗殺未遂でした。この後金正日は身を守るために核開発を加速、不完全ながらも二〇〇六年に核実験に成功します。そもそも北の核は対中国向けのものなのです。

小川 高句麗の時代から朝鮮半島北部と中国は戦火を交え、朝鮮が勝利することもありました。この二国の関係は海を隔てた日本とよりも激しいものがあります。

元谷 北朝鮮と中国の関係を良好なものと見誤っているメディアが多いですが、そもそも国境を接する国は仲が悪い。同じ社会主義国だった中国とソ連も、一九六九年にダマンスキー島の領有権を巡って戦っています。日本はこれまでは周囲を海で囲まれていることに助けられてきました。また世界最強の深深度で活動できる潜水艦隊を持つ海上自衛隊の存在も、日本の安全保障に大きな役割を果たしてきました。しかし今弾道ミサイルを撃たれれば海を越えて十数分で日本に着弾します。海の恩恵が技術革新に侵されようとしているのです。それに対する日本人の防衛意識が低い。

小川 海に囲まれていて、古代から対外的な危機と言えば白村江の戦いの頃と十三世紀後半の元寇ぐらいで、あとは近代の大日本帝国までありません。伝統的に対外危機への感度が皆無なのでしょう。

幕末・明治維新において
強い求心力だった天皇

元谷 元寇は神風で勝ったとされていますが、それ以前に日本の武器が優れていたという分析があります。騎馬民族の扱いやすいが射程の短い弓に対して、日本は射程の長い弓を使用して、蒙古軍を上陸させなかった。その結果神風で大損害を与えることができたというものです。

小川 また戦い自体も藤原時代であればとても対応できなかったはずで、鎌倉幕府という武家政権があってこその反撃でした。鎌倉時代以降八百年以上日本では武家政権が続くのですが、決して民度が下がることもなく、日本を海外の植民地にすることもありませんでした。その武家政権の意識をそのまま近代国家にしたのが大日本帝国だったのです。国防意識が非常に高かった。反面今の日本は、一切対外的な危機はあり得ないという藤原時代の意識と同じです。この意識に誘導しているのが日本のマスメディアでしょう。

元谷 武家政権はキリスト教に対しても、野放しにしていては内部から植民地化されると、早い段階で禁止しました。そして鎖国時代でもきちんと諸外国の動向には注意していました。

小川 幕末でも一八五三年のペリー来航の半世紀前から水戸藩や薩摩藩、そして洋学者らが国防に関して相当な危機感を持っていました。一八四〇年の阿片戦争は彼らにとっては驚きではなく当然のことであり、西欧列強の脅威に焦燥感を募らせたはずです。また一七八〇年に即位した光格天皇は諡に院号ではなく天皇号を復活、大嘗祭を古式に戻し、日本書紀等の国史を大切にする改革を行い、尊王意識を高めました。それが水戸藩や薩摩藩、長州藩に伝わり、このエネルギーが近代国家・日本を築いた明治維新の原動力となったのです。しかし今、この尊王意識が論壇だけではなく、根深いところから切り崩されようとしています。

元谷 尊王意識の高まりによる影響は大きかったですね。薩摩藩と長州藩の二藩だけですから、幕府が他藩をまとめて対抗すれば、負けるはずがなかった。しかし薩長が官軍として錦の御旗を掲げていったことで江戸城の無血開城となり、明治政府が作られます。その結果日本は薩長による歴史観が続くことになります。世界中どこでも同じですが、歴史は勝者が築くものなのです。

小川 速やかに大政奉還が行われたのですが、この背景には大政委任論がありました。鎌倉から足利、織田、豊臣、そして徳川に至るまで、常に天皇から将軍が国政を委任されるという伝統が守られていたからこそ、封建諸侯が数多ある中、大政奉還を無事に行うことができたのです。

元谷 やはりそこは天皇が求心力となったということでしょう。私が常々面白いと感じているのは、京都御所が大阪城のような要塞ではなく、単なるお屋敷であることです。防御の施設が全くない国王の施設など、世界の歴史上例がありません。

小川 一番無防備な時には、御所に浮浪者が平然と入っていたと言われています。私は今、日本の歴史についての本を書き始めています。歴代天皇に権力があったのは奈良時代から平安初期までで、その後は藤原家の摂関政治となり、一千年以上権力から遠ざかります。その間天皇は、天照大御神から預かった国を守るために祈り続けてきたのです。財政的に厳しい時代もこの一念で繋がれてきた家柄なのです。このような家系は世界に類を見ません。奇跡だと思います。

元谷 また、男系のみで血統を繋いできたことも重視すべきです。小泉政権や民主党政権では、女性天皇や女性宮家を容認する議論がありましたが…。

小川 問題は女性天皇容認と言いながら、実は男系の流れを断ち切る策謀をしている勢力があることです。男系は絶対に譲ってはいけません。

戦後の安保の積み重ねで
今の日本は平和を維持

元谷 男系は男女平等とは全く別の概念です。日本に合う制度は無くしてはいけません。大家族制度もその一つです。戦後は平等相続の影響もあって家族がばらばらになりがちですが、戦前の家督制度を復活させれば、家を継ぐ家長を中心に、家族を維持することができます。

小川 この問題は世界共通で、欧米のキリスト教世界でも家族単位での信仰が重視されてきました。しかし個人主義の跋扈で従来の宗教観が崩れてきています。そもそも家族なしに個人というものはありません。なぜなら人間は言葉の習得で動物から人になるのですが、言葉は周囲から学ぶ以外には習得できないからです。つまりまず家族や共同体があって、そして個人があるということです。しかし今の日本では、家族親族という血縁共同体、地域の共同体、そして会社という共同体の全てが崩れつつあります。共同体が無くなった先に待つのは孤独のみです。

元谷 私は最悪の死に方は孤独死だと考えています。実態がわからず、人数も公表されていませんが、相当な数になるのではないでしょうか。

小川 個人主義が孤独死を大量に生むとするならば、これはそもそも個人主義が大切にしてきた個人の尊厳が守られないことになります。大いなる矛盾ですよ。素直に個人主義の欠点を認めるべきなのですが、ここに立ちはだかるのがアカデミズムとメディアです。彼らにとっての宗教だったマルクス主義は破綻しましたが、個人主義や平等の主張には誰も反論できない。そうやって人間にとって大事な共同体を潰そうとしてきました。

元谷 私は偏差値教育も家族分断の一因だと考えています。偏差値の高い大学への進学を求めるから、長男は東京、長女は京都、父親は単身赴任で家には母親だけという家庭が生まれるのです。四人家族が四人ばらばらに暮らしていては、いくら収入が高くても豊かな暮らしは望めません。もっと地域の大学の魅力を上げて、地域で学び就職する流れを作って、東京一極集中という過疎と過密を同時に生み出す流れを断ち切るべきでしょう。アメリカではGAFAと呼ばれるIT企業が地方に誕生しています。ただ、私にとっても東京に本社を移転してから事業が拡大しましたから、地方の方が有利な税制等国家的な政策がないと、東京一極集中を阻むのは難しいと感じています。これだけ交通網や通信網が発達しても、やはり実際に触れ合うメリットが大きいですね。

小川 安全保障の面では強力な東京の存在は必要なのですが、他の面では確かに代表の仰る通りです。日本は今後四十年で人口が四千万人減り、日本中で人のいない空間が生まれます。現在のように国籍に関係なく土地が購入可能なままでは、外国人の土地購入によって、日本は軍事侵攻がなくてもシロアリに喰われるように他国に乗っ取られてしまいます。

元谷 確かに中国はチベットやモンゴルの自治区にどんどん漢民族を送り込んで、地域の民族構成を変えて「漢化」することで、政治的な安定を図っています。日本も仰るようなことに警戒すべきでしょう。安全保障の観点で言えば、私は地方空港を軍事拠点化するべきだと考えています。地方空港は海側にあることが多く、立地が防衛に適しています。地下に大きな格納庫を設け、そこに武器を蓄えて有事に備えるのです。平和な時こそ備えをしっかりと。平和を享受しすぎて、何も起こらないと思い込むことが一番の問題です。

小川 戦後一貫として、自民党歴代政権が日米安保等日本の安全保障のために最大限の手を打ってきました。何か軍事的な動きがあればすぐに「軍国主義」とレッテル貼りする等、延々メディアや教育現場で防衛努力を叩かれてきた割には、潜在的な軍事能力をキープし続けてきた。この積み重ねで日本の安全は守られています。決して報道されることのないこの事実をどうやって国民に伝え、意識を変えるか。メディアがマイクを独占している以上、安倍首相も代表も、そして私もゲリラ戦しかありません。

元谷 その通りです。

小川 日本とアメリカ、オーストラリアとインドの四カ国は非公式な四カ国同盟関係にあり、ここにさらにフランスとイギリスが加わろうとしています。このことを本当は安全保障の問題として国民が知るべきなのですが、安倍首相が事実を表明するだけで大騒ぎになるでしょう。保守側の国民一人ひとりの意識を変える運動は増えていますが、その拠点となる出版社が失われつつあります。左翼全盛の昭和戦後にあっても高い評価を受けた文学者の多くは保守なのですが、それを支えた文藝春秋と新潮社が、文春は「諸君!」、新潮は「新潮45」の休刊でリベラル化を決定的な社風にしてしまった。さらに産経新聞の経営も厳しく、保守の重要な三つの紙媒体が地盤沈下しています。そもそも日本のメディアは出版から新聞、地上波・BSのテレビまで限られた資本が牛耳っています。これは欧米ではありえません。

元谷 欧米では法律で禁止されていますよね。

小川 その通り。例えばアメリカでは、新聞がそのエリア内の放送局を保有することを禁じています。

元谷 また朝日新聞からクレームが来ることを恐れて、他の新聞が記事の書き方に気を付けると言います。小川さんも受けて立っていますが、朝日新聞はスラップ訴訟で高額の賠償を求め、他の言論を封殺しようとすることでも有名。困った問題です。

小川 朝日新聞の記者自身が、ウチが記事にしたら事件になると豪語していますから。その通りに朝日新聞が出したガセネタで日本中が大騒動になったのが、森友・加計事件です。

王政を捨てた欧州は没落
天皇支持が増える日本

元谷 しかしその朝日新聞も含め、紙媒体の弱体化は止めようがありません。若い人はもうネットしか見ませんから。

小川 ここで保守が足並みを揃えないと。文藝春秋や新潮社等の出版社がしっかりしていた時には、人々は筋が通った、それでいてバラエティに富んだ意見を読む傾向があったのです。しかし今人々はネット上の断片的な情報しか読まない。ネット上では朝日新聞等オールドメディアの情報は、すでにフェイクニュース扱いです。しかしアクセスが多ければ真実になるネットは、中国共産党が日本社会に影響を与えるには恰好のメディアです。既にどれくらい日本のネット社会に中国の細胞が入り込み、情報コントロールを行っているのかは、誰にもわかりません。

元谷 私は三千億円の予算で三千人の人員を配置した情報省を創設して、諸外国の日本に関する報道の間違いを指摘するだけではなく、国内の情報防衛を行うべきだと考えています。

小川 実際中国は、アメリカの大学や研究所、行政機関や映画産業に人を送り込み、情報搾取を行っていますから。

元谷 日本もかなり搾取されています。トランプ大統領は気が付いて今は防御していますが、オバマ大統領時代までは野放しでした。かつて中国は豊かになれば民主化すると思われていましたが、それは幻想でした。結果あのようなモンスターを作り上げることになってしまった。

小川 ソ連が誕生した時も、マルクス主義を信奉していたヨーロッパの知識人は革命を支持しました。

元谷 インテリほど革新的な思想に嵌りやすいのです。日本でも中国の文化大革命がバラ色に語られた時期がありました。

小川 考えてみると、一般庶民が粛々と社会を支えているのに、インテリがそれをぐちゃぐちゃにしているのではないかと。自然科学の発達のおかげで世の中は進歩していますが、一方政治思想や社会思想について、この二百年間インテリはミスしかしていないとさえ言いたいですね。階級闘争史観も誤りです。ヨーロッパが駄目になったのは、第一次世界大戦後にほとんどの王朝が無くなってしまい、国の骨格が失われたからです。階層なき社会は嘘であり、新しい権力者ほど不穏なものはありません。実際終戦直後は悪く言われることが多かった天皇ですが、今は天皇を敬う人が非常に多くなっています。これは日本が危機に瀕しているという理由もあるのですが。

元谷 天皇を中心とする安定した国家体制が、まだ維持できているということでしょう。これをベースに日本人は大乗仏教を受け入れ、キリスト教は排除、中国から様々な文化を学びますが、纏足や宦官は真似しませんでした。ちゃんと取捨選択ができているのです。

小川 選択については、日本人はインテリの「知恵」ではなく庶民の「感覚」を優先してきた民族です。江戸時代でも治世者は学者の言うことを鵜呑みにはしませんでした。しかし現代はインテリのアカデミズムとメディアがつるんで世論に影響を与えています。

元谷 メディアの恣意的な報道や世論調査に惑わされず、日本人一人ひとりが自分の感性を大事にできるような社会になるべきですね。今日は非常に中身の濃い対談になりました。最後にいつも「若い人に一言」を聞いているのですが。

小川 日本の歴史と文学を勉強して欲しい。特に歴史には偏ったものが多いので、注意して正しい歴史を選ぶことが大事です。重要なポイントは、日本は天皇によって一体感を得てきた強い国であること。それに加えて申し上げたいのはネガティブな歴史観は間違っているという事ですね。

元谷 最近私が気になるのは、天皇家のことがあたかも親戚や近所の知り合いのように報道され、語られることです。もっと神秘性があっても良いのではないでしょうか。

小川 私も同感です。

元谷 この天皇を中心とした歴史ある国体を、長く守り続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。

対談日 2019年10月8日